疑いの目

 「さて、映像はこんなもんか。この後、特に変わったことは?」


 「え?もう終わり・・・?これと言って手掛かりになりそうなものは・・・。いやいや、それを解析するのが貴方の役目では?」


 早々に切り上げようとする白獅に、慎が驚いたように話しかける。だが白獅の言うことも事実。この先の映像には、黒いコートの者達も出てこなければ、異変に関する情報は出てこない。


 これ以上は時間の無駄だと言い、白獅も解析作業へと入ろうとしていた。その時だった。彼らが慎の見て来た光景を分析していると、突如何者かが急いだ様子で部屋へ入って来たのだ。


 「はっ白獅!白獅はいるか!?」


 勢いよく開いた扉に驚いた慎が、思わず首を回す。白獅らは動じることもなく、自分の仕事に集中していた。黒い瞳がチラリと動き、入って来た者の方を見ると、すぐに手元と画面へと戻っていった。


 「どうした?何か問題でも?」


 「あ・・・あぁ、それが・・・」


 勿体ぶるような様子を見せるその者に、痺れを切らした白獅が催促の言葉をかける。しかし帰ってきた返答は、思っていたものよりも深刻な事だった。


 「今すぐ機器の使用を中止してくれ!これ以上はこのアジトの存続に関わる事態を招く事になる」


 「どういう事だ?・・・そういえば、電気の普及がまだだな。一体どうなっている?」


 慎や白獅らがいる部屋の機材は、アジトの予備電源によって稼働していた。その為、未だ復旧作業に当たっている他のアサシンギルドの者達が、尽力していた筈なのだが、この者の口ぶりからは事態はどうやら芳しくない方向へと向かっているようだった。


 「電源がやられてるんだ・・・。俺達がここに来る前に、何者かによって切断されたんだろう」


 「暫く使ってなかったアジトだ。風化したか、ただ単に接続が悪いとかではないのか?」


 「おいおい、それが分からない俺達じゃないぜぇ!このままじゃ負傷者の手当をする機材も止まっちまう。仲間の命が最優先・・・だろ?」


 彼の言葉を聞いた白獅らの手が、一斉に止まり室内に静寂が訪れる。モニターに映し出される慎の映像データによって照らされた室内は、すぐに襲撃を受けたアジトのように真っ暗になる。


 白獅の手により、解析を行なっていた機材が一斉に強制終了をかけられ動きを止める。


 「・・・解析は一旦中止とする。今まで得た情報を共有し、復旧後にデータ化する。どうやら敵さんの方が、一枚上手だったようだな・・・」


 いつにもなく真剣なトーンで話し始める白獅。彼のいう“敵“というのが誰のことを言っているのか、慎には分からなかった。


 だが、襲撃を受けた彼らにはその敵の大方の予想はついていた。朱影が戦い、多くの者達が負傷へと追いやられた、アサシンギルドとその面々を嗅ぎまらる存在“ノイズ“だった。


 奴か、或いはその仲間達によるものではないかと推測する白獅。彼らが元々いたアジトを襲撃したように、他のアジトも襲っていたのだろう。もしかしたら同時だったのかもしれない。その手段や方法は定かではないが、敵側はこうなることも予測していたのかもしれない。


 万が一逃げられた時のための策まで用意して、アサシンギルドへの攻撃を開始したということは、以前より存在を確認しており準備を整えていたのだろう。


 だが、白獅らとて情報を漏洩を危惧しないほど抜けてはいない。そうなると、可能性として上がってくるのは、アサシンギルド内部に裏切り者がいるという可能性だ。


 彼らの話の中にも、そのことが話題に上がった。


 「アジトの警備システムは厳重だ。外からアクセスされたとは考えられねぇ!やっぱり裏切り者がいるんじゃぁねぇのかぁ!?」


 朱影が声を荒立てて言う。彼の言うように、外部からアサシンギルドのアジトを探るのは、そう簡単な話ではない。実際に、現代における最先端の技術を用いて調べている出雲明庵の調査の手ですら、その所在を確認することはできなかったのだ。


 それは慎達のようにWoFの世界へ転移できるようになってしまった者達も同じで、内部から招かれない限りアジトを目にすることもないのだ。


 「仲間を疑うのか?不確定なことに時間を割くより、今は体制を整える方が先決だろう」


 「仲間ぁ!?ただ目的が同じだから連んでるだけじゃねぇか!元の世界へ戻れる手掛かりさえ掴めれば、もう関係ねぇ赤の他人だ。端から誰も信用しちゃいねぇ・・・。他の奴らだってそうだろ?」


 アサシンというクラス柄、他のギルドよりも裏切りというイベントが多く発生される。それは信頼をしている仲間や、協力関係にあった組織など、常に気を緩めることのできないほどに、日常に溶け込んでくる。


 心当たりがあるのか、朱影の言葉に二人の少年と乗り込んできた男は、ただ沈黙していた。

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