第3話 色々なアイの形

 人には多種多様の感情がある、俺こと、私(わたくし)こと、一体一人称がさっぱりな人間こと、三車道行は恋をしてしまった。可愛らしい名前、その喉から零れる声にいつも心が震える。

 その逞しい能力に何時でも見惚れる、美しい、まろこと私(わたくし)はあの人のことを考えるたびに、胸が躍ります。


 いつものように軽やかなステップを、いつものように艶やかなワルツを、


 けどあの人は私こと私に、気付いてもくれない、それは身分(クラス)が違うから。それとも私をしらないからでしょうか。俺こと私は美しく涙を流します。

 あの人とわてこと私は、触れ合った事すらないのです。


 今その恋を成就するべく、手紙を下駄箱に入れて後は奇跡を待ち望むだけ。


***


 人の恋に俺は口を出さない、他人の恋愛をどうとも思わない。

 だが一つ言わせてくれ強引に巻き込ませるのは、反則です。学校に来て、堂々と机の上にあの女宛のラブレターが置かれていた。


「どうです私は、それはそれはもてるんです」

「そうか、鷺宮の権力はそりゃ欲しいだろうな。それがこんな馬鹿だ、騙すにはちょうどいいって所だろう」


 それか顔だろう、性格は絶対にありえない。俺は認めないそんな代物。

 こいつの性格を端的に現すのなら、馬鹿だ。しかも頭のいい馬鹿、俺は大嫌いです。


「なんですか貴方だってもらったじゃないですか」

「と言うかいつの時代の代物だよ。手紙で告白って、こんなもん『燃やして捨てろ』」


 言霊使いらしい簡単な抹消法だ、これでビビルと思ったが能力者としての力の差が簡単に俺の能力を阻む。


「現象化率三パーセントで能力を使うのやめてくれませんか」

「待て四だ、俺が一生懸命努力して上げた一パーセントを何マイナスしてやがる」

「現象化率2000パーセントですが私」


 この能力成金め、自慢か自慢過ぎるだろう。支配率にいたってはその十倍だぞ、人間じゃありませんこいつ。 不動明王は、その百倍だったかな。どうやって勝てばいいかわからないレベルだろう、核兵器さえ無効に出来たっていうし。


「そんな話しはどうでもいいんだ、俺だってラブレターぐらいもらえるさ」

「ありえませんが」

「失礼な俺だってな自演と言う方法を使えばもらえるんだよ」

「いやそれは、無駄な抵抗と言うのでは」


 そーですが何か悪い事でもあるのでしょうかね。


「こんなものもらえても私としても意味がないのですがね、六家か松永それか貴方の家しか、揺るされるわけがないでしょう大家協定の所為でそれは当然の事になってるじゃないですか」

「俺は一般人だから関係ないし」

「大家協定に貴方の家と松永が入っている理由を忘れたんですか」


 その所為でうちの親父な家から逃げ出したんだけどね。 その所為でありえないような就職難にあってようやく仕事を手に入れた。今の職業、それも大家協定の所為だ。


「俺はどうでもいいがね。俺は能力者としては五流だし、俺はもう写島であって写島じゃないし、何で関わらないで下さい俺は一般人なので」

「どうせ、貴方を中心に何度でも騒ぎがおきますよ。私を痴女にしたりしたんですから、それ相応の被害は絶対にあります」


 その俺さえ確信できる予言じみたのやめて欲しいよな。燃えちまえ燃えちまえ、俺は未来よりも今の平穏が好きなんだよ。

 だからこそなんありえない、男からのラブレターを破り捨ててきたところなんだ。


 俺はもう、現実を捨てたい心境だよ。どうせ誰も許しちゃくれないだろうが、この女にあってから俺は地獄に落ちていっている気がする。


***


 人生ってのは大概にしてろくでもないことは俺は理解していた。

 一日一回の男からのラブレターだってそう言う馬鹿もいるって思っていたさ。だがそれが俺の方向に来るということ自体大概ろくでもないだろう、俺の人生はトラブルとの相性が致命的に良すぎる。


