未知の装置
助けると言いつつも、銃口を向けるミアの行動に不安になるシンとツクヨ。突拍子もない行動に唖然としている二人にミアは、ボサッとしてないで手を貸せと指示を出す。
すぐに船内へ戻り、ツバキのボードを二人分甲板へ持って来るように指示を出すと、彼女はライフル銃に魔力を込め始める。それは、ロロネーとの戦いで見せたミアの新たな力。
錬金術を使った、四大元素の精霊の力を銃弾に込める魔弾。しかし、前回見せた時はハンドガンだった。ライフル銃での実戦は初めてで、上手くいくかは一か八かだった。
だが、ミアには成功する自信があった。幸か不幸か、一番初めに彼女に力を貸したのは、戦場と相性のいいウンディーネだったからだ。温厚なウンディーネとミアの仲は良好。必要とあらば必ず力を貸してくれると信じていたのだ。
「さぁ、もう一度見せてくれ。アンタの力をッ・・・!」
銃口に青いオーラと共に水飛沫が集約し始める。そして魔力が充填され切ると、ミアのライフル銃が青白く発光し出した。ウンディーネの魔力を確かに感じたミアは、彼女の力添えに僅かに笑みを浮かべる。
そして獲物を捕捉する鷹のように鋭い目つきに変わると、息を止めて狙いを定める。そっと引き金にかけられた指を、全霊を込めて一気に引く。射撃の反動を身体に受け、放たれた魔弾はレーザービームのように落下する影へと飛んでいった。
ウンディーネの魔力が込められた銃弾は、マクシムに近づくに連れ、その形を変えていく。水を纏いながら回転する銃弾は、原型を留めないほど水と同化し、水の光線となってうねりながら軌道を変える。
突然射線を変えた魔弾は、まるで生き物のように海へと飛び込み、その姿を消してしまう。だが、魔弾は間も無くして海水から飛び出すと、一本の大きな水の柱と、それに追従する複数本の水の触手を纏い、マクシムの元へと辿り着く。
彼の落下予測地点を見定めると、円を描くように太い水の柱が囲む。そして複数の水の触手は、マクシムをキャッチする網のように織り込まれていく。
同時に、ボードを持った二人がミアの元へ帰ってくると、そこには魔弾の軌道を辿るように、船から伸びる水の道が出来上がっていたのだ。
「道は作った!後は奴を回収するだけだ、急げ!」
シンとツクヨは、状況を目の当たりにして直ぐにミアの伝えたいであろう事を理解した。何も言わず二人は強く頷き、水の道にボードごと飛び乗ると、一気に駆け抜けていった。
ボードの推進力だけでなく、水の道には進行方向へ二人を運ぶ強い流れが出来ていた。二つの勢いが重なり、マクシムが落下するよりも早いスピードで落下地点へと運ばれていくシン達。
肝心のマクシムは、海面に近づいたところでウンディーネによる水の網にキャッチされ、落下の速度をゆっくりと落としていった。彼は身体は鋼糸を伸ばすことをやめ、落下に身を任せるように力が抜けていた。
急降下する落下の中で、彼の意識は飛んでしまっていた。このままだったら確実に彼の身体は悲惨な最期を迎えていたことだろう。ミアの咄嗟の判断は正しかった。
シン達は流れに沿うように、マクシムの周りをぐるりと一周し水の網に優しく包まれた彼を救出した。
「彼は・・・マクシムさんッ!?」
「何だ、知り合いだったのか?」
ツクヨはレース会場で彼を見かける前に、既に面識があった。それはツバキと共に、ウィリアム宛の荷物を運んでいる途中だった。見知らぬ者達に絡まれた際に、マクシムがその場を収めてくれたのだ。
その時彼は、ツバキ達が運ぶ荷物を心配していた。今にして思えば、それがエイヴリーの海賊船を強化する素材であり、ツバキのボードが操縦者の魔力を反映する特殊な機能を備えたのも、その素材のおかげだった。
あの場で荷物に何かあったいたら、シン達は今こんなところにいなかっただろう。グレイスやチン・シー、それにハオランやキング達。彼らと関係を築くことなく、黒いコートの男達と接触する機会すらなかっただろう。
マクシムを回収し、船に戻ろうとしていたシンとツクヨ。だが、上空で大きな爆発を引き起こしていたリヴァイアサンの頭部で、ある動きがあった。
爆発で巻き上がる煙の中、そのすぐ麓にいたシンは、ふと上を見上げリヴァイアサンがどうなったのかを確認する。すると、レールガンの一撃を受け、口から後頭部へかけて大きな風穴が開いており、自身のブレスで溜めた魔力の爆発で、下顎が根こそぎ吹き飛んでいたのだ。
勝負は決したかのように思えたが、シンは煙の奥の惨状の中で、それを見逃さなかった。風穴の空いたリヴァイアサンの後頭部より更にしたの辺りに、破損した身体の部位を再生する能力を抑制しようとする、何かの装置のようなものが見えた。
それは、リヴァイアサンの脅威の再生能力に悪戦苦闘する海賊達の裏で、背の高い黒コートの男が仕掛けた呪術だった。その装置はリヴァイアサンの本来持つ力を封じ、神獣としての能力を奪うもの。
本来あるべき場所に帰すと男は言っていたが、それがどこなのか今のシンには到底わかる筈もなかった。しかし、それが何らかの効果をもたらしていることは、シンにも理解できた。
これを利用できれば、再生自体を抑止できるのではないかと考えた。
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