わたしと探偵とカフェオレと

シラホシ

第1話

学習机には、鳥の嘴のような物が付いた仮面が置いて在る。

傍らには、山積みの資料と「カフェオレ探偵事務所」の名刺、そして一本のカフェオレがあった。

彼が慣れた手付きで缶を空ける。ゴクゴクという音を立て、飲み干したのか缶を置くと、制服から灰色のパーカーと黒のジャージに着替えた。

仕上げにマスクを手に取り、顔に着ける。

「さぁ、本日も張り切って参りましょうか。」


1、わたしと探偵事務所


「ねーねー、聞いてた?」

我に返る。

「ご、ごめんね。ちょっとボーっとしてた」

「七不思議の話。旧校舎の三階の事務室に何かいる…って話。」

「なんか、なんでも屋って誰がか言ってた気がする」

「そうなんだ。でも、誰もそんなの使わないでしょ」

場の空気の為に適当に返す。

他の友達のもとへ離れて行く姿を見送った。

私は塚本こころ。

何処にでもいるような平凡な中2。部活なんかやってないし、勉強もそこそこ。絶賛陰キャ人生を謳歌してるような女子。

「帰ろっか…」

独り鞄を持って呟く。

何の取り柄もない、楽しみもない。話が合わず、陽キャの女子からはノリが悪いと嫌われる。

こんな日はぱっぱと宿題を終わらせて寝るに限る。

ベッドに寝転んでも、深い溜め息が次から次へと出てくるだけで、一向にやることが無くなった。睡魔に身を委ねた。

こんな平凡な1日をずっと過ごしてきた。これまでも、たぶん、これからも。

次の日。案外スッキリと起きる事ができた。

こんないい日は早くから学校に行くに限る。

私の通う永世中学校までは自転車で10分程度だ。

着替えと食事を済ませ、家を出る。風の音がいつもより騒々しかった。

教室に着く。でも、何故か異変を感じる。

私が入った瞬間、本を読んでいる大人しい男子も、いつもうるさい女子も、すべての人間が黙りこくって私を見た。

でも、すぐにその静けさは収まった。

何があったのか、といつもの二人に話しかける。

「さっき、何があったの?」

…何も返ってこない。

「ねぇ」

無視。

本を読んでいる男子にも声をかける。

「ねぇ、さっきの何?」

…なんで?なんで無視なの?

その答えとなる三文字はすぐに頭に浮かんだ。

いじめ、だった。

おそらく私を嫌っている女子が、クラスを巻き込み無視を働いたらしい。

下らない。実に下らない。

私は席に座ると顔色一つ変えず放課を待った。

それは、私の頭にまだある記憶が残っていたからだ。

放課後。無心で歩いていた。

行き着いた先は旧校舎、三階の事務室。

私は強がるだけで、無視されたことにかなり心が傷んでいた。

簡単な考えだ。なんでも屋に助けて貰おう、と。

その時の私はかなり焦燥していた。

どれくらいか、って?

そうだね…ドアの「CLOSE」の字を見ずに部屋に入るぐらいかな。

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