【休載中】 バッド・エンド・マン
空御津 邃
序章
開始の事件
第1話 悲劇を視る男
僕、
と
僕は一見、そういうごく普通の探偵だ。
だが、僕には親にも友人に打ち明ける事が赦されない、
僕には稀に"未来が視えてしまう"のだ。
無論、
だが、それは漫画の様な万能なものでは無く。
先程も云った通り稀に視えるもので、しかも、制御は
そしてそれは、寝ている時の方が起きている時より視える頻度は高く。起きている時には本当に"ごく稀に"視えるものだ。
『ほぼ無いに等しい』とも云えるが、僕にとってその異質の存在感は計り知れず。気が狂えたならどんなに良かったか、と考えずにはいられない程だ。
更に最悪な事に、"未来"を象徴する子供と過ごしていると...ふと、目の前が真っ暗になり、『最悪な未来が視える』事もあった。
--その時の気持ちは誰にも判らないだろう。
その未来は
誘拐犯に連れ去られる未来や、事故に遭う未来。殺害される
だが、もっと最悪な未来もある。
家族が加害者だったり、世界が終わったり、その子供を"食べたり"。
死ぬよりももっと残酷な未来だって視える事もある。
それは、"現実時間"では一瞬の出来事だが、それを、まるで"現実かの様に視える"僕にとっては、永遠にも感じられる
それだけじゃない。繰り返される残忍な未来と死よって、僕の精神はある一種の麻痺を起こすのだ。
--『死』への麻痺だ。
それはつまり、人格‥‥人間性が擦り減る事を意味する。
その感覚には吐気すら
僕はそうした『世界』を今迄幾つも視てきた。
--だが、『何故、それが"未来"だと分かったのか?』
そのままならば、悪夢や幻覚程度で済んでいただろう。その方がまだ救われていた。しかし、僕は知ってしまったんだ。
そして、此れが僕が探偵になった『きっかけ』でもある。
-- 高二の夏休みが始まったばかりの頃だ。
一つ上の学年に
容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群、おまけに人格者と云う完璧人間だ。
そんな人が人気者に成るのは至極当然だった。先輩は同級生、下級生共に人気があり、学校のマドンナ的存在だった。
但し、僕とはほぼ接点がなく、彼女の噂を
僕が勝手に、そんな『完璧人間』に畏怖していた為だ。完璧すぎて、自ら遠去けていた単純に嫉妬心していただけではないか? と聞かれて、いや違う。と断言できる訳でもないが……
兎に角今となっては、その彼女との接点がほぼ無かったのが不幸中の幸いだったと思う。
ある日、先輩の夢を視たんだ。
あぁ、そうだ。君達が勘付いている様に、それは最悪な未来。
--"予知夢"だ。
この『夢』が全ての始まりだった。全ての……
部活終わりの下校中、夕暮れ。
夏の、一際暑い西日が少し
そして帰路の端に在る雑木林の近くに1人の男。上下灰色のスウェット、挙動不審であからさまに危険。恐怖すら覚える程に。
先輩は横を通って早々に立ち去ろうとする。しかし、その後ろから男が近付きズボンのポケットに
僕はこの時、未来視をまだ"未来視"だと断定出来ずにいた
--『全くもって愚鈍な男だ。』
だが翌朝、学校から連絡が入り母が対応している中、僕がテレビを
『今日、
近所だ。そして、場所はあの夢と同じ"通り"。
被害者は女性。犯人は逃走中。その瞬間に
--「あぁ、
途端に気持ちが悪くなる。
これは‥‥現実を観たからか? 先輩が死んだから? 殺人犯を見たから? いや違う。
『怠けていた自分に対してだ。』
反吐が出る。僕は……僕はあの時、一体何をしていたのだ!!
彼女が『最悪』を味わっている時、僕は何をしていた?!
犯人が彼女を殺した時、僕は何をしていた?!
拭えない苛責、羞恥、贖罪、恐怖--
『最悪な未来が視える。』
僕は直ぐに家を飛び出した。身体が勝手に動いたんだ。動かずにはいられなかったのだ。
責任感?復讐?罪悪感?それとも‥‥いいや、どれも関係ない。理由など要らない。
僕には視えたのだから。
あの瞬間、犯人の顔、動き、服装、喋り方、髪型、
そして『犯人の思考』や『動向』までもが。
犯人は警察の包囲網をかいくぐり、最寄り駅とは反対の隣町の駅へ向かう筈だ。
「きっと、
最悪だ。人としても、男としても。
僕は、異能の中で殺した人より多く。自分自身を飼い殺していたのかもしれない。
『もう二度と過ちは犯さない。もう二度と、"最悪な未来"から目を逸らさない。もう二度と"誰も死なせはしない"』
そう心に、俺に固く誓った。
脳裏に刻み、心臓を賭け、魂を差し出して。
--バッドエンドは一度だけで充分だ。
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