「さて、今日は能力実技です」

「俺はそれに出なくていいというお墨付きだ」


 そもそも俺の戦い方は、松永よりも徹底した卑怯さ加減が基盤にあるんだ。日本における未来の塊たちを、俺と言う反則技で埋もれさせるわけには行かない。と言う建前を使わせてもらった。

 バーさんも言っていたな、あっしらの力はどうにもこうにも騒動を起こす代物になるって。偶然不動明王と戦ったあのバーさんさえそれまでは普通の少女だったというんだから俺らの家系は何処まで運がないんだろうか。


「いえあなた以外に私とやりあえるような人間は明王ぐらいのものですよ」

「現象化率四パーセントの能力者になんてことを言いやがる。俺は能力ブルジョアじゃないんだよ、能力実技は能力を同士の打ち合いだろうが、いっぺん脳髄引きずり出して考えろ」


 えーと不服そうに頬を膨らませるが、俺にとっては大迷惑以外の何者でもない。

 打ち合った瞬間ぼろ雑巾になる。こいつは俺の能力の本質を知っているくせになんて面倒な事を言うのか分からない。どうにも幻想でも見ているのだろう、ただのアッパーな馬鹿だ。


「失礼な、総合実技ならこの学園に貴方に敵うものがいるはずが無いというのに」

「そもそも能力に戦闘力なんか求めるこの時代が間違ってんだよ。そもそも戦争自体が能力者によって決まるこの情勢の方が地獄なんだよ。何で経済で力を振るわないのか俺には疑問だね」


 それより俺はレポートを書きたいんだよ。俺の頭はその辺の人間よりはまだマシだ、常識はあるし勉学もきちんとするから優良な人間だろう。なにしろCランク能力者が

 本当だよあんな戦争ありか、不動明王が現れて以来国連はある戦争方法を発言した。能力者闘争と言うものだ、世界には色々なごたごたがある言葉だけではどうにもならない事がある。それを全て能力者との闘争で賄おうというものだ。

 これの本当の理由は能力者たちの力の向けどころを決めてやり、犯罪率の停止を狙ったものだっただろう。しかし俺の家のばーさんが不動明王を倒すまで、彼女を有するユーラシア同盟が暴虐を尽くした。


 だからこそ今能力者には力が求められる。

 あぶれたとしても企業の交渉ごともこれで済ます場合が多い。これを経済戦争と言うが、文明人としてこれは俺からすれば常識外だ。

 そしてこれ自体が一つの宣伝となっているため、日夜どこかで能力者の戦いが出される事になっている。


「人はどちらにしろ、平和であれば争いを、争いであれば平和を求める浅ましい生物ですから」

「身も蓋もない、俺はそんな事認めて生きていくには辛い人生だ。だが人間の本質は性悪説だと思っている。お前みたいな悪魔がその代表だ」


 悪魔は人を優しくだめにする、天使は俺に厳しいがそれには意味がある。

 けど君はどう考えても俺に厳しい挙句に、駄目にするって言う最悪のパターンだよね。


「本当にああいえばこういう人ですね、絶対にまた心の中で私に対して凄い侮辱が行なわれているようですけど、貴方の周りで起きる騒ぎは写島の定めでしょう日本国家最後の砦になりえるからこそ介入が起きて当然と思いますよ」

「あーそうだろうよ、お前みたいな名家のくせに無能能力者がいるから。Cランク能力者に負けるような高ランクがでてしまうんだよ」


 だがこいつはそれを不服とも思っていないのだろう、一笑の元に俺の言葉を切った。


「いいですか本来ランクは絶対です。貴方がおかしいだけです、Cランク程度の能力者が、松永流を会得しているわけでもなく勝利なんてそんな事は、大自然に挑む人間に過ぎないんですよ」

「それこそおかしい、ただの人間が人間に敵わない道理があってたまるか」

「そうです、それですよ、貴方と他の能力者の明確な差は、写島にあって他のところにはない。山を吹き飛ばす人間に勝てると思う人間自体がいないんですよ。けど貴方達は挑める、それが明確な差です。

炎帝を倒した貴方の祖母だってそうじゃないですか、六道大家でさえ屈服するしかなかった能力者に、たかが人間に負けるかと言い張るその精神がこの世界の人間にあると思っているのですか」


 思うんじゃないのか?

