一匹狼の捜査

 赤い点灯は徐々に増えていき、一定の数に達すると消え、再び点灯する。どうやら時系列順に攻撃された現場を表しているようだ。


 「とりわけ騒ぎになっているここ、東京へ続く高速道路。まずはこの場所から洗うとしましょう」


 「あぁ、調査に必要な物や人手がいる時は言ってくれ。すぐに手配しよう」


 「ありがとうございます、助かります」


 それはシン達が襲撃を受けた高速道路だった。敵勢力のものと思われる機械獣に襲われた際、警備用ドローンも飛んでいた。瑜那のハッキングにより一時的なアクセス権限を保有したシン達。


 勿論、その際のデータは削除したが完全には消せてはいなかったのだ。雫はそのデータを改竄していた。警察の者達の手に渡らせぬ為に。


 彼女がそんなことをする理由は一つしかない。命の恩人で憧れの先輩である明庵の調査のためだった。


 だがそのデータは、雫のような一般の者がいくら解析しようと、何者によってハッキングされたのか、どんなデバイスからアクセスされたのか。それら一切の詳細を見つけることが出来なかった。


 そんな不可思議な事件や手掛かりがあれば、明庵に見せるのが彼女の恒例となっていた。無論、データを持ち出すのは違反行為であり、契約の打ち切りや懲戒免職も十分にあり得る。


 彼女はそのまま会議室を後にしトイレへ向かうと、持ち込んでいた自身のPCを取り出し明庵に先程のデータと、現場の露払いをしておいたという報告を入れる。


 既に現場へと向かっていた明庵は、雫からのメッセージに気づく。また自身の立場を利用し危険なことをしているのかと、大きなため息を吐きながら自動運転の車両に身体を揺らされる。


 事件現場に近づくにつれ、窓の外が明るくなってくる。火は完全に鎮火してはいないが、シン達がいた時に比べると大分収まりつつある。


 作業のほとんどはアンドロイドやドローンによって行われており、朱影がバイクを奪うために高速道路に置き去りにした運転手は、無事に病院へと搬送されていた。


 「貴方はサイバーエージェントの・・・。どうぞ、お入り下さい」


 「あぁ、ありがとう」


 現場に到着した明庵を迎えたのは、末端の警察関係者であり、サイバー犯罪対策課の者達はその場にいなかった。雫が行った露払いとはこういうことなのだろう。


 対策課の者がいれば、捜査の邪魔をする明庵の存在をあまり良く思わない筈。そうなれば彼の調査は滞り、思うような結果を得ることが出来ない。明庵は、まるで雫っを利用しているように感じてしまい、気が引けてしまっていたが、それでも自身の追う不可視の存在を確かめる為、自作のドローンを現場に飛ばす。


 事件現場を歩きながら、ドローンの反応に注視する明庵。崩壊した道路に近づくにつれ、細かな反応が増えて来ていた。だがそれらは、単体では謎を解き明かすには至らない。


 シンや瑜那らが使ったワイヤーの跡が、車やアスファルトに刻まれている。それにところどこと、何かが破裂したような穴が空いている。これは朱影の槍による攻撃の跡なのだが、この現代においてそのような物で付けられた跡なのだと、想像が至ることの方が難しい。


 「細かな傷跡だな・・・。一体何によるものだ?」


 明庵は道路に刻まれた痕跡をスマートフォンのカメラで撮ると、それを武器マニアの知人へ送り、何によってつけられた跡なのかを探る。同時に同じ写真を雫へ送り、警察組織の現場検証を行う鑑識官に掛け合ってもらうよう依頼する。


 そして、分断された箇所にまでやってくると、道路の下の方へドローンを移動させ、崩落の原因いついて探る。そこでドローンが捉えたのは、またしても不可視のものによってつけられた跡だった。


 高速道路を崩落させたのは、現実世界の爆薬ではなく、シン達のスキルと同様に一般人には目にすることも出来ない、能力によって引き起こされた物だったのだ。

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