第12話 あっけない幕切れ

「と言うわけですから明日の十時にこの場所でどうですか」


 そんな風に会話を終了させてからもう二時間ぐらいたっただろうか。

一人にしてくれといって、一応本家に用意されている部屋で寛いでいる訳だが、なんか余計なものが付属している。

 鷺宮のアホだ、俺が逃げるとでも思っているのか視線が突き刺さるようで少しばかり居心地が悪い。


 だがすぐその厳しい視線は穏やかになった。


「あれからもう二年近いですね」


 不意にかけられた言葉はあいつにしては意外な言葉だ。

 こいつがあの頃を振り返るとろくなことがないが今回は俺の嫌な予感センサーに反応もないので問題ないのだろう。


「そうか、確か通り魔がいきなり襲い掛かってきて手加減出来ずに叩き伏せたんだよな。それがまさかあの頃地元を騒がせていた、通り魔で女しかもドSと来ていた。なんか学校の同級生がしりに異物つっこまれて悲鳴を上げていたしあの時は必死になったなぁ」

「そういえば少し昔はやんちゃが過ぎましたよね。あの頃は自分に足りないのは実戦だと思って、手当たり次第に挑んでいたんですよ」


 こいつ今あの外道をやんちゃで済ましたよ。

 俺がこいつにやった行為も最低に位置する部類だが、こいつのやった行為も大体人道に反している。中でも印象に残っているのは全裸にされていぬ耳を付けられた挙句、電信柱に紐でくくられた地元の先輩方。


 あんな悲劇はそうそうない、これはやんちゃで済ましていいレベルじゃないだろう。


「ああ、お前が俺と同等の屑である事は知っているが負けた気がしたよ」

「そんなはずはありません貴方こそ負けた相手にあそこまで屈辱を与えていたじゃないですか。この前の松永との一戦のあと、私にまで手伝わせて油性で悪戯書きしたのち、男子トイレに放り込んで私は雌豚ですと言わせて指差して爆笑してたのを忘れてませんよ」

「ふざけんな、その後に松永の娘は実は男だって情報撒き散らした奴の言う台詞か」


 そう言うと目を丸くさせてこいつは驚いた。いや驚くところないだろうとか思うが何かしらの理由があると思いたい。


「所詮同じ穴の狢じゃないですか、敵対する存在には私は手加減しないでつぶすと言うのが本文ですから」

「敵対してない奴にも手加減無しだがな」


 俺なんて戦艦突撃とかそんな感じだぞ。

 だが目をあいつは細めると、鼻を鳴らすようにして笑いかける。


「当然じゃないですか、貴方は私より強いんですから。弱い相手はどうでもいいですけれど、貴方は別格ですよ。こればかりは不動明王だろうと言言権現でも与えるわけには行かないんです、最初で最後の最大の敵でしょうから」

「冗談じゃないこれで最後だ、俺はお前と違って戦う事に何の興味もないんだよ」

「さてどうでしょうね、戦闘狂じゃないにしろ、敗北主義ではないようですから、戦い始めたら否応無しに本気を出すんでしょう。それこそ外道に下劣を極めて、悪辣を鮮烈に劣悪を貫くように」


 なんでそこまで俺を人間的に貶めるのか理解が出来ないが、俺の言葉を待たずに犬は立ち上がって部屋からで行った。

 やたらと軽い足取りに一体何が篭められているのかわからないが、少なくとも俺にとってプラスになるような事じゃないのだろう。いやな余寒とも違うなんともいえない不快感はどうしても俺の表情を暗くさせる。


「だから今回は逃がしませんよ。ようやく捕らえたんですから」


 ただその凶暴に歪んだ表情はやはりろくでもない。

 けれどあいつの顔を見ていたら一つだけ思うこともあった。今回の戦いで勝とうが負けようが、生涯俺はあいつに付きまとわれる気がしてならないと。


 そんな予測もしたくない未来予想図が嫌な予感と共にあふれ出した。


***



 それは朝食が終わると同時に始まった。

 なぜかちゃぶ台で真向かいに座っていた俺とあいつは、ご馳走様の合図と共に決闘を始めたのだ。殆ど不意打ちと変わらないが一応時間指定をしていたので、こういうこともあるだろうと予想はついていたがいきなり大火力の圧殺を始める辺り殺す気だ。

