永劫と刹那
手島世継 (著)
ミュンヒハウゼン新書
2016年に十九歳の若さで夭折した天才詩人の遺作集。
著者の名が世に知られるきっかけとなったのは、2018年一月に雑誌「現代詩手帖」に送付された封書がきっかけでした。
送付主は著者の母親で、交通事故で早世した娘の遺品の中から表紙に「詩集」と記したノートが見つかったため、是非評価をお願いしたいという内容でした。
ノートを一読した「現代史手帖」の編集者達は困惑します。
そこに記されていたのは一見、無造作に配列されたように見える、0と1の羅列だったからです。
(例:作品2番)
000000010101010100101111010101010101010101010101010111111000000000011101010101110101010101010101111111111111110101010101010101010101011111111101010100101010100110
著者は自分自身で考案した暗号に置き換えて詩集を残していたのです。
上記の「作品2番」という表記も、編集者が便宜上付与したもので、実際は改行でセンテンスが区分されていることしか分かりません。
この『詩集』とやらは本当に詩が記されたものなのか。
中二病を患った少女の悪ふざけにすぎないのでは?
しかし、自らの交通事故を予期していたはずもなく、誰の眼に触れる機会も予測できない悪戯を残していたとは思われない……
対応に窮した編集者たちの前に、救い主が現れます。
詩人であり、近畿電子工業大学の情報工学科に所属する暗号研究者でもあった葉山輝道氏です。
「素人の作成した暗号であれば一晩で解読してみせる」と豪語した葉山氏は、ノートを預かって編集部を後にしました。
翌日朝、編集部に葉山氏よりメールが送付されてきました。以下に文面を記します。
とてつもない才能だ
わたしは彼女の詩作に永劫と刹那を見た。
それほどまでの詩才の持ち主だったとは!編集者たちは期待に胸を膨らませて解読結果が送付されてくるのを待ちましたが、丸一日経っても、続報は届きません。
痺れを切らして葉山氏の住居を訪れたところ、驚愕の事実が判明しました。
葉山氏は、心臓発作で急死していたのです。行政解剖の結果、メールを送信した直後に亡くなったことがわかりました。
葉山氏のパソコンに解読された文面は残されていませんでした。
その後、編集部は他の暗号学者にも解読を依頼しましたが、どの研究者からも、「意味のある言葉の羅列は見当たらなかった」という回答が返ってくるばかりでした。
葉山氏が眼にした『永劫と刹那』とは心臓発作の今際の際に見た幻覚にすぎなかったのか。
それとも手島世継という少女の紡いだ詩文は、命と引き換えにのみ理解できる彼岸の傑作だったのか……
謎は解明されないままです。
(このレビューは妄想に基づくものです)
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