第二章 最初の恋愛イベント③
セシリアは
差し入れを持ってくる
「もー、無理! マジ無理!!」
彼女は逃げていた。
セシリアが講堂でやらかしてから二週間。
彼女たちの『騎士に選ばれた王子様(?)』への熱は最高潮に達していた。常に追いかけ回されるセシリアにプライベートな時間なんてものは一切なく、どこに行くのにも、何をするのにも、いつもそばに
当然そんな状態なので、ギルバートとの作戦会議もあれ以来行われていない。
プライベートな時間がなくても、常に気を張った状態でも、セシリアだって最初のうちは
「セシル様、待ってくださいませ!」
「今ちょっと急いでるからごめんね!」
追いかけてくる女生徒を
「やっと一人になれた……」
植えてある木に背中を預けながら、そう
「リーンを誰かとくっつけないといけないのに、この状態じゃ動けないよー」
セシリアがギルバートの一票をもらってしまったので、リーンにはなんとしても誰かと
『移動教室ですね。一緒に行きませんか、セシル様』
『セシル様、お
『この問題はどうやって解くのか、教えてくださいませんか。セシル様』
セシル様、セシル様、セシル様、セシル様……
リーンはなぜか
「リーンに冷たくしたいけど、それはそれでセシリアの人生をセシルでなぞるだけのような気がするしなぁ……」
それではせっかく男装した意味もなくなってしまう。
「ま、
「にゃぁん!」
「『にゃぁん』?」
背後から聞こえてきた鳴き声に、セシリアは思考を中断し、振り返った。そこには
「わっ! かわいい!! マンチカンかな。ふわふわねぇ!」
「にゃぁ」
人に
白いお
「あら、あなた。足のところちょっと
ちょっと待ってね、とセシリアはポケットを
そして、血が
「これでよしっと! 後で保健室に寄ってみようか。もしかしたら消毒薬ぐらいならあるかもしれないし! あ、でも、人用の消毒薬って使ってもいいんだっけ?」
「にゃぁん?」
「モードレッド先生に聞いてみようね。あの人博学キャラだから、大体何でも聞いたら答えられると思うし!」
「うにゃ!」
鼻の頭を撫でれば、まるですり寄るように猫は頭を押し付けてきた。かわいい。
その時だった。セシリアが隠れている生け
セシリアは生け垣の
すると、そこには二人で
オスカー・アベル・プロスペレ。
彼はこの国の王太子であり、
(うわぁ。ヤバい場面に出くわしちゃった……)
セシリアは二人に見つからないように、
『苦しい役目を背負っているとは思うが、共に
オスカーは
(オスカーは最初からリーンのことが大好きなのよね。それで、誰よりもセシリアのことが
意にそぐわぬ婚約者であり、自分とリーンの仲を
一方のセシリアはオスカーのことを
実は、この『リーンを傷つけ、投獄され、処刑される』という流れはオスカールートじゃなくても
リーンが
(オスカーだけにはかかわらないようにしないと。特に、このイベントはヤバい……)
この恋愛イベントには続きがある。なんと、
いい
『人の婚約者になに色目を使ってるのよ、この
オスカーは
この時の話は後々にも何回か出てきて、セシリアにあらぬ疑いが向いた時『ああいうことをする女だから、犯人に
(よし!
このままここにいて、何かの
セシリアは身体を低くしたままそっと立ち上がった。
しかし、次の
「ぎゃっ!」
子猫はセシリアの頭を
セシリアはその反動で後ろに
「なっ!」
「きゃぁ!」
生け垣を支えにしてブリッジをするような形になったセシリアは、ひっくり返った視線で、おののく二人を見つめる。
(や、やってしまった……)
子猫はリーンの腕に収まっており、「にゃぁ」とご
「……聞き耳でも立てていたのか?」
冷たい目でオスカーに見下ろされ、全身が
そう、この時点でオスカーのリーンへの好感度は、八割方
そんなに好きなら宝具
「あはは……ちょっとそこの木のかげで
「……ほぉ……」
苦し
「セシル様、
天使の
いつもなら絶対に
「ありがとう」
「いつもかっこいいセシル様でも、こんな失敗をなさるのですね。なんだか親近感を覚えてしまいます」
「そ、そうかな?」
「…………」
(北風が! 北風からの視線が
オスカーは穴が開くのかというぐらいに、じっとセシリアを見つめていた。
(な、なに!? 『俺のリーンに近づく
「あのー。俺、帰りますね。お邪魔して、すみ……」
「もしよかったら、セシル様もご
「……そうだな」
(全然よろしくなさそうな返事!!)
「そ、それはまたの機会に
北風の視線から逃げるように、セシリアはその場をあとにした。
セシリアが去って行ったあと、残された二人は
「行ってしまわれましたね。もう少し話してみたかったですのに……」
「そうだな。それにしても、あの顔、どこかで……」
オスカーは
その時、リーンの腕の中にいた
「この猫、先ほどセシル様が連れていた猫ですわよね。あれ? なんだか
「ハンカチで手当てをしていたんだな。このままでは取れてしまうから、ちゃんと包帯を巻くなり、消毒をするなりした方がいいだろう。……って、このハンカチ」
オスカーは猫の足についていたハンカチを拾い上げると、顔をしかめた。そのハンカチに見覚えがあったのだ。
「アイツは、一体……」
オスカーは苦々しい顔で、セシリアが去っていった方向をじっと
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