船穿つ一撃必殺の銃弾

 フェリクスは無線を使い船員達に指示を出す。今までの砲撃で、グレイス軍の特に守りの固い船を観察し見極めていた彼は、砲撃を集中させるように伝えると、ロッシュから与えられている自身専属の射撃部隊を率いて攻勢に出る。


 「さぁ皆さん、お待たせしました。船長から戦場を任されました。後の事は我々の好きにして良いようです。腕の見せ所ですよ」


 それぞれの持ち場にいた、他の船員達とは違った格好をした者達がその場を任せフェリクスの元に集合する。物陰に隠れやすいような薄暗い格好で現れた彼らは宛ら船上のスナイパーのように静かに狙撃ポイントに向かう。


 他の船とは違い、特殊な造りになっている彼の船は、あらゆる方向へ銃口を向けられるよう小窓のようなものが複数存在する。フェリクスのハンドサインで各ポジションへ移動を開始する船員達。そして指揮官である彼は船内の正面の方角、下方にある小窓からシルヴィ達が乗っていない船を狙う。


 「さぁ・・・徐々に戦力を奪われる恐怖を味わうがいい・・・」


 小さく独り言を呟いたフェリクスは対戦車ライフルを彷彿とさせる大型の銃を手にし、狙いを定める。そして銃口から発せられる淡い光に、彼の顔は蝋燭の灯に当てられたように照らされる。


 一方、エリクの風水による妨害を抜けてくる砲弾を撃ち落としていたスーツ姿の男だったが、ロッシュ軍の妨害をもろともしない砲撃の集中砲火を浴び、苦戦を強いられていた。


 「シルヴィ!シルヴィは何処です!?敵軍の攻撃がこの船に集中してきているようで・・・、私だけでは抑えきれなくなってきました・・・。出来れば助力を願いたいのですが・・・」


 「“ルシアン”さん!シルヴィさんは船尾で船長の救助を行なっていて、手が離せないようですッ!い・・・如何しましょう・・・、このままではこのふねは長く持ちませんッ!」


 シェイカーを次々に放ち、砲弾を上空で食い止めるスーツ姿の男。グレイス軍主力の一人にして、嘗て彼女が踊り子をしていた店でオーナー兼バーテンダーをしていた者であり、海賊になると言い出した彼女を放っておけず、店員もろとも彼女の海賊団に引き入れた。


 その名をルシアン・ラングレーといい、彼のクラスはその見た目と戦闘方法が特徴的なジャグラーと調合師という珍しい組み合わせだ。シェイカーに調合素材を入れ混ぜ合わせ、飛ばしたシェイカーが砲弾に接触した衝撃で破裂する効果を作り出して戦っていた。


 「どうするもこうするも・・・シルヴィが船長を連れて来るまで持ち堪えるしかありません。貴方はこのままエリク君の元へ向かい、もう少しどうにかならないか発破をかけてきて下さい!」


 「了解ですッ!」


 ルシアンの指示を受けエリクのいる船底部へ急ぐ船員の男。ルシアンは砲撃を防ぎながらも隙を見て周囲を確認すると、砲撃手を務める者達に敵船への攻撃をやめさせ、防衛に尽力するよう伝える。


 「味方船に通信を繋いで下さい!手の空いている船は前方に入り、敵船との距離を縮めるよう伝えるのです!シルヴィが船長を救助しているということは、この船を動かす訳にはいきません。敵の射線上に入り、向かって来る者に注意を分散させるのです!」


 グレイスが海中へと身を投げている状態で、前進することも後退することも出来ない以上、移動による回避は出来ない。何とか敵軍の射線を遮り注意を逸らすことさえできれば、時間を稼げるだろうか。これが正しい判断だと彼は思わなかったが、今はそれしか方法がない。


 「ルッ・・・ルシアンさん!味方船からの通信がッ・・・!!」


 船内を慌ただしく走って来た船員が、ルシアンの元まで直接報告を持ってきたが、それは彼の様子から想像するに容易く、とてもではないが吉報を持ってきた者の表情ではなかった。


 「どうしたのです。作戦はしっかり伝えてくれたのですか!?」


 「それがッ・・・」


 船員の者が事情を話そうとしたところで、自軍の船がいるであろう位置から大きな爆発音が聞こえてきた。二人は直ぐにその方角を確認すると、黒々とした硝煙を勢い良く巻き上げながら炎上する味方の船がそこにあった。


 「ッ・・・!外側に位置していた味方船に通信を入れたのですが繋がらず・・・」


 「これは・・・?他の味方への通信は!?貴方は何故直接ここへ?」


 「通信は他の者が変わりに・・・。一刻もはやくこの事態をルシアンさんへとッ・・・」


 辺りに鳴り響く砲撃の音で気付かなかったが、何か別のものによる攻撃であると直ぐに察するが、何による攻撃なのかが分からない。防戦に徹するがあまり状況が見えていなかったのだ。そんな中、相手は攻撃しないがらもこちらの動きをよく観察して次の攻撃に繋げていたことを知り、こちらの考えが至らなかったことを悔しがった。


 「くッ・・・!こちらの動きが読まれているようですね・・・」


 「どっどうしましょう!?このまま続行してもよいものかどうか・・・。罠なのでしょうか・・・?」


 対策をしようにも、先ずは砲撃以外の攻撃方法を探らねばならない。ただ、この状況で今更様子を見るなどという余裕が果たしてあるのだろうか。一手先を行くロッシュ軍の動きに、ただでさえ戦力差のある環境が更に悪化し、グレイス軍の取れる行動は益々制限されてしまった。船員の男が言う通り、このまま自軍を前線に並べても敵の術中にはまってしまうのではないかと、思考まで後退させられてしまう。


 「敵さん、如何やら貫通力の高いライフル銃のような物を使ってるようです。それに徐々にですが、船が中央に集まっているような動きも見て取れました」


 そう言って現れたのは、船底で砲撃の指揮と風水による妨害をしていた筈のエリクだった。その彼が何故わざわざ甲板にまで上がって来たのか。それに風水の妨害が無ければ更に甚大な被害が出てしまうのではないだろうか。


 「エリク・・・君?何故君がここに・・・。風水のスキルは?それに先程の情報は・・・?」


 彼の動きが読めず、今置かれている状況も相まって混乱した様子のルシアン。そこへ鉄を転がすような大きな音を立てながら、何かが船内を上がり彼の後ろから姿を現す。


 「風水による妨害は、最早効果が薄いと思われます。それならばと防御に使うのではなく相手の攻撃を探る為に使いました。・・・安心して下さい、打開策はあります。これはその為の武器です。勿論・・・貴方のお力もお借りしますが・・・ね」


 彼が船員を使って持って来させた物は、急な角度で上空を見上げた大砲のような物だった。

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