 だがどうにも俺がその程度回避する事を見越しているのだろう、更に凶悪な次弾がすでにあいつの手の中に装填されていた。


「おいばーさん連中こいつ絶対に俺を殺す気だぞ」

「そのていどじゃお前さんが死なない事は百も承知です」


 冗談じゃない、不用意に俺は能力を使う戦い方をしたくない。こういうとき昔ばーさんに教えてもらった、よく分からない戦闘術が役に立つ。能力者の全員にいえることだが、その攻撃はどうしても直線的になる事が多い。

 これはだからこそ通じる戦い方なのだろう、中と同じく射線を固定してそれを軸にしたたまま、くるくると回って回避する。


 ありえない破壊力を篭められた一撃が写島の本家を一撃で吹き飛ばすが、最強ばーさん連合はそ知らぬ顔で笑っていた。

 明らかに前戦った時より破壊力が増大しているんだが、しかも精度も相当なものに、何で花嫁修業でこんなに強くなれるんだよ。絶対に何か仕込んでるな。


「流石です、あれをあんな風に回避するのは私が知る限り貴方だけですよ。やはりと言うか確実に、遠距離戦闘に勝ち目はありませんね」

「ふざけんな、本気で逃げ回ってるだろうが、俺は強くないといっているだろうが」

「ここまで冗談を言われてどうにかなると思ってるんですか。貴方は間違い無く強い、私の最強の敵になりえるほどに」


 聞け、頼むから俺の話を聞けよ。

 支配者の能力はある意味不動明王よりも悪辣だ。何しろ能力的には属性能力である炎ではまともに戦う事すら普通は不可能なのである。

 家のばあさんが言言権現にあれが不動明王だとしたら、あいつらの称号は宝生如来、金剛界五仏の一つ平等性智の悟りを意味する存在。


 それこそある意味俺たち写島なんかと較べるのもおこがましい本物だ。

 卑怯者の写島などとは格が違う。今あいつの能力制御レベルなら俺の言霊さえ縛る可能性がある、だからこそ支配者の前で不用意に能力なんぞつかえないわけだが、それを知ってか知らずか嬉々として俺に接近戦を挑もうとしやがる。


「くそ、せめて耳栓使うような三下だったらもう潰せてるのに」

「冗談でしょうあんたの前で五感のうち一つでも消すなんてそんな弱点を晒すマネが出来るはずないじゃないですか、大体私の能力の前ではどうにでもなりますしね」


 これ自体は昔からばれているからいいが、本格的に手加減どころか命がけで行く必要があるってどういうことだよ。

 俺は人間だぞ、あんな対隕石迎撃兵器みたいな奴となんで戦わなくちゃならんのだ。といつもなら言うところなのだが、そろそろ本格的に現実逃避している隙がなくなってきた。


 近接戦闘なら本来俺の方に分があるんだが、なにをばーさん連中がしたのかわからないが、あっちの方が今になっては上手。最悪である、予想と言うか確実だろうがどうせ支配で身体強化を行なっているのだろう。明らかにこいつの二ヶ月前の機動力と段違いである。


