完成する近代兵器

 周りが動き出す中、最前線では依然蟒蛇の激しいブレスを凌ぐロイクの竜騎士隊と、何度も凍結による攻撃を仕掛けるシャーロット。しかし、海賊達による攻勢は上手くいっていない様子だった。


 「ッ・・・!?私の氷が・・・効かなくなって来ている・・・?」


 「おかしい・・・。シャーロットの攻撃が通らなくなって来ている。耐性がついてきたとでも言うのか?」


 それまでシャーロットの能力による凍結は、蟒蛇の体表を凍らせてから砕くことで、鱗を広範囲で剥がしダメージを通しやすくしていたのだが、攻撃を繰り返すにつれ蟒蛇の鱗の再生が早くなっていき、凍結から破壊までのサークルが間に合わなくなっていったのだ。


 加えて彼女の能力は、範囲が広がれば広がるほど魔力の消費が激しく、それを何度も繰り返していたのだ。長く戦えるはずがない。魔力を抑えた攻撃では蟒蛇の鱗と分厚い体表を抜くことは出来ない。


 つまりこのレイド戦において、出し惜しみをする余裕などないということだ。そんな中で、蟒蛇の攻撃から仲間を何度も助けていたキングやエイヴリーの魔力量が異常だということが伺える。


 シャーロットやヴェインも、決して魔力量が低いわけではない。例年通りのレイド戦であれば、問題なく戦えていたことだろう。そんな彼女であっても、多少の加勢を得たところでは存分に活躍することが出来ない。


 蟒蛇の気を逸らしていた竜騎士隊も長くは持たず、ブレスの流れ弾や咆哮に怯んだドラゴンが目眩を起こしたりし、徐々にその数を減らしていった。それでも彼等は引くこともせず立ち向かっていく。全てはエイヴリーのクラフトが完了するまでのこと。


 そして遂に彼等の努力が実る時が来た。蟒蛇の後方で、エイヴリーがクラフトしていた兵器が完成する。大きな戦艦の上に取り付けられた巨大な二本のレールの間に、徐々に光が集まり稲妻が走り出す。


 低い轟音と共に唸りを上げる砲身。見るからに高出力のエネルギーが集まっていく。それは蟒蛇が見せた、マクシムやロイクによって阻止された高出力ブレスのように、一際注目を集める激しい光を放っていた。


 「なんだッ・・・!アレは・・・」


 「お・・・恐らくエイヴリー海賊団によるものだろう」


 前線へ向かっていたハオランが、蟒蛇の背後で光を放つ何かに気がつく。しかし、驚くハオランとは打って変わりスユーフはエイヴリーの兵器を見ても驚いている様子はない。彼は青の兵器が何なのか、知っているのだろうか。


 否、そうではない。彼もまたあれがどのような兵器であるのかは分からない。だが、スユーフはハオランの元へ向かう前にキングから、エイヴリー海賊団で大きな攻撃の準備がある筈だと言われていた。


 ハオランと合流した後に、彼を前線へ連れてくるようにスユーフへ伝えたキング。エイヴリーのクラフトで作り出される兵器は、彼が旅の中で見てきた世界の兵器そのもの。


 このレイド戦に追いても、現状を打ち破る重要なファクターとなるに違いない。キングは状況を見て、戦況が蟒蛇に押されるようならエイヴリーのクラフトを上手く利用してやろうという魂胆だったのだ。


 丁度その頃、更に後方で同じ光を見ていた者達がいた。それはキング暗殺を図るロバーツの船団だった。彼等もまた、眼前に光る恐ろしく強大な兵器のエネルギーに驚愕していた。


 「おいおいおいッ・・・!何なんだアレはッ!?一体何をしようとしてやがる・・・?」


 「船長ッ!どうしますか!?砲身がこっちに向いていますよ!」


 「見りゃぁ分かんだッ!そんなこと!・・・それよりも、その斜線上に居るのにキングの奴・・・逃げる気配すらねぇぞ・・・。これは罠なのか?何を企んでやがる!?」


 海賊船など軽く消し飛んでしまうほどのエネルギーを前に、キングの船団は全く引く気配がない。それでも覚悟を決めたロバーツ達は、彼の船団から離れる訳にはいかない。


 部下達に指示を出し、ロバーツの船団は引き続きキングの船団がいるところへと向かう決断をする。そして、前線へと向かう者達の動きをキングが察していない筈はなかった。


 キングの船団を護衛するように守りを固めるダラーヒムが、後方の海賊達の動きを発見しキングに報告を入れる。


 「ボス・・・、アイツ等魔物への攻撃をやめて、こっちに向かって来てますぜぇ?手柄を横取りしようとでもいうんですかねぇ・・・」


 「まぁこっちに来るってんなら、俺達はそれを利用するまでだけどねぇ〜。今は放っておいて構わんよ。・・・“今は“・・・ね」


 不適な表情を浮かべるキング。彼はハオランの接近もロバーツ等のような良からぬことを企てる海賊達の接近にも、用心することなく余裕の態度を見せていた。だが、何かを画策しているのは何も彼等だけではなく、キングも同じだということだろう。

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