異界のメッセージ

 ミアはシャルロットの無事を聞いていたが、シャルロットはミア達一行よりも先に目覚めていたため、息があるのは知っていたものの意識が戻ったとは知らなかったようだ。


 同じく意識を失ったままであったイデアールの代わりに、動乱を生き残った聖騎士を探して回ったが、それが彼女に更なる衝撃の事実を見せることになる。


 ユスティーチを見て回る前の段階、キャンプ内で知り得た情報で、シャルロットやアーテム、そしてシャーフの師である朝孝が死亡したという情報が入り、臨時の死体安置所へ向かったシャルロットは、そこで変わり果てた同胞や朝孝の姿を目にする。


 膝から崩れ落ち、ショックを受けるシャルロットであったが、外から聞こえてくる混乱の声や、仲間や身内の死に泣き崩れ悲痛の呻き声を上げる者の姿を見て、受け入れ難い現実に目を背けたくなっているのは、自分だけではないと立ち上がったシャルロット。


 混乱する救援キャンプ内で動ける騎士を指揮し、生き残った聖騎士達と共に事態の収集や、まだ探索し終えていない聖都の捜索に向かう。


 市街地に入り、被害の範囲が広い各所に聖騎士達が分担して散らばっていき、それぞれの現場で騎士達の指揮を取り、救助にあたって行く。


 シャルロットの配属は聖都内になったのだが、聖都に入ってすぐ、アーテムの組織ルーフェン・ヴォルフのメンバーである、ナーゲルやファウスト、ブルートの無残な姿が目に入ってきた。


 シャルロット達よりも後に朝孝の道場へ入ってきた彼らは姉弟子である彼女を“姉さん”と親しみ、共に修行に励んでいた仲であったが故に、そのショックも大きかった。


 他の聖騎士が気を遣い、代わりにこの現場の指揮を取ることを志願してくれ、シャルロットは被害の酷い聖都の、もう少し先へと入って行くことになる。


 そして彼女が配属された現場というのが、ミア達とリーベが死闘を繰り広げた、最も崩壊の激しいエリアだった。


 被害の範囲や損壊の度合いから、聖騎士数人で担当することとなり、臨時のキャンプも設けられ、大規模な捜索と撤去作業が開始された。


 そこで発見されたのが、意識を失って壁にもたれかかっていたリーベのであった。


 暴走状態にあったナーゲルに空けられた風穴は、ミアのアイテムによって塞がってはいたものの、ダメージや失われていた間の身体に与える影響までは緩和出来ない。


 状態の深刻さから、国外のキャンプやこの現場に設けたキャンプでの治療は不可能とされ、リーベの身体は聖騎士の城へと運ばれて、ギルドの治療を受けることとなった。


 リーベを運んだ聖騎士と騎士達に彼女のことを任せ、シャルロットは現場の指揮を継続して取ることを選ぶ。


 しかし、シャルロットが現場の指揮を志願したのは、城で起きたことをこの目で確かめるのが怖かったからだった。


 ただでさえ朝孝やナーゲル達、そしてリーベと見てきたシャルロットの心は限界を迎えており、もしこんな状態でシャーフの身に何かあったことを目撃してしまえば、精神的に持ち堪えられる自信がなかった。


 そこで暫く作業にあたっていたことが功をそうしたのか、心に休息を取る時間を得たことで、その後城から来た騎士の報告がシャルロットの元に届き、シャーフの重傷を知ることになったが、最悪の報告でなかったことに彼女は安堵し、何とか持ち堪えることができた。


 リーベと同じくギルドへ運ばれたシャーフは集中治療を受けるも、リーベとは違い誰かによって傷を癒してもらうこともなかったため、事態は深刻を深め、未だ予断を許さない状態であったという。


 聖都ユスティーチの王シュトラールの死亡、聖騎士隊隊長三名の意識の戻らぬ状況に、騎士達やどこで聞いたのかキャンプに避難している人々は酷く混乱し、不安を募らせていった。


 指揮する者がいないのであれば、自分達が指揮を取り、聖都を一つにする時だとシャルロットや聖騎士達が奮起し、悲しみや絶望を押し殺して、聖都の復興に向けてひたすらに励んでいた。


 無我夢中で、どれくらいの時間が経っていたのか分からなくなった頃、彼らの元に吉報が届く。


 それは、聖騎士隊隊長である、イデアールが目覚めたという報告だった。


 彼の復活に歓喜する聖都、それに鼓舞されるように、自らの身体に鞭を打ち城へと戻るイデアールは、すぐに近隣諸国、同盟国への救援要請や、現在の作業状況などを確認し兵を動かした。


 イデアールはアーテムからの手紙に気づき、彼の覚悟を受け止めると、彼の手紙にもあったいくつかの誤報を聖都ユスティーチ内にいる人々や、近隣諸国に流したのだった。


 シャルロットが目を覚ましてから、彼女が頼れる者はおらず、自分が何とかしなくてはと、毅然に振る舞い続けてきたシャルロットの心は、イデアールの目覚めから徐々に解けていき、ミアとの再会で漸く彼女の中に溜まっていたモノが溢れ出したのだった。


 彼女の感情はそれほど引きずる事はなく、暫くミアの胸の中で泣いた後、落ち着きを取り戻すと、お互いの情報を共有し合い、これからはミアも共に活動をしていくこととなった。






 一方シンとイデアールは、瓦礫などの撤去作業につくと、シンの影を使ったスキルが活躍し、その効率を高めていった。


 思いの外早く進んだ作業行程に、イデアールが気を遣ってくれたのか、シンに休暇を込めてキャンプに戻るよう促してくれた。


 ちょうどツクヨの容態も気になっていたシンは、彼の厚意に甘えることにし、キャンプへ戻ろうとするのだが、彼宛に一通のメッセージが届いていることに気がついた。


 メッセージ機能を使えることからこの世界の住人ではないと、すぐに宛先が絞られ、目を覚ましたツクヨからか、或いは伝えたい事項ができたミアの何方かになる。


 しかし、メッセージの宛先はツクヨでもミアでもなく、シンが以前に現実世界で遭遇した“白獅”と名乗る男からで、“見せたいものがある”という件名でメッセージが届いていた。


 内容を開いてみると、件名と同じくシンプルなもので、時間ができたらこちらに戻って来てくれという内容で、以前に会った例の路地裏で待っていると書かれていた。

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