聖都のジャンヌ・ダルク
リーベの一件が済んだ後、ミアは次にシャルロットに会おうとしたが、せっかく訪れた聖騎士の城内部に、動乱前にお世話になっていたギルドにも顔を出そうと、足を運んだ。
ただ、あの時とは大きく違い、一人閑散とした城内を歩くミアの足音だけがやけに廊下を反響し、聖騎士やギルドを訪れる者達の声で賑わいを見せていた城内は、全く別の一面を見せる。
あまりの静けさに、広く構えられた城内の構造が高貴で豪華な安心出来る印象から、何処かに誰かが潜んでいるのではないかという一種の恐怖すら感じるほど、静かな上層部だったが、下層に降りてくると少しづつ人の声が聞こえてきた。
それは城内のギルドを訪れる者の声であった。
ミアが世話になった錬金術士のギルドや、調合士のギルドの者達との再会を喜び、簡単な挨拶を交わすと、街の様子や家族の様子、彼らが行なっている復興活動の進行具合など聞き、思いの外早く進んでいる事に驚くミア。
それもきっと、イデアールの指示のもと、騎士達の統率が取れ、各地で現場の指揮を取っているという聖騎士やシャルロット達の奮闘のおかげなのだと、話を聞いていて分かった。
それというのも、当初ミアは城内にシャルロットがいなければ、兵舎にて彼女の帰りを待とうと考えていたが、ギルドの者に聞いた話によると、聖騎士達は兵舎に戻って泊まることはないのだという。
彼らは、聖都の各地や国の外に設けられた救援キャンプに在住し、人々の身の安全を守りながら、瓦礫除去や復興の活動を行なっているのだそうだ。
要するに、崩壊の被害が少ない城近辺で贅沢をする事なく、生活水準を被害に遭った人々と共有し、持ち運べる物資や食事などをキャンプへ運び、貧富の差を無くそうとする努めているのだ。
これは生前、シュトラールが言っていた“貧富の差は、人の心を大きく歪める要因”となるという、彼の教えがまだ生きていることが伺える。
シュトラールは何も独裁者ではなく、本当に正しく生きようとする人々のために尽力する人物であり、行き過ぎた思想を持ってはいたものの、人として正しくある為に一人一人が持たねば成らぬ道徳や誠実さを、彼らの心に根付かせたのは、大きな功績でもある。
城内にいる聖騎士にシャルロットの所属を聞き、何処のキャンプにいるのかを聞くと、ミアは城を後にし、復興にあたる彼女の元を目指した。
久々と言うにはそれ程時間は経ってはいないが、生きて再会を果たしたギルドの顔馴染みとの会話に花が咲いてしまい、外はすっかり夕暮れ時となっていた。
街を染め上げる暖かい橙色の光が、崩壊した建物や街並み散乱する生活の品、聖都に刻まれた痛ましい傷を、優しく照らし出し、聖都の二つの顔を見たミアにはその光景が、どこか物悲しい憂いを帯びているように感じた。
まだ崩壊の危険があるエリアでは、街の人々の姿はなく、夕暮れ時だというのにまだ忙しなく働く騎士達の姿が、初めてユスティーチに訪れた時の嫌な印象を払拭する。
街並みを歩いていると、遠くの方から女性の声で鎧姿の男達を、オーケストラの指揮者のように無駄なく適確に動かしている。
徐々にはっきりと聞こえてくる、聴き馴染みのある懐かしい声、お天端でもあり活発的な明るい声ではあるが、聞いていると心が落ち着き安心する、再びその声を聴けた事に思わずミアの口角は上がる。
ミアは、作業をしながら部下達に忙しなく指示を飛ばす彼女の背後から近づき、肩をトントンと軽く叩くと女性は振り返り、二人の視線が交わると女性の目が徐々に大きく開いていき、ミアにはその様子が妙に面白く映り、反応が返って来るまで黙って待った。
女性の目には、夕陽で橙色に染まる街並みが映し出されるほど綺麗で透き通ったものが込み上げて、許容を越えて溢れ出すと同時に、手にした物を落とした女性はミアに抱きついた。
子供のように声を震わせて泣き出す女性は、精一杯の力でそこにある命の温もりが、本物であるかを確かめるように抱き締める。
「痛いって・・・シャルロット」
優しく囁かれたミアの言葉に、シャルロットの涙の勢いは増し、その透明な雫と同じように裏表のない彼女の言葉が、ミアへ向けて贈られる。
「よがっだッ・・・! 無事だっだんでずねッ・・・!!」
そんなシャルロットをあやすかの様に、ミアは両腕を彼女の脇から滑らせるように背中へ回し、背中を優しく摩って再会を喜んだ。
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