恩義か命か・・・

 前方でエイヴリー海賊団とシャーロットが戦っている間、後方で蟒蛇の身体を攻撃していた各海賊達の間でも動きがあった。蟒蛇の身体は、効果的な攻撃を当てる度に動きが早まり、尻尾が回ってくるまでの感覚が速くなる。


 特にダメージを叩き出しているのは、後からやって来たハオランとキングの海賊団だった。ハオランの拳は、蟒蛇の鱗などお構い無しに打ち砕き、体表を激しく波打たせていた。皮が突き破られないのが不思議なくらいだ。


 次いで、蟒蛇の身体が激しく揺らされていたのは、シー・ギャングの幹部が一人、ジャウカーンの部隊が居る場所だった。激しい爆発と、燃え上がるような炎が周囲を覆い、彼のいる一帯だけ熱量が他の比では無かった。


 海上という、彼のような炎を得意とする者にとって最悪のフィールドであるにも関わらず、これだけの火力を出せるのは純粋に彼の魔力が、生半可なものでないことの証明と言えるだろう。


 だがそれよりも意外なことは、ジャウカーンがハオランに次いで二番目だということだ。単純な戦闘力で言えば、後方部隊で最も強いのはハオランかキングとみて間違いない。


 しかし、周囲を見渡してもキングが戦っているような気配がないのだ。スユーフはキングの指示でハオランの元へ向かい、ダラーヒムはキングの部隊を護衛するように後を追う。


 蟒蛇の身体の元へ向かい、攻勢に出ていたのはジャウカーンの部隊と、トゥーマーンの部隊の二部隊だけだったのだ。ならばキングとその部隊は一体何をしているのか。


 部下達にダメージを稼がせている間に彼は、場所を移動し別の目的の為、動いていた。位置にしてジャウカーンやトゥーマーンの部隊よりも前方、蟒蛇とシャーロット、そしてロイクの竜騎士隊が戦っているのが目に入るくらいにまで前身して来ていた。


 「さぁ〜て・・・そろそろかな?俺ちゃんの用意が功を奏すところ、ちゃんとおっさんに見せつけておかないとねぇ〜・・・」


 嬉しそうに悪巧みをしているかのような笑みを浮かべたキングは、側にいた船員を呼び出し、蟒蛇に接触した際に手に入れたある“拾いもの“の様子を見てくるよう指示を出す。


 船内へと入っていく船員の背中を見送り、キングは目指す場所へ視線を移し、高まる鼓動を落ち着かせるように一度だけ大きく呼吸をする。そして時をおかずして、船内に“拾いもの“の様子を見に行った船員が戻ってくる。


 「ボス、いつでも行けるようです!」


 「おう!ご苦労さん。・・・んじゃまぁ、行ってもらうとしますかぁ〜」


 キングは自身の船から一隻の小型船を海面に降ろさせると、その“拾いもの“を船に乗せ、蟒蛇の元へと向かわせたのだった。


 一方その頃、ハオランの元へ向かっていたスユーフは、激しい乱打を打ち込む彼に、もう時期ここにも尻尾の先がやって来るであろうことを伝える。


 「ハ・・・ハオランッ!時期にここにあの魔物の尻尾が回ってくる。ば・・・場所を変えた方がいい」


 「貴方は・・・。そうか、忠告感謝する。・・・ところで、そちらのボスは一体何を?」


 「ま・・・魔物の頭部を目指している」


 「やはりダメージを稼ぐのなら頭ですか・・・。他の海賊達にも要領は上手く伝わったようです。・・・教えて頂いておいて何ですが、私も効率のいいその場所へ向かわせてもらいます」


 「あぁ、勿論だ・・・。道中、俺達が援護しよう・・・」


 何故わざわざライバルを援護するような真似をするのか、少し疑問に感じたハオランだったが、手を貸してくれるのならば断る理由もないと、彼の好きにさせた。移動はハオランの、ツバキから譲り受けたボードの方が圧倒的に機動力がある。


 もし彼らが、何か良からぬことを企んでいようと、それを振り切るだけの準備は出来ていた。ハオランはスユーフの護衛を受け、蟒蛇の頭部がある前線へと向かうこととなる。


 戦場のそれぞれの動きによって、動かざるを得なくなってしまった者達がいた。それはキング暗殺を目論むロバーツ等、デイヴィスの同胞達だった。政府側の海賊達は、現状様子を見ることで意見が一致したようで、レイド戦に集中し自分達の身の安全の確保に徹している。


 ロバーツ等はここに来て再び選択を迫られていた。前線へ移動してしまったキングの部隊を追わなければ、暗殺計画に支障が出てしまう。いつ何時に現れるか分からないデイヴィスに備え、彼らは常にキングの部隊を視野に入れておかなければならない。


 だが、この状況でわざわざキングの部隊に近づくのも、それはそれで怪しまれてしまう。難しい立場に立たされ、保守的な者達とデイヴィスと共にキングを討たんとする者達で意見が割れてしまっていた。


 「キングの首は諦めた方がいい!デイヴィスはもう俺達の船長じゃぁねぇんだ!」


 「俺達を海に連れ出してくれたのは誰だ!?息苦しい環境から救い出してくれた恩を忘れたのか!?デイヴィスが命を賭けて挑む最期の望みを叶えてやるのが、せめてもの恩返しだろ。これが最期かもしれねぇんだぞ!?」


 「勝手に船を放棄したのはデイヴィスだろ!?私念に取り憑かれ、全てを投げ出した奴に命を預けろってのか?感謝はしてるが、それとこれとは話が別だ!」


 デイヴィスやロバーツが各所に手を回し、漸く集めた元同胞達はそれぞれの思いをぶつけ合う。どちらの意見も、それぞれが正論であり否定できるものではなかった。恩はあれど、彼等には彼等の人生がある。その中で、ロバーツの船に助けられたウォルターは、決断をロバーツに委ねようとしていた。


 「どうするんだ?ロバーツ。このままではデイヴィスやアンタがやっとの思いで掻き集めた同胞達が、再び内部崩壊を起こしちまう・・・。俺はアンタに救われた。だから俺はアンタに従うぜ・・・?」


 目を閉じ自問自答するロバーツは、ウォルターの言葉を聞き暫くした後の答えを出す。しかし、彼の意思は変わらない。元よりこの場にやって来たのも、同胞達を集める為動いて来たのも、全ては親友であるデイヴィスの思いを叶えてやる為だった。


 「・・・仕方がない。デイヴィスに恩を返そうという意思のあるものだけ付いてこいッ!デイヴィスはこの時の為に準備をし、この時の為に全てを賭けると言った!俺はアイツの最後の思いを尊重するッ!!」


 ロバーツの船団は、初めから意見が一致していた。共に苦労して来た彼等に、作戦を放棄するという選択肢はない。諦める時は、デイヴィスが全てを諦めると口にした時。それまでは決して投げ出さないと・・・。


 「ウォルター!すまないがお前はフィリップスの元へ行って、共についてくる同胞をまとめ上げてくれ。アイツの船団が今、最も意見が割れている・・・。アイツ一人では荷が重いだろう・・・」


 「分かった、任せてくれ!出来るだけ多くの同胞を駆り立てられるよう努めるさ・・・」


 力強く頷き、ウォルターは小型船を用意してフィリップス海賊団の元へと向かった。そしてロバーツの船団は蟒蛇への攻撃を引き上げ、前線向かうキングの船団を追い始める。

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