一月十七日 祭曜

朝食と昼食の間は思っていたよりも時間がない。


昼食の準備を始めようと思ったときには正午を過ぎてしまっていた。私が慌てて台所に立つと、宅配で既に杜郷さんが昼食を注文していた。


杜郷さんは「いいのよ」と言ってくれたが、仕事でやっているのだから反省しなければ。百容堂の主人なら山盛りのお小言に発展するところだ。




午後は杜郷さんとおしゃべりをしてほぼ終わってしまった。「お茶を出して」というから、てっきり来客があるのかと思えば、私と杜郷さんの二人のお茶会だった。


「仕事がありますから」と言っても「私と話すのも立派な仕事よ」と返されてしまう。




杜郷さんは私の仕事よりも私が「旅をしている」ことに興味があるようだった。あれだけの美術品がお屋敷のなかにあるのだから、そっちの話のほうが興味を持つと思ったのに。「なんで旅に出ようと思ったのか」、「旅に出てみてどうだったか」なんてことばかり聞かれる。


杜郷さんがあまり旅に出たことがないのかと思えば、私の話に「異国で見たあれと似ている」といった反応をすることも稀ではない。私よりもよっぽど旅慣れているのではないかとさえ思う。




もしも杜郷さんが母親の知り合いで、私の素性に気づいているのだとしたら……。


「旅をする私」に興味を持つのも頷ける。




明日からはもう少し慎重に対応したほうがよさそうだ。


お給料も日払いでもらえないか打診してみよう。なにか「動き」があったときにすぐに逃げられない状況は避けるべきだ。本当は今すぐにでも逃げてしまったほうがいいのかもしれないが、美術品と関わらずにお金が得られるこの環境はいましばらく手放したくない。




でも、もしも、杜郷さんが母親の知り合いではなくて、ただの純粋な厚意で私を雇ってくれたのだとしたら?




杜郷さんは私の申し出を聞いてなにを思うのだろう。

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