 不思議そうに首を傾げてしまった、そんな事当たり前だろうが。だって空気を止めてやれば死ぬだろう、血を流せば死ぬだろう、感情だってあるんだろう。余裕だね。


「ほら、それですよそれ、心構えが尋常じゃない。そしてさらにそこから勝利を引き込む事ができる貴方達がおかしいだけです」

「そんなくだらないことはどうでもいい。お前みたいな能力過剰の人間が雑魚の言葉を聞いても利益にならないし雑魚の気持ちは分からないんだ」


 大体この話は常に平行線だ。能力の暴力しか出来ないあいつらと俺では、絶対的な選択肢に幅がありすぎる。


「この人はいつも自分の常識を低ランク者の言葉みたいに言って、会話するつもりあるんでしょうか」

「実はお前とはなかったりする」


 だってお前面倒なんだよ。とはいえない何しろこの女は、感情的になるとすぐに能力を使ってくる。

 しかし今回はいつもと様子が違うようだった。いきなり後ろから風邪流れてきたと思ったら、人類の最終大迷惑駄目女が吹っ飛んだ


 しかしながら俺にはいい予感はしない、いきなり溢れた嫌な予感は回避不能であり確実に起こる最悪を教えている。それでも衝撃の発生源を無視するわけにはいかない、振り向かない選択肢は俺に帰れない地獄を与える気がした。


 恐る恐る振り向くがそこには男が居た三車の嫡男、筋肉が隆起しているがそれさえ黄金比の則っているようなととのい方をしている。面食いであれば間違い無く喜ぶであろうととのった表情、それは野生的であり健康的であっても醜くない。


 けれど俺はその男を見て体を震わせた、その整った顔の潤んだ表情に火照った顔、初心な子供なら絵にでもなっただろうが断じていっておく気持ち悪いだけだ。

何よりこの音とこそ俺にラブレターなんて吐き気のするものを送ってきた男。


「ダーリン、俺様こと愛の奴隷こ私が助け参りました」


 猛々しい声が教室を揺さぶる、辺りに童謡が伝播するが俺一人だけはその言葉を静かに聴いていた。何度反芻しても同じ意味にしか聞こえなかったが、現実ではないと思いたかった。

そしてその言葉の理解を諦めたとき、その日初めて俺は人が人を殺す感情を理解した。


***



 場が騒然としていた。ありとあらゆる静寂が、クラス中を包んでいる。ふつふつと湧き上がるこの押さえようもない感情にきっと俺は傍観者のような目でそれを見ていただろう。

 俺には今のことは一切関係ないんだ。そう思えば何の不都合もない。そうさ一切不都合はないはずだ。


「さーてマイスィート、ラブでエキセントリックなフィーバーでもディスカッション?」


 視線を俺に固定して歩く能力者の大家である三車の嫡男。これが跡継ぎなのだから同情にこの家の人間達は値する。

 大体お前は気付いているのかといいたい。お前が攻撃した女は、六道大家の頂点鷺宮だと言うのにわかっているのだろうか。やたらと興奮して常軌を逸した目をしているが、単純な力押しではこの男に勝てる気さえしない。今ある小細工はすべて津波に飲み込まれる堤防だ。


「意味が分からない、取り敢えず会話のキャッチボールをするつもりがないならお前は過去の人になって欲しいんだが」

「つまりあっしこと彼であることの私を過去の男に入れてくれるということですね」

「どう聞いたらそんなフィルター越しの言葉に聞こえるか分からないが、取り敢えず能力も使わず三階から飛び降りて頭蓋骨陥没やら首の骨やら折ってきたらお前のさっきの妄言を耳に入れてやってもいいぞ」


