吹き飛ぶ海賊船

 船団を連れ上空を飛ぶエイヴリー海賊団を見上げるキング。いち早く大波を抜けたエイヴリーに対し、キングの船団はまだこれから大波を迎える。そしてその時間は長くはない。


 その中でもキングの乗る船は一番大波に近く、移動でどうにか出来るような状況ではない。そして彼の船はまだ友軍の船には合流出来ていない。だが、こんな中でもキングは、取り乱す様子など微塵も見せず、素直に目に映る光景を楽しんでいるようだった。


 「はぁ〜ッ!やっぱエイヴリーのおっさんとこは、すげぇこと考えんねぇ〜・・・。今度俺ちゃんの船に、羽でも生やしてもらおっかなぁ〜?」


 「ボスッ!もう波がそこまでッ・・・!呑気なこと言ってる場合じゃないっスよ!?」


 キングの余裕とは相反し、船員達は慌ただしく波に飲まれた後の為の準備を進めていた。彼らの様子を見渡し漸くその気になったのか、肩をぐるぐると回し首を鳴らしなら準備運動を始めると、キングは船員が動き回る甲板を歩き、船の後方で波が追いかけて来る方へ向かう。


 そして後方で放置されていた大砲を、軽々しく一人の力だけで向きを変えると、砲身は俯くように海面へと向けられる。まるでバスケットボールでも掴むかのように大砲の弾を込め、海面へ向けて砲撃の準備を整えるキング。


 「お〜い、皆さ〜ん?船内に入るか、しっかり掴まってないと振り落とされちゃうんで・・・よろしくぅッ!!」


 船長が何をしようというのか、全く分からないまま船員達は彼の言う通り急ぎ船内に逃げ込む。まだ船内に入っていない者もいる中、キングは大砲の導火線に火をつける。その光景を見てしまった船員達が顔を青ざめ、近くにある物に死に物狂いでしがみ付く。


 暫くすると、鼓膜を震わせる轟音が発せられる。すると彼らを乗せた船は、何かに弾き飛ばされたように前方へ加速した。そして荒れ狂う波に激しく打ちつけられた船底が跳ね上がり、船が大きく飛び上がった。


 キングの放った大砲の弾一発で、彼らの船は勢いよく大波から逃げるように、エイヴリー海賊団の船と一緒とまではいかなくとも、別の形で空を飛んだのだ。


 エイヴリーやヘラルトが、まるで奇跡のようなことを起こすように、キングの周りでも常識ではありえないようなことが度々起こる。それはまるで、彼らの周りだけ物理の法則から解き放たれたかのように。


 「フゥゥゥーーーーーッ!!でもやっぱり、おっさんの発想じゃぁスリルが足んねぇんだよねぇ。飛ぶならもっと風を感じないとねぇッ!」


 彼らの船は一気に距離を稼ぎ、ジャウカーン等幹部の船団を飛び越えて行くと、大波から最も離れたダラーヒムの船団がいるところまで飛んで来た。放物線を描くようにゆっくり海面へ近づくキング達の船。このまま着水すれば、船がその衝撃に耐え切れずバラバラに砕け散ってしまう。


 しかし、当然ながら何も考えていないキングではない。船は海面付近になると、一瞬重力を失ったかのようにふわりと宙に浮き、空を風の赴くままに旅する綿毛のように、優しくその船体を海面へと下ろしたのだ。


 「ここまで来りゃぁどうにでもなるでしょぉ〜?」


 「しッ・・・しかし後方にはジャウカーンさんや、トゥーマーン様が・・・」


 「あぁ・・・まぁ、この程度死んじまうような奴らなら、わざわざあんなポストに就かせちゃいないのよ〜。自力で何とかするっしょぉ?」


 一見、幹部物達を見放すような対応に思えるが、これはキングが彼らを信頼しきっているが故の対応だった。直接助けに行かなくとも、彼らであれば迫る大波を何とかすることくらいのことは造作もない筈と。


 そして、そのキングの信頼を裏切らぬよう幹部等の船団もまた、それぞれの動きを見せる。最初に動き始めたのは、キングの船の次に大波との距離が近い、ジャウカーンの船団だった。彼らの頭上を、勢いよく飛び去って行くキングの船。風を切るその船体からは、何か大きな生き物の唸り声のような低い轟音が鳴っていた。


 まるでそこだけが夜になったかのように暗くなるジャウカーンの船。何事かと上空を見上げると、そこには普段見ることのないような船の船底があった。目が飛び出しそうな程大きく見開く瞼。その刹那の一時だけは、例えキングの能力の秘密を知る幹部であっても、事態を把握するのに時間がかかった。


 停止した思考が再び動き出すジャウカーン。そしてそれが、恐らくキングの能力でやって来た船であることに気が付くと、船が飛んで来た後方を見てその状況と、ボスである彼に遅れを取らぬようにと急かされる気持ちを胸に、すぐにこの場から離れる為の準備を船員達へ促す。


 「まぁ〜たボスの仕業かぁ!?相変わらず規模がぶっ飛んでんなぁッ!俺等も負けてらんねえーぞ!おいッ!アレの準備を始めろッ!」


 ジャウカーンが自身の船団に指示を出すと、彼らの船の後方が開き、何やら大きな筒のような物が外へと伸びて行く。そして全ての船で準備が整うと、彼の合図で一斉にその大筒が火山が噴火するように激しい火を噴いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る