偽りの姿の訳

 警察の鑑識係の者達が建物内へ入り、人の手による現場資料を集め始める。ここでも用いられていたのは、検出や分析、鑑定などをする専用のドローンだった。


 しかしそれは、明庵の改造を施したドローンとは違い、純粋に事件現場に残る痕跡を探す手助けをするものであり、“異変“を検知することはなかった。


 それを確かめた朱影ら三人は、堂々とアサシンギルド内の転送端末のある部屋へと向かい、白獅から送られて来た位置データを端末に入力する。時間を置かずして、三人も別アジトへ避難したギルドの面々の元へと転移した。


 移動した先のアジトは、まだ照明がいき通ってないのか、薄暗くまるで廃墟のようだった。


 「あぁ?何だってこんなアジトを選んだんだぁ?もっと整ったところなんていくらでもあったろ!?」


 第一声から文句を口走る朱影の元へ、一つの足音が近づいて来る。薄暗くその姿はハッキリと確認することは出来なかったが、かけられた言葉ですぐにそれが馴染みのある音であることを認識する。


 「出来るだけ後を追われないところを選んだんだ。まだ復旧には時間が掛かるが、ここなら追手もすぐには来れないだろう。まぁ、追って来れればの話だがな」


 三人の元へ現れたのは、黒いコートに身を包んだ白獅だった。普段とは違う装いに違和感を感じた三人だったが、アジトの襲撃現場で見た、慎を連れ去った人物の服装に酷似していることに気がつく。


 「あっ!その格好」

 「もしかしてあれ、白獅さんだったんスか!?」


 あの時、転送装置も無しに突如として姿を現した黒いコート姿の人物。その正体はアサシンギルドの白獅だったのだ。


 慎を助ける為、明庵の目を欺くのに慎の話から聞いていた“異変“に関与しているであろう人物である、黒いコートの男達の情報を元に、その容姿を再現したのだという。


 「新たなメンバーの中に、転移ポータルの生成を得意とする者がいてな。そいつの力を借りた。ここを選んだのも、彼の協力を得る為でもあったんだ。あまりにも長距離だと、転移先と繋ぐことが出来ないとかでな・・・」


 「はぁ〜ん。そいつぁ便利な能力持ちじゃねぇか。んで?いつ紹介してくれんだ?」


 「彼は今、ここには居ない。事態が落ち着き、安全が確認されたらおって紹介しよう」


 大掛かりな転移装置無しで、一瞬にして事件現場に現れたカラクリは分かった。如何やらアサシンギルドのメンバー内に、特定の空間同士を繋げられるスキルを持った人物がいたようだ。


 古くからのメンバーではないようで、朱影らもその存在を知らなかった。白獅の口ぶりから信頼に足る人物であることは窺えるが、面識のない人物を三人はすぐには受け入れられないといった様子を見せる。


 「それで?その格好は何だよ。カモフラージュのつもりだっていうんならどうかと思うぜ?」


 「あの男に姿を見せたのはわざとさ。何しろ全く情報のないものを探ろうっていうんだ。調査の手はいくらでも必要になる」


 白獅が何故姿を変えてまでも、明庵の前に姿を晒したのか。それは彼の手助けを借りる為でもあった。慎がWoF内で見かけた黒いコートの男達。その者達は間違いなく彼らの体験している世界の“異変“に関与している。


 しかしその実態は掴めず、手がかりとなる情報は全くと言って良いほど無い。WoFの世界へ転移できるプレイヤーを探し、彼らにWoF内で黒いコートの者達を探ってもらい、現実世界ではアサシンギルドの面々や、明庵らサイバーエージェントの手も借りようという腹づもりのようだった。


 無論、表立って協力を申し出る訳ではない。明庵らに黒いコートの者達のことを調べさせ、有力な情報を得たらそれを横取りしようとしているようだった。


 そのために、わざとヒントになるように黒いコート姿で明庵の前に姿を晒し、彼の調査対象に加えさせたのだった。


 白獅は三人を、他のメンバーが集まる部屋へ案内する。道中で話を聞かされた三人は、白獅の計画性のある行動に驚かされる。流石は彼らをまとめるだけのことはある。


 その言動と行動が、仲間達の信頼を集め慕うようになったのだろう。彼らが各々の世界へ戻る為には、情報の共有と慎重な調査が必要だ。


 敵はWoFの世界から侵食してくるモンスターだけではない。今回アジトを襲撃した“ノイズ“もまた、彼らと同じ異世界からやって来た異物なのかもしれない。


 ならば何故、同じ境遇にあるアサシンギルドを襲撃したのだろう。その目的を探る為にも、今後は襲撃者らの調査も必要になってくる。


 分からないことや謎は増える一方。それを解き明かしていく為にも、有力な情報源である黒いコートの者達と接触した慎のデータは、貴重なサンプルとなる。


 襲撃で途絶えていた間の映像記録を、慎の目に宿したテュルプ・オーブから抽出するために、救出した彼の元へ向かう。

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