「くそがこの馬鹿力め、能力で負けて力で負けてって、身長以外勝ってるところないとか最悪だろう」

「大丈夫です、そのときは養って上げますから」


 どうにか攻撃を受け流しながら能力と言う能力を回避していくがこれじゃジリ貧だ。

 一瞬でいいから隙を作らなければ俺のほうが間違い無く数で負けてしまう。もともとそんなに頑張れる方じゃないんださっさと形勢を変えてみるか。


「お断りだ、とりあえず『地面に足を取られろ』」


 それと同時にまる土が鷺宮の足を掴んで一瞬でも攻撃を止めた。

 こういうチャンスを逃したら俺は死んでしまうが攻撃が出来ない。まるで俺の行動を狙い済ましていたかのように、辺りに衝撃波を撒き散らして俺を吹き飛ばす。


 どうにか着地には成功したが、追撃があることぐらい理解できる。

 言霊を操り強引に着地地点をずらすが、俺の本来の着地地点はいきなり消滅した。どうしてもその光景に悪寒が走る、だってあれ確実にあたれば死ぬのだ。


「全くどこでどう攻撃してくるか分かっているはずなのに本当にやりづらい」

「俺はその反則的火力に涙が出てくる」


 くそ、これから本当の意味で本気にならないと殺される。

 流石に素手で勝てると思ってなかったが、あいつも奥の手がある状況で、先に手札を見せるのは嫌だったのに、どうしようもないぐらいに成長してやがる。


 戦うのが嫌なおれは全く成長していないがな、むしろ前より劣化してるが。


 「よっしゃ殺してくれー、そいつが消えれば俺たちが跡取りになれるんだー」的な声を分家がほざいていたので、言霊で全裸で縛られるのが誰よりも好きな男にお前はなると洗脳をかけたりしていた所為もあるかもしれないが、こいつ油断しやがらないせいで対応が面倒を積み重ねる必要がある。


「これでいい加減に本気になってください」

「冗談じゃねぇ『世界よこんなところにこんな異常があっていいのか』」


 あーもう、これであいつの表情が楽しくわらっているの外野でも理解できる。

 かつてこれで俺はあいつを叩きつぶした。俺最強の必殺技であるが、二十パーセント程度かよ、どうせ本人にはこれは聞きもしないことぐらい分かってるんだ。

 本来なら七十パーセントは削れる代物なんだが、本人に働きかけないからこんなもんだろう。


「能力狭窄、でましたよ。これですよこれ、貴方の本気の一端、これで私も本気になれる」


 そしてやっぱりこうなるんだ。

 こいつは根っからの戦闘狂、しかも相手がかつて負かした相手とくればそりゃ楽しいかぎりだろうあいつは。


「一つ教わったんですが、貴方の言霊も私の支配も根本的には世界に働きかけるすべであるそうです。つまりは、私もその世界を屈服させれば効かない訳ですよねこの能力も」


 って、ちょ、はぁ、えーーー。


「つまりは振り出しに戻ってお前がパワーアップと、本当に冗談じゃない」

「だからもう一つ段階を超えてもらいましょうか」


 冗談じゃないよ。簡単に見せられるか。


***



 今の戦力比は、戦艦と竹やり歩兵と言う絶望的な代物。

 俺の最秘奥の一つである能力狭窄は、問答無用で支配の前に屈服させられる。そもそも音による強制世界介入に近い能力である言霊使いは所詮支配の下位互換能力過ぎない。


 いや元々これは破られるとは思っていたが、ここまであっさりだと涙しか出てこない。


「さあ次があるんでしょう、貴方ならきっと何かしてくれるに決まっています魔術師さん」

「今更古い名前を語りやがって明、お前は雑魚にいくらなんでも関わりすぎだろう」

「雑魚であろうと私にとっては最強なんですよ。そう言えば始めて私の名前を単体で使ってくれましたね」


 ああ、多少は認めてやるよ。

 大抵はこれでどうにでもなるってのに、それさえ踏破してくれりゃ認めないわけにはいかないだろう。


「だがもう一つは簡単にゃつかえねーよ」

「なら引き吊り出すまでですよ」


 だって近距離以外で使えねーし。

 本来は能力狭窄との併用技だぞ、つまりここからは本当に死線を潜れと、ああ目の前が真っ暗になっていく。命賭けろというわけかい、平穏無事を願う俺にそれは酷すぎるだろう。

 だがここで逃げる選択肢はどうやらないようだ。そのための世界最強最悪が二人いるのだろう。


 最悪だ。


 あいつはあいつで明らかに何かしらの破壊力のある攻撃が用意されている、しかもこれは回避できる類じゃない。しかも既に発動段階、俺がなにをするかを楽しみに見ている、そんな強者の余裕が俺に出来るわけがないのに酷すぎる話だ。


