三方位計測統計書


 三方位計測普及委員会(編)


 三方位計測とは、昭和二十六年に測量技師であった御木本(みきもと)貫太郎が提唱した計測方法である。

 空間に、粉末を散布した後、計測器でその広がり方を計る。基準がX軸・Y軸・Z軸で分割されているため、三方位という呼称が使用されるようになった。


 本書は、御木本が昭和二十六年から、死の直前の平成二十九年まで、数十年をかけて繰り返した三方位計測のデータを網羅したものである。

 御木本は自宅に設置したテントの中で、毎日、最低でも十回の三方位計測を記録した。計測時のコンディションには神経質な程注意を払い、テント内の温度を常に同一に保ち、空調の条件も毎日、変化しないように苦心した。使用する粉末、計測器も精査を繰り返し、磨耗や異物の混入によって違うデータを計測してしまわないように気を遣い続けていた。その甲斐あって、本書に残されている三方位統計は、常に同じ数値が記録されている。


 ここで、読者は首を捻ることだろう。

 同一コンディション、同一の機器・素材で計測を続け、同じ結果が記録されているのなら、そこには何の意味があるのかと。


 実のところ、意味は分からない。

 計測者である御木本自身も、「私が観測を続けたこの事象に何の意義があるものか、明確に説明はできない」と本書で記している。しかし同時に、次のようにも述べている。


 「計測は、目的や理論が存在しないとしても、それ自体が意味を有するものだ。後世の賢人が、私の集めたデータを活用してくれることを期待している」

 と。


 意義のわからない計測記録は、今日も、国会図書館の書庫で賢人の訪れを待っている。


 


(このレビューは妄想に基づくものです)

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