盟友ロバーツ

 軍服の様な装いに身を包んだ厳格な雰囲気を持つ大柄の男、シンプソン。帽子を被った頭部から首の後ろに覗かせる白髪は、極寒の地の厳しい寒さを思わせる雪の様に真っ白だった。


 シンと握手をした際に見せた彼の肌は、その髪とは対照的に褐色の黒い肌に覆われ、力強く脈動する血管が浮き出て見える。上に羽織った衣類の袖でよく伺うことは出来ないが、その腕には歴戦の戦いによる古傷が僅かに覗かせる。


 しかし、そんな見た目によらず彼は船までの道中、デイヴィスと共に海を航海していた頃の話をしてくれた。今でこそ海賊狩りの様なことをしているデイヴィスだったが、そんな彼もまたキングによる人身売買の話を耳にする前は、何処にでもいる様な普通の海賊だったのだという。


 それ程大きな大船団ではなかったが、デイヴィスは多くの部下に慕われ信頼も厚かったそうだ。そんな彼の人柄が功を奏し、今こうして計画の為に力を貸してくれる仲間や、人脈が作れたのだろう。


 しかし、唯一の家族である妹が海賊による人身売買にかけられていることを知ってから、デイヴィスの様子は少しづつ変わっていったのだという。心配した仲間達が、彼の思いを果たす為に協力を申し出たが、その時のデイヴィスは自分の手でケリをつけなければ意味がないと一蹴してしまう。


 信頼を置いてくれていた仲間達に酷いことをしてしまったと、気に病んでいたデイヴィスは自分の私念に仲間達を振り回したくないと、船長の座を下り海賊団を抜けて行ったのだ。


 別れた後のシンプソン達は彼を追うことはせず、今はただデイヴィスのしたいようにさせてやろうと彼を見送り、新たな海賊団として航海を続けていった。いつかこの、デイヴィス海賊団が必要になった時は、全力で彼の助けになろうと誓って。


 それからはたまに、港町などの風の噂で海賊狩りの話が上がることがあった。カットラスという湾曲した剣を巧みに扱い、素早い身のこなしで相手を翻弄する、様々な属性を味方につけた夜叉のような特徴から、それがデイヴィスではないかとシンプソン達の間では確信に近いものを感じていたのだという。


 そんな話をシンにしていると、それを聞いていたデイヴィスが恥ずかしそうに当時のことを語る。あの時は何も見えていなかった。ただ妹の手掛かりを探る為、片っ端から賞金首の海賊を狙い、人身売買を行っている者達のことを探李回っていたのだという。


 そして行き着いたのが、シー・ギャングという一人ではどうしようもない程に強大な組織のボスである、キングの名だった。想像もしていなかった大物の名前に、どうしたらいいのか分からず、暫くデイヴィスは活動資金を集める為、様々なクエストや賞金首を仕留めて回る。


 大きな組織を相手にするなら、仲間がいる。デイヴィスと同じくキングの存在を良く思わない人物達の情報を集め、彼はキング暗殺計画の為、人員を集めた。その中には嘗て自分から去っていった、元同胞の海賊達の名前もあり、当時の蟠りを何とかしなくては死んでも死に切れない思いで、再びシンプソン達に声をかけたのだそうだ。


 だが、元デイヴィス海賊団も当時のままとはいかず、彼らの船団から新たに自分の海賊団を結成する者達も現れ、元デイヴィス海賊団は解散していた。しかし、その別れは敵対するような別れではなく、彼らの新たな旅立ちとしての一歩に過ぎなかった。


 彼らのその多くは、同盟のような関係性を築き、大きな戦の際は協力するような間柄を続ける者が殆どだった。小さな海賊団というものは、他の者達からいいカモにされてしまうのが常習となっていた。故に多くの友軍がいるという、バックに大きな海賊がいる雰囲気を醸し出し、群れをなして凌いだのだ。


 自分の船を持ち、船長という立場になったシンプソンら幹部達は、如何にデイヴィスが船長として優れていたのかをしみじみと感じたのだという。そしてデイヴィスからの救援依頼を受けた彼らの中には、また彼の元でかつての海賊団を組めるのではと期待する者もいたそうだ。


 だが相手は一大組織のシー・ギャング。その名を聞けば誰もが尻込みをする。シンプソンらのように、協力を買って出る者達ばかりではなかった。寧ろ彼らのような者達の方が珍しく、命知らずだと言われた。


 しかし、そんな協力に否定的な対抗勢力の中で、デイヴィスの計画を大きく後押しした人物がいた。その名こそ海賊の界隈、そしてシン達の住む現実の世界でも、海賊の名前としては比較的有名でもある、“バーソロミュー・ロバーツ“の名だった。

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