「まずは小手調べか、俺に勝つには最大火力で秒殺しろと言っているのに馬鹿か『じゃあとりあえずこれと拮抗してろ』」


 それと同時に用意していた銃をあいつにぶちまける。

 どうやら俺がこの状況で武器を使ったの事に驚いたのか、支配の能力が分散して虚ができた。一瞬であるがここに全てをかけるしかないのだ。


 先ほどの言霊は、あいつをその場所に杭打つための策。銃をひたすらにぶちまけるがそれが役に立つとは思えないが、足止めにぐらいはなる。


「卑怯な、正々堂々と」

「だから正々堂々と卑怯に戦ってやってるだろうが」

「いいわけをしないで下さい」


 いいわけなんてしてねーよ。

 言霊で銃弾を強引に切り替えながら間断のない射撃を行なうがこれじゃあどうにもならない。ただあいつとの距離を零にするためだけだ、支配による物理掌握で触れる事も言霊も聞かないだろうが、それぐらいの策はある。


 一歩一歩踏み込んでいく中あいつの顔を見た振りまく笑みに、どうあっても感じる余裕に俺は勝利のを確信する。だからその余裕一生していてもらうぞ。


「ここまで近付いたって何にも出来ないでしょう」

「アホかこの距離にきたら、一つあるだろう。強制干渉が」


 物理障壁に手をへし折られるが、触れることだけは可能とした。ならもうこの障壁は要らないだろう。


「『さっさと自然にもどれこれは現実ですらない』」


 能力自身に狭窄をかける。

 いくらあいつでも直接干渉までしてかける言霊には、流石に動揺の色を隠せないのだろう。驚愕が顔面に張り付いたままだ。

 だがその表情は駄目だろう。


「あ、ずるいですよ。早く切り札を見せてくださいよ」

「ずるかねーよ。それに聞かせてやるよ俺の切り札を、聴いておけ馬鹿が」


 折れていない手であいつを殴りつけるがたいしたダメージじゃないだろう。そもそも言霊で痛覚遮断していなければ泣き叫んでいるところだ、そんな状態の拳は次の手のための布石に過ぎない。

 あいつに抱きつくように俺は近寄る。いくら支配の能力でもじかに言霊聞かされれば否応無しに刻まれるだろう。


「あのなぁ、『俺はそれほど強くない』理解しろよ」


 決まった、これでどうにか五分にまでは持ち込める。何より付け入る手場所が出来た。

 しかしこの言葉を聴いたとき、あいつを除く全員があきれた顔をした。目の前にいる鷺宮の明に抱きついた所為だろうか、だがすぐに離脱しなければ能力で圧殺される。


 あのさー何で俺のいたところにプラズマが浮ぶんだよどういう殺意だよ。


「なんですか今のは、何の意味があるっていうんですか」

「あるさ、とてつもなく大きな意味がな」


 さて準備は催眠銃だけでいいか。

 後はもうワンサイドゲームだろう。本来の使い方をしていないが、誰もこの意味を理解できない。つまりは俺の切り札は把握していない、これが一番の重畳だ。


 だがもう負けはないぞ。


 銃口をあいつに向ける。命中する言霊を加えて、あいつを睨みつける。


「これで終わりだよ」

「何を言っているんですそんな代物で私をどうやって倒すつもりですか」


 そりゃ気付かないだろう、この言霊をあいつには念入りにここ数ヶ月かけて刻み付けてやったんだ。

 俺を無意識化で油断させる言霊なんて、ずるいとは言わせないぞこれが俺の勝ち方だ。これであいつは俺の能力を完全に弱いと判断して防御さえしないだろう。


「って、え、なんで、こんな事が起きるんですか。物理掌握が出来ない、美春さん私に何をしたんですか」

「内緒だよ。ただお前は生涯を尽く油断しろ」


 後は引き金を弾いて終了、即効性の睡眠薬にそのまま明は倒れていく。

 だが俺もそこで限界だったらしく気絶してしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る