 ぴしりと三車が固まった。ようやく俺の言いたいことを理解してくれたようで感謝したい。

 いや会話の通じる馬鹿でよかった、それにただで俺を怒らせておきながらすむとは思わせたくない。


「いい加減に起きろそこの馬鹿女、俺が手厚く介抱でもすると思ったか。狸寝入りもいいが、いー加減あの馬鹿血祭りに上げろよ」


 どちらにしろ半殺しには最低でもするつもりだ、社会的には死亡は確実にさせるが。

 俺の言葉を聴いた馬鹿の体はピクリと動いた。そして恥ずかしそうに起き上がる、それは俺にばれていたことなのか不意打ちを受けてしまったのことなのかは分からない。


「抱き上げるぐらいしてもいいと思います」

「蹴り上げるならいつでもしてやる」

「貴方はなぜいつもそう私に厳しいんですか。これだけ私が愛を振りまいているのに」

「あーあーそうだろうな確かにお前は俺に哀を振りまいているよ」


 なれたもんだな俺も、こいつとの会話は常にこんな感じだし。

 いつも俺の返す言葉に首をかしげる、この仕草は意外と可愛いと思うけど。こいつの内面を知っているから正直勘弁してほしい。


「まってください、なぜそんな鷺宮の破壊兵器と楽しく会話を」


 乱入するなもう少しで泣かせる事ができるんだ。


「と言うか何処が楽しい会話だ。この歩く人間災害は、俺の人生設計を壊滅させたんだぞ」

「どこがです、キチンとエリートコースに乗せてあげたじゃないですか」

「俺の憧れは親父だ、あんな平々凡々とした生活に憧れていたんだ。こんな人外魔境の魔窟に期待なんて言ったことは一切ない」


 馬鹿をそっちのけで言い合いを始める俺達。こいつのせいで俺は人生を破綻させたんだ言いたい事は山ほどある。

 だがあいつも不服そうに文句を言ってくる。

 確かにこのまま順当に行けば写島のネームバリューと、こいつをしとめたことのある経歴から企業と政府から引く手あまたになるだろう。だが俺はいたいのは嫌いだ、相手を痛めつけるのは大好きだが。


「憎いあんな売女に、男を奪われるなんて」


 こいつは取り敢えず除外しておこう。


「お前の所為だぜーんぶお前の所為だ、あの日理由も分からず雑魚をしとめた所為で俺の人生は破綻した」

「って何てこと言うんです、私の何処が弱いんですか」

「大体全部、Cランクに負ける高ランクが問題なだけだ。俺は弱いんだからな」


 弱いって言ったら弱いんだ。

 絶対に俺は強くない、耳を塞いで逃げるだけ。


「それより邪魔だからあれを吹き飛ばせ、そして二度と社会的に生きていけないようにしてやれ鷺宮の力で」

「あのですね六道大家は基本的に争っちゃいけないんですよ」

「俺の貞操が男に奪われる重大事件だな」

「ええ、それは全くその通りです」


 そのうち俺は猛獣使いの字を受け取ることに成るじゃないだろうかと思い始めてきている。

 俺飼い主、あの馬鹿猛獣、といった感じで。

 しかし忠実な犬のように能力を起動させたな。


「くたばりなさい、この非生産型人間」

「ふざけないで欲しい、鷺宮の破壊魔が生産型の人間なんて言ってほしくないですね」


 親能力同士が拮抗している。本来支配の前では六道大家でさえも一歩後退するというのに、実はあれも天才の一人か。この世界の中ではこういう馬鹿だけに才能を与えるようにしているのだろうかと思うとむなしくなる。


 だが二人の援護ぐらいしてやろう。俺だって慈悲の一つや二つ持っている。


『二人して自爆しろ』


 二人の完全な能力支配に穴を開ける。一つ穴をあければいい、優れた使い手ほど完璧な構成で起動するが、一箇所でも崩してやれば完璧すぎるゆえの構成だからこそ容易く崩れる。

 双方共に驚いたような顔をしていた、あーあーだから俺に負けるんだよお前らは。


 制御しきれなくなった能力はクラス中を巻き込んで、弾けとんだ。ちなみに一番の重症は俺、まさか本当に三階から投げ出されるとは思わなかった。

 結局一番馬鹿だったのは俺と言うことになったが、まさかこの二人が入院中の俺に入り浸ることになったのが問題なぐらいだ。


 結局俺以外マナイスがないのだがどうしてくれるか。

 それはまた後日の話になる。

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