違い
大きな音に驚いたのか、最初に二人を襲った大型の何かが、シンの投げたゴミ袋の方へ飛び出していった。当初想定していた展開とは、大きく異なった動きを見せたモンスター達。
シンの予想は、あくまで朱影を付け狙う小型のモンスターをターゲットにして行った行動であり、最初に姿を見せた大型の何かは全く蚊帳の外の存在だったのだ。
現に、初動しか動きはなく、それ以降はずっと水中に潜んでいた。危険視するのなら、現状彼らを襲っている小型のモンスターを優先するのは当然の流れだった。
言うなれば、大きな問題事よりも、目の前に迫った細かな問題事を処理していくようなイメージだ。
「なッ・・・!何で急に反応した!?」
大型の何かに奪われた視線を強引に引き剥がし、朱影の方へ向かっていた小型のモンスターの動向を伺うシン。しかし、小さなソレらはシンの立てた大きな音になど反応することもなく、朱影を襲い続けていたのだ。
再び視線を大きな何かの方へ移すと、ソレは既に身体の半分以上を水中に隠していた。大きな水飛沫を周囲に撒き散らしながら、その大きな身体で起こした下水の大波が二人を襲う。
「しまっ・・・!」
「おいおいッ!こんな狭い場所じゃぁ・・・!!」
朱影は大きく飛び退き、天井に槍を投げ放つと、突き刺さった槍を掴み取って大波から流されまいと耐える。少しでも高いところであれば、波の勢いに飲まれないのではないかと思ってのことだった。
一方のシンは、自身のスキルにより壁の影の中へ飛び込むと、波のピークが去った場所へと瞬時に移動を開始した。
全くの無傷でやり過ごせた訳ではない。あくまで波のピークを避けただけで、シンは余波によって通路から押し流された。
「うぐ・・・!」
「おいッ!・・・あぁ、くそッ・・・!」
流されていくシンを見つけるも、朱影自身も助けに行けるような状況にはなかった。
彼を付け狙っていた小型のモンスターも、大型の何かが起こした大波に押し流されていたが、波の勢いが弱まるとまるで魚のように巧みに泳ぎ、彼のいた場所へ集まってきていたのだ。
「ギギ・・・ギギギ・・・」
だが不思議なことに、小型のモンスター達は何かを探すかのように周囲を泳ぎ、天井にで槍に掴まる朱影を襲おうとはしなかったのだ。
「何だ・・・何やってんだアイツら?」
一方、波に攫われたシンは、何処かに掴まろうとするも壁の縁や床は、カビや苔による滑りで掴むことが出来ない。
そこで視界に入ったのは、通路を塞ぐために設けられた鉄柵だった。あそこなら流される身体を止めることができると、意を決して下水の中を泳ぐ。
水の汚さに躊躇いもあったが、生身の時とは違い目を開けることが出来たのだ。確かに視界はボヤけているが、それでもある程度の方向を確かめることが出来るのは大きい。
流れに押し流されまいと、鉄柵に足を掛けようとするが、ここにも酷い滑りがあり滑ってしまう。
全身を鉄柵に押し付けられるシン。だが、これでこれ以上朱影のいる場所から離されずに済む。
直ぐに波は収まり、シンの身体は床にべちゃりと落とされる。呼吸を整えつつ身体を起こすシンだったが、水路から何か大きなものが彼の元へ向かって来ていた。
そのサイズ感から、大凡の予想はつく。シンに向かって来ているのは、二人を襲った最初の怪物に違いない。
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