追跡者

 慎達を乗せた車は白獅をアジトに残し、整備された道路へと乗り出し、東京のセントラルにある電気施設を目指す。


 アスファルトの上をタイヤが駆け抜ける音がする。辺りは真っ暗で街灯も点いておらず、道の片隅にはあちらこちらに他の車が止まり、電気の復旧を待っているようだった。


 車内は終始無言の状態で、朱影ら他のアサシンギルドの面々との面識もなかった慎には、特に話すこともなくただ気まずい雰囲気のまま時間だけが過ぎていく。


 幸い四人それぞれが窓から外を見れる状態であるのが、唯一の救いだった。流れる景色を見ていれば、少しは気も紛れる。それも暗くてはっきりとは見えなかったが、その中に人がいることを示唆する光が、まるで星空のように点々と輝いて見えた。


 「何が悲しくて、野郎共だけでドライブなんかしてんだか・・・」


 「いいじゃないですか、たまには。僕はこういった、ゆったり景色を見ながら移動するのも好きですよ?」


 常に瑜那と共に口を開いていたイメージのある宵命は、食い入るように窓から顔を出し、外の景色を口を開けて堪能していた。


 「まぁ、徒歩よりはマシか。動かなくて済むのだけはいい点だな」


 「寝るんですか?折角落ち着いた街並みを見れるチャンスなのに・・・」


 「ジジくせぇ事言うなよ・・・」


 すると朱影は、車に取り付けられたモニターに触れ、目的地への到着時間を調べると、目覚ましをセットし眠りについた。


 宵命の開けた窓から、心地の良い風が車の中へと入り込む。朱影と話をしていた瑜那も、外の景色を楽しみつつ再び口を紡いだ。


 彼らを乗せた車は、暫くすると高層道路へと入っていく。電気は途絶えているが、高速にはそれでも多くの車が行き交っていた。


 渋滞が起きる程ではないが普段の高速とは違い、速度が限られておりまばらに何台かの車がライトをつけて走っている。


 景色を楽しんでいた少年らは、外の光景がほとんど変わらなくなったのを見て、機嫌を損ねたのか静かに寝息を立てる朱影と同じように椅子に凭れ掛かり、睡眠の態勢に入ろうとしていた。


 「何だよ、景色が変わんなくなっちまった・・・」

 「暫くはこれ、続くよ。僕らも休息をとっとこ」


 慎に対し、最も有効的に接してくれるであろう瑜那は、それでも尚、外の景色に視線を送る慎に言葉をかける。


 「貴方も、少し休んでおいた方がいいですよ?」


 思わぬ声がけに少し動揺する慎だったが、少年の優しさにそっと答えた。


 「あぁ、ありがとう」


 それから暫く、彼らを乗せた車は高速道路を通り、東京へと向かう。


 だが、彼らの旅路はそう簡単にはいかなかったのだ。


 最後に車内で言葉を交わしてから大分経ち、目的地である東京へ入ろうとしたところで、事は起きた。


 自動で高速を走る慎達を乗せた車の後をつけるように、数台の車が後方に静かに近づいてきていたのだ。それまで他の車との間隔は大きく空いていたのに、不自然に後ろにつく車をミラー越しに見た朱影が、小さく慎達に様子がおかしいことを伝える。


 「おい、全員起きてるか?」


 「どうしたんです?突然起きて・・・」


 「さっきから妙な車が後をつけてきてる」


 それを聞いて一同は、相手に悟られぬよう後方の様子を伺うと、朱影の言う通り数台の車が彼らの車との間隔を静かに詰めてきていたのだ。


 「単に車間距離が近づいただけなのでは?」


 「馬鹿言え。後続の車が偶然全て同じ車種なんてあり得るか。それに妙なのはそれだけじゃねぇ。奴らのナンバープレート、ちょくちょくノイズが掛かってその度に数字が変わってやがんだよ・・・」


 ただでさえ、同じ車種の車数台が並んでいるという不気味な光景に、更に慎達の追っている“異変“を臭わせるような現象。ただ毎ではないことを、一行は肌で感じていた。


 「今のところ何かしてくる様子はねぇが・・・。いつでも動けるようにしとけ」


 「了解」

 「了解です。慎さん、貴方運転の経験は?・・・と、確かあまり車には乗られないと言ってましたね」


 「あぁ・・・」


 「分かりました。しかし運転席にいるのは貴方です。もし攻撃っされるようなことがあれば、運転は手動に切り替えなければなりません。相手の攻撃は僕達で対処しますので、貴方は指示通りハンドルを切ってください」


 ただ毎ではなくなってきた空気に、車内は一気に緊張感に包まれる。

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