「本」は幻想である

 マニエルス・ロストア(著)

 三法外翔子(訳)


 ミュンヒハウゼン新書


 書物というものは全て幻覚であると主張するチェコの奇人による著作。


 著者は人間の知識伝達は基本的に口頭や仕草を介して行われるものであり、それらの次段階として精神的感応、いわゆる「テレパシー」を使用していると述べています。


「粘土板・竹簡・羊皮・電子書籍……あらゆる形態の『文字を使用して事項を伝達する媒体』はすべて幻想である。そんなものは存在せず、全人類が『そういうものがある・つくった』という共同幻想に捕らわれているだけなのだ。実際には、それらの意志伝達は精神感応によって行われている」(本書10頁)


 それでは人類は、どうしてテレパシーを自覚できず、上記のような幻覚にとらわれているのか。それは脳の処理能力の問題であると著者は主張しています。


「感応による情報伝達は大きな負荷を伴うものだ。怪我を自覚しない間は痛みが薄いように、人間は、精神感応を自覚していない方が脳に対する負担を軽く済ませることができる。だからこそ人類は、『書物』という幻影を創作したのだ。しかしながら、数千年の間繰り返した欺瞞の中から、そろそろ解き放たれてもいい時期である」(本書154頁)


 ロストアは2050年までに、あらゆる記録媒体を廃棄するべきであると主張しています。厳密には記録媒体を所有しているという「幻覚」を廃棄するべきであり、それらを実行することで、人類の感応能力は飛躍的に拡大すると断言しているのです。逆に廃棄を実行しない場合、人類の知能は退化の一途をたどるとも。


 ロストアの主張に賛同する人物は現われていませんが、なぜか本書は2016年のヨーロッパ・SF大賞を受賞しています。



 

(このレビューは妄想に基づくものです)

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