月光と雷光
激しくぶつかり合うアーテムとシャーフ。
手負いとは思えぬほどの力で、シャーフを玉座の間中腹まで押し返すアーテム。
「お前ッ・・・! まだこれ程の力をッ・・・!?」
その隙にナーゲルが肉体強化のスキルで、脚部に獣の力を宿す。
「待っててくれっス・・・シャルロットさん。今行きますッ!」
そしてナーゲルは、アーテムが押し返した後ろを通り、倒れているシャルロットの元へ向かう。
だが、何かが妙だ。
あれ程自信満々だったシャーフが、ナーゲルの侵入を見す見す許していることが引っかかる。
ミアは銃を取り出し、一発だけナーゲルの向かうシャルロットの方へ、弾を放った。
何もなければ、弾はそのままナーゲルを追い越し、窓ガラスを突き抜け外へと飛び出していくだけだ。
そう、何もなければ・・・。
弾はナーゲルを追い越し、シャルロットの近くを通ろうかといった瞬間、何かを弾き飛ばし、軌道を変え別の方角へと飛んで行くと、壁に突き刺さる。
「・・・ッ!? ナーゲルッ!! 何かあるぞッ!!」
ミアの声を聞き、目の前で銃弾が弾かれたのも見ていたナーゲルは、咄嗟に急ブレーキをかける。
しかし、どうやら少しだけ間に合わなかったようで、ナーゲルの頬が何かに触れ切れると、そこから赤いものが滴った。
それを拭って確かめるナーゲルの手には、べっとりと血が付いていた。
彼が通過した場所に“何かがあった”のだと悟ると、その場から動けなくなった彼は、自分の身の周りに何があるのか、どういう状況下にあるのかミア達に向けて質問する。
「なッ・・・!? どうなってるッ? 何か見えるっスかッ!?」
ミアには、ナーゲルの周りに何かあるかどうか確認できず、ツクヨの方を向いて彼の顔を伺う。
それに気がついたツクヨは、ミアの方を向くと汗の滲んだ顔を小さく横に振る。
「いいのか? アーテム・・・、お仲間が動けなくなっているようだが?」
「“任せる”と言ったんだ・・・、俺はお前の相手をする」
アーテムは、後ろを振り返ることもせず、シャーフの刀を弾くと、一気に攻勢に出る。
刀と小太刀を同じ方向・同じ向きに揃え並べると、素早い踏み込みと腰の捻りで、二重の斬撃を電光石火の速さで放つ。
「2つの《ツヴァイ・》
シャーフは刀でこれを受け止め、刀身を腕で押し込む。
ぶつかり合った刀からは、雷のようなものが辺りへと飛び散る。
「まぁぁだまだぁッ!!」
間髪入れずに、二重の斬撃を放ち続けるアーテム。
彼の素早い身のこなしと、全身を捻りしならせる攻撃は、彼自身の身体へも負担を強いるもの。
だが、それを補って余りある程の威力と速度、そして予想できない動きが、シャーフから余裕の表情を奪っていく。
「くッ・・・! 何て型破りな奴だッ・・・。 それに、この雷撃はッ・・・!」
アーテムの使う技は雷撃を纏い、例え刀で防いだとしても、接触部から雷が伝い相手の身体を痺れさせていく。
それに気づいたシャーフは、彼の攻撃を避けることにシフトし、合間を見て刀を振るうが、彼の動きを捉えきれずにいた。
ところが、押しているように見えていたアーテムの方が先に、鮮血に身を染める。
「うぅッ・・・。 何故だッ!? 攻撃は貰ってねぇ筈なのにッ・・・!!
刀を突きの構えにしたまま動きを止めるシャーフ。
「月輝流・月型・・・、残月・・・そして雨夜月。 これでもう、その五月蝿い動きは封じたぞ・・・」
「あぁッ!? こんなもので俺が止まるか・・・」
強引に動き出すアーテムの身体から突然、無数の切り傷が発生し、彼の動きを止める。
「何がッ・・・起きてやがるッ!? 何で傷がッ・・・!」
それは今まさに、ナーゲルの身の周りに起きている現象と同じだった。
「奴の技だ・・・。 だが何故見えない? アーテムと戦っている間にもナーゲルの周りには存在するのか?」
ミアには全く見当がつかない。
いや、この場にいる誰もがシャーフの妙技に惑わされていた。
しかし、その状況の中、逸早くシャーフの使う月輝流の手掛かりを掴んだのは、冷静に状況を観ていたツクヨだった。
「・・・光だ・・・。 聖騎士隊はみんな光に纏わる技を使う筈だッ! きっとこの技にも、光が関係している」
そう言うとツクヨは、近くの窓ガラスを割ると大きめのガラス片を手に持ち、ナーゲルの頭上へと投げた。
「ミアッ! あれを撃ってくれッ!!」
ツクヨの突然の行動に、まだ理解の追いついていないミアだったが、言われた通り銃でツクヨの投げたガラス片を撃ち抜く。
「ナーゲルすまない・・・。 でも、周りを良く見ておいてくれッ!」
ナーゲルの周りに、雨のように降り注ぐガラスの欠片が、光を反射させることにより、辺りに起きている異様な光景を映し出す。
「なッ・・・何だこれはッ!?」
ナーゲルの周りには、水とも空間の歪みとも見える斬撃の衝撃波が、空気中に固定され、それがそこら中に散りばめられていたのだ。
「衝撃波だッ・・・。 見えない斬撃の衝撃波が・・・空中に配置されているっス!!」
その様子を見ていたアーテムが、技のカラクリを理解し、動き出す。
「なるほど・・・、そう言うことかよッ!」
刀身の反射で辺りを見ながら、ジャンプ出来る位置を見つけ、素早く移動したアーテムは跳躍すると、短剣をシャーフの周りへばら撒いた。
「降り注ぐ《ドルヒ・》
雨のように降り注ぐ短剣が、周囲に固定された見えざる斬撃を映し出し、そして削り取っていく。
「チッ・・・! 勘のいい奴だ・・・! ここまで来ただけのことはある・・・ということかッ!」
焦燥の色を見せるシャーフに、彼への道を切り開いたアーテムが、短剣の雨と共に落ちてくる。
「捉えたぜッ!
それは宛ら、雨の中に落ちてくる落雷のように、刀と小太刀を構え、落下の力を加え更に強力となった一撃が、シャーフへと落下する。
目にも留まらぬ速さで落ちる、雷光となったアーテムを避けるため、飛んで退こうとしたが間に合わず、刀で受け止めるシャーフ。
しかし、アーテムの攻撃は重く強力なため衝撃を去なすことが出来ず、更に雷を纏った斬撃が刀を伝い、身体中を駆け巡る。
「ぅぉぉぉあああッ!!!」
シャーフの辺りには、室内にいるにも関わらず、まるで落雷したかのような焦げた跡と残火が、床一帯に広がっていた。
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