説得と約束
離反したはずの部隊を引き連れ、ウオルターがフィリップス海賊団の後を追う。前方に見える巨大な蟒蛇の頭部の向こう側に、強く光り輝く大きな戦艦が見える。
目を凝らして見てみると、その光は戦艦の上に取り付けられた巨大な兵器の砲身に集まっているのが分かる。一目でそれが、発射の準備を整えているであろうことが見て取れる。
フィリップスや、その後を追うウォルターとアーチャー等の部隊。このままロバーツの部隊、或いはキングの船団に近づいて行こうとすれば、蟒蛇の向こう側に見える兵器の射線上に入ってしまう。
どんな兵器で、どれ程の威力があるのか、検討すらつかない。例えその砲撃が全て蟒蛇に命中したとしても、あれ程のエネルギーが凝縮された弾であれば貫通するか、そうでなくても両脇からその余波が後方に向かって吹き付けることだろう。
「移動が遅れたせいか・・・。船長、このまま直進してロバーツの船を追うのは危険だ。多少遅刻しちまうが、迂回ルートを取るが構わんか?」
「・・・アーチャーが抜けた今、航海長兼操舵手の司令塔はお前だ。船のことなら俺よりもお前に任せるのが正解だろう。先ずは無事にロバーツの部隊に合流することだけを念頭に、帆を進めてくれ」
フィリップス海賊団で操舵手を務めていたアーチャーが離反したことで、急遽操舵手を務めることになってしまった船員達をまとめ上げるのは、航海長のナット。技術こそアーチャーには遠く及ばないが、普通に航海する程度なら彼等だけでも何とかなりそうだった。
慣れない手つきで覚束ない操作の中、船はゆっくりと横道へと逸れていく。フィリップスの指示通り、先ずは安全を確保できる位置にまで船を移動させ、それからロバーツ達の居る場所まで近づいて行こうと試みる、ナットと操舵手を務める船員達。
その後ろを行くのは、ウォルターに説得されたアーチャーの船団とモーティマーの船団。先陣を切るのは勿論、フィリップス海賊団で操舵手を務めていたアーチャーの乗る船。その後方をついて行く様に彼の船団とモーティマーの船団。
彼の技術力を知っている者達は、何の疑いもなく彼を信じ、そのルートを追いかける。前方に覗かせる、蟒蛇の後方で光る兵器の輝きを見ればその迂回の理由も自ずと見えて来た。
アーチャーの素早い判断と技術のおかげで、遅れをとった彼等だったがフィリップスの船団よりも先に迂回路へ到達するアーチャー等の船団。確実に安全かどうかは、エイヴリーの兵器次第だがこの位置であれば修正が可能な場よにまでやってくると、前方でもゆっくりとフィリップスの船団が安全圏に到達し、船の向きを変えているのが窺える。
「アンタ達はロバーツやフィリップスに接触しない方がいいだろう・・・。仲介役は俺が務める。来る時が来たら、俺から合図を送る。通信室に誰か配置しておいてくれ。追って連絡する」
「分かった。・・・そうだな、アイツ等には近づかない方がいいだろう。俺達はアンタの指示を待つとしよう。だが意外だな、ウォルター。アンタがそんな事を考えていたとはな・・・」
一時的にアーチャーの船に乗り込んでいたウォルターが、自身の乗って来た小船の準備と身支度を整える。彼に説得されたアーチャーは、彼の胸中を知り少し驚いた様子を見せた。
「俺を何だと思ってたんだ?海賊だぞ。・・・それと、通信中会話には気をつけてくれ。盗聴やハッキングの能力を持つ者もいるかもしれないからな・・・」
「勿論だとも。アンタこそ約束・・・忘れないでくれよ?」
ウォルターは船を発つ前に一度だけアーチャーの方を振り返ると、彼の口にしていた約束の件についてだろうか、肯定するように頷き自分の船に乗り込んで行く。
「あぁ、約束はちゃんと守るとも。・・・それが、俺の為にもなるからな・・・」
機動力のある小船で、一足先にロバーツの元へと戻っていくウォルター。
蟒蛇の大波が遥か後方へ消えた後も、続々とレース参加者の海賊船がレイドの戦地へと到着していく。その中には当然、ロバーツやデイヴィスが根回しをした政府に加担する海賊達の姿もあった。
ただの参加者である海賊達は、目の前に広がる光景とあちらこちらで海流を荒らす巨大な蟒蛇の姿に驚愕していたが、その中でも一部の海賊達は、手前の方に見えるフィリップス海賊団やアーチャーの船団、モーティマーの船団の動きを見て、その状況を確認していた。
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