頼りの能力

 大通りから外れ、ビル群の間を縫うように進んでいく。妙に人気のない道を選ぶことに違和感を感じたシンが、操縦席に座る朱影に質問をした。


 「なぁ、何でさっきからこんなに狭い道を?目立たない為か?」


 シンはまた、強い口調で罵られるような返答をされるのではないかと思っていたが、彼は意外にも落ち着いた様子で丁寧に答えてくれた。ただ、それはそれで不気味でもあった。


 これまで共に行動してきて、彼の気性の荒さは十分に分かったつもりでいた。それがこうも大人しいと、これからの行動にそれだけ慎重になっているのか。或いは電力施設へ向かうのは、それだけ困難なことなのだろうかと、シンの思考を働かせた。


 「まぁ、それもある。敵さんが俺らを追っているのは、高速の時点で嫌というほど分かったことだ。これから何かしでかそうって場所で、邪魔者を入れないようにしてない筈がないからな」


 彼らの命を狙う者達は、少数ではなくそれなりに頭数のある組織であると、白獅や朱影、それに瑜那も予想して動いている。その組織のアジトが東京にあるのかは分からないが、注目度の高い都心で何か事を起こそうとするのなら、それなりに準備はしてきている筈。


 電力を落とすことが、その作戦の一部でしかないにしても、それに釣られて集まる警察組織以外の者達を見逃すまいと、罠を張っている可能性は十分に考えられる。


 もしかしたら、相手側もシンや白獅らのようなアサシンギルド以外に、どんな敵が潜んでいるのか分かっていないのかもしれない。それならば、この騒ぎに集まる者達を見分ける為の罠としては、十分効果的なものであるのは確かだ。


 現にシン達は、警察や施設関係者による復旧作業を待っていられずに、こうして現地に訪れている。


 相手は復旧にどれだけ時間が掛かるかを計算してきているのだ。それが早く復旧されるようなことがあれば、自身らや警察などの現実世界の組織以外の存在が手を加えているのに他ならない。


 「俺達は、施設の裏口から侵入する」


 「それは・・・あの時のビルみたいに、俺達にしか見えない別の通路があるってことなのか?」


 シンの質問は最もなことだった。現実の世界に実在する扉を開けば、それは警察や施設の警備員の者達にも見られてしまう。


 かといって、シンが現実の世界に戻ってきた建物のように、見えざるアジトや通路のようなものがなければ、何もない空間をただ通るなんてことは出来ない。


 例外として、何らかのスキルによる移動であれば可能かもしれないが、シンの影を使う移動術は、目的地に自身の影の一部を送り込む必要がある為、初見の場所には移動出来ない。


 瑜那や宵命のように透過のスキルなら出来るのかもしれないが、果たして本人達以外の者に付与できるような利便性のあるものであるのかは、この段階のシンには分からないことだ。


 「いや、それとは少し違う。あくまで移動するのは、本物の通路だ。だからこいつらの透過が必要って訳だ」


 「透過は俺達も可能なのか?」


 「残念ながらそんなに都合のいい代物じゃぁねぇ。だろ?」


 そう言って少年に話を振った男は、シンに答えてやれと言っているかのような視線を向けていた。少年らのスキルについては、話に聞いたし実際にも目にする機会はあった。


 だが、その実際の能力や効果について詳しくは知らない。どこまでの範囲で対象となる人物や物は何なのか。これから隠密の潜入を行うのであれば、主力となる彼の能力を知らないままにはしておけないだろう。


 「え・・・?まぁ、そうっスね。何でもかんでもって訳には・・・」


 普段とは違い、勢いのない返答に驚いた表情を浮かべるシン。一体何が彼を落ちこましているのかと思ったが、宵命の視線の先を見て、直ぐにその原因が分かった。


 彼は瑜那が心配だったのだ。呼吸はあるものの、高速道路にいた時と比べやや汗をかいているようだ。病や怪我というものは、素人には全く分からないものであるが為、この症状が危険な状態であるのか問題ない症状であるのか、全く予想がつかない。


 せめて、朱影が言っていたようなWoFの回復アイテムが入手できれば、少しは安心できるのだが。


 「・・・まぁ、心配っちゃぁ心配か。だが、もう少しで目的の場所に着く。そしたら施設までの道中で、モンスターの数体でも狩ってアイテムが落ちるのを期待するしかねぇな。最優先は電力の復旧だ、いいな?」


 宵命もそれは重々承知の上のようだ。いつもの元気はないが、黙って朱影の言葉に頭を縦に振った。


 うねうねと路地を進んだ先で、シン達を乗せた車が止まる。だが、そこには施設と呼べるような建物は見えない。何処かに裏道や抜け道でもあるのだろうか。

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