理想のため

弾はモンスターに命中すると、脚の内部で膨張し爆発すると、鉤爪状の突起がそれぞれの軌道で四散する。


真っ暗な視界の中、ツクヨは鈍い破裂音を聴き取ると、手にした剣に力が入る。


「お前と近接している私には、お前の脚の位置がよく分かる。 そして、この一撃でお前の機動力を断つッ!」


構えた剣に力が入る。破裂音のした位置目掛けて放たれた一閃は、ミアの銃弾により内部を破壊された脚を両断するには十分な威力だった。


「ギャァァァァァーーーッ!」


前脚と後ろ脚を片方ずつ失い、倒れ込む四足獣が地面でのたうち回るが、徐々にその行動も取れなくなる。


「まさか倒してしまうとは・・・。 君達は一体何者なんだ・・・?」


聖騎士は魔法で自身の視界を取り戻すと、近くにいたミア、ツクヨの順に二人の視界も戻してくれた。


「驚いたのはこっちさ。 ツクヨのクラス、剣士で上位モンスターとここまで渡り合えるということは、その熟練度は上位クラスにも匹敵するということか・・・」


ツクヨは、シンやミアのように上位クラスではないが、剣士の熟練度が上位クラスに匹敵するほど高まっていた。


「なぁ、シャルロットはどうしているだろう? 彼女は無事なんだろうか?」


シャルロットとは、まだ騒動が起きてから会っていない。


「彼女なら、城内の上層に向かっていくのを見た者がいた。 イデアール隊長の元へ向かったのではないか?」


「イデアール・・・?」


二人は顔を見合わせ、聖騎士にイデアールのことと、城内の何処にいるのかを問い詰めると、急ぎシャルロットの元へ向かった。






時は少し遡り、動乱を知ったイデアールがシュトラールいる玉座の間へと到着したところから始まる。


「シュトラール様ッ! 聖都国内の各地にてモンスターが現れましたッ! そしてモンスターの出現場所からは毒が散布されたとのこと・・・。 シュトラール様、如何様にして・・・」


イデアールがシュトラールへ、国内に起きている動乱の説明をし出すが、シュトラールは全くと言っていいほど、動揺することもなく澄ましていた。


そして、イデアールが玉座の間に到着するよりも早く、既にそこにいたシャーフとリーベ、そしてシュトラール直属の聖騎士隊も同様、慌てる様子もなく、ただイデアールの報告を聞いているだけだった。


「シュトラール様・・・?」


「慌てるな、イデアール。 皆の者! よく聞け! これより我らは聖都国内に入り込んだ”悪“を根絶する。 今こそ、我々が掲げた正しき者だけの黄金郷を築き上げる時ッ! 迷う事なくッ、疑う事なくッ、正義の”裁き“を執行するのだッ!」


「ハッ!!」


一斉に足を揃える音と、剣を胸に掲げ、シュトラールの言葉に忠誠を誓う一同。


そして聖騎士達は、隊列を組み歩き出すと、玉座の間を後にした。


部屋に残ったのは、シュトラール・シャーフ・リーベ、そして何がなんだか分からず唖然として膝をついたままのイデアールだけとなった。


「こ・・・これは・・・? 一体どういうことでしょうか?」


「イデアールよ・・・。 君の功績は大きい・・・、君がいなければ実現し得なかった事だ。 後のことは我々に任せて、君には聖都への城門にて、誰も中に入れないよう防衛をしていて貰いたい」


未だ何事か理解できない様子のイデアール。


そして作戦に向かう様子のリーベが、すれ違いざまにイデアールへ言葉をかけた。


「もうすぐ私達の理想が形になるわ・・・、その瞬間に立ち会える喜び・・・。 素敵だと思わない? そしてここから方舟を飛ばして世界へ広めていく、黄金郷の使徒となるの・・・」


リーベの目つきが険しくなり、イデアールを鼓舞するように最後の言葉を残す。


「思い出して。 私達が見てきた“人の闇を”、“人の業を”、 “人の悪を”。 私達でなければ出来ないのよ・・・、痛みや苦しみを知る私達でなければ・・・」


そう言うと、リーベはゆっくりと部屋を後にする。


「リーベ・・・? 何を言ってるんだ・・・。 俺の功績・・・?」


イデアールは、リーベの言葉やシュトラールの言った功績という単語に、何か違和感を感じた。


「俺がしたこと・・・、俺にしかできなかったこと・・・、モンスターが各地に・・・まさかッ!!」


彼の脳内にあった嫌な予感が、いよいよ現実味を帯びてきていた。


イデアールは近隣の山岳地帯で、上位モンスター討伐の任に着き、ドロップ品を持ち込んだ。


聖都ユスティーチ国内の各地にある、ルーフェン・ヴォルフのアジトの出入り口となっている建物に、彼ら宛のアイテムやシュトラールの“ギフト”が入った荷物を運んだ。


イデアールは聖都内のみならず、市街地やルーフェン・ヴォルフの面々、そして朝孝とも友好的に接してきた。


「ぁッ・・・あぁ・・・、そんな・・・。 シュトラール様・・・、俺は一体何を・・・」


イデアールの中で答えは既に出ていた。


しかし、もしかしたらシュトラールの口から違う答えが聞けるかもしれないと、彼はそんな不確かなものに縋りたくなる程の、身の震えを感じていた。


シュトラールは、何も言わない。


何も答えない。


それが、シュトラールの“答え”だったから。


イデアールの感情は、怒りへと変わった。


信じていた者に裏切られ、利用され、自分にもう一つの大志を抱かせてくれた人達に対する非人道的な仕打ちを、イデアール自らの手で行わせたシュトラールに、疑問を抱かざるにはいられなかった。


「何でこんなことをッ! 何故、俺にやらせたんですかッ! シュトラール様ッ!!」


立ち上がり、シュトラールへと歩み寄るイデアールを、シャーフが止める。


「イデアールッ!! ・・・イデアール。 落ち着け、イデアール。 そして目を覚ませ。 俺達の理想とはなんだ? お前が見てきたものは何だった? イデアール。善良な者が虐げられ、何も知らぬ無垢なる者達が利用され、“悪”に染まってきた」


冷静にイデアールの両肩を掴み、宥めるシャーフ。


「そしてお前もそれに加担し、止めることが出来なかった・・・。そんなものを世界から・・・国からなくしたいと思ったから、今ここにいるんじゃないのか? 自分の罪を償う為にも、まずはこの国から“悪”を消し去る。その為の準備をお前がしたに過ぎない」


「“悪”・・・? “悪”だって? あの人達がか?」


シャーフにより、冷静さを取り戻してきたイデアールは、何でこんなことをする必要があったのか、シャーフに尋ねる。


そして、それに答えたのはシャーフではなく、シュトラール本人だった。

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