相愛。
ゆう
相愛。
チャイムが鳴り、放課後。部活に行くために準備をしてる人や、ただ喋ってる人、様々な人の話し声で教室がざわつく。
「なぁマナ、明日の朝七時くらいに学校に来れる?」
彼は同じクラスの池田君。最近よく話しかけてくれる人。
私が了承の返事をすると、彼は軽く礼を言って「また明日な」と手を降って部活に行った。
私は、教科書等の荷物を鞄に詰めてある人の元へ向かった。
「そーちゃん、一緒に帰ろ!」
「うん、帰ろっか。」
同じクラスで幼馴染のそーちゃん。私はそーちゃんって呼んでる。実は、私とそーちゃんは付き合ってる。所謂、同性カップルというものだ。もっと簡単に言えば、レズだ。
勿論、誰にも言ったことはない。だから、皆には秘密で付き合ってる。お互いの両親にも秘密で。言わなきゃいけないのは分かってる。けど、今はまだ秘密にしているだけだ。
帰り道、そーちゃんと楽しくお喋りをしていたら、もう私の家に着いてしまった。私が名残惜しそうにしていたのがバレたのか、そーちゃんが「後で電話掛けるね」と言ってくれた。それなら別れざるを得ない。
「そーちゃん、また後でね!」
「うん、また後で。」
そーちゃんに手を降って自分の家に入る。それからは、お風呂、夕飯、宿題を早々と済ませてそーちゃんからの電話を待った。
すると、着信音が鳴り、すぐに電話を取る。
「もしもし、そーちゃん?」
「……ふふ。マナ、電話取るの早いね。」
「だって大好きなそーちゃんからの電話だもん!」
そう言うと、そーちゃんは電話越しに嬉しそうに笑った。その声を聞いて、私も嬉しくなった。……あ、そうだ。そーちゃんに言わなきゃいけないことがあったんだ。
「そーちゃん、私明日早く学校行くね。」
「分かった。」
「ごめんねー、帰りは一緒に帰ろ!」
「うん、勿論っ。」
それからは、色んな事を話した。今日の授業の事、宿題の事、最近やってるアニメの事。沢山の事を話してるうちに、眠くなってきた。その事を伝えると、そーちゃんも眠かったようでお互い「おやすみ」と言い、寝ることにした。
池田君に言われた通り、朝七時くらいに学校に着き、自分のクラスに向かう。すると、彼は既に教室に居た。
私が「池田君、早いね」と笑いながら話しかける。が、反応がない。どうしたんだろう、と疑問に思い、もう一度話しかけようとした瞬間。
「俺、マナの事が好きだ。付き合ってくれ。」
私は理解するのに時間が掛かった。彼は、私の事が、好き。けど、私は別に彼の事はどうでも良く思っている。それに、私はそーちゃんの事が好きだ。だから、彼の気持ちには応えられない。
私は、告白の返事を断った。だが、彼は引かなかった。なんで、と理由を聞いてきた。きっとこれは、ちゃんとした理由を聞くまで引かないだろう。
「私ね、レズなんだ。」
何を思ったのか、私は彼に打ち明けた。誰にも言ってない秘密を。
「俺は別に気にしないから、そういうの。だから付き合おうぜ。」
冗談と思ったのだろう。それでも彼は引かなかった。悪いが、私は彼にこれっぽっちも興味がない。だから。
「しつこい。無理って言ってるじゃん。」
最終手段で、私は彼に冷たい態度を取り、吐き捨てるように言った。
丁度その時、四人の女子グループが元気に教室に入ってきた。私は、助かった、と思いつつ「おはよう」と彼女らに挨拶をした。
横目に彼を見たとき、彼は何か言いたげな顔をしていた。
四時間目の終わりのチャイムが鳴り、昼休みになった。売店へ昼ご飯を買いに行く人、持参した弁当を持ってグループで食べる人、大体その二種類に別れる。私は後者だ。
その相手は、勿論そーちゃん。
「そーちゃん、ご飯食べよう! お腹ぺこぺこだよー。」
「体育の授業があったからね。早速食べよっか。」
そーちゃんの机に弁当を広げて、食べようとしたとき、私の隣に誰かが立った。
「……池田君。」
また、彼だ。私は溜息をついて冷たく言い放とうと口を開いた瞬間、彼は私に背を向けてクラスの皆に向けてこう言った。
「なぁなぁ、マナってレズらしいぜ! 理解できねーし気持ち悪くねー?」
騒がしかったクラスが、一気に静まり返った。
なんで、そんな事言うの。そーちゃんが、困惑してる。困惑した目で、私を見てる。
きっと彼は振られた腹いせにこんな事をしてるんだ。クラスがざわつき始めた。
駄目だ、何か言わなきゃ。
何か、言わなきゃ。
「ーー池田くん、もしかしてあの嘘信じたの? 私に振られたからってそういうの止めてよー。」
咄嗟についた嘘。違和感がないように、笑いながら言う。池田君は、意味が分からないと言いたげな顔をしながら、言い返そうとした。
しかし、クラスの女子の「池田、最低」「振られたからってそういうの止めなよ」という鋭い言葉の刃によって押し潰され、黙り込んでしまった。
そしてまた、騒がしいいつものクラスに戻る。
けれど、私とそーちゃんの間に会話は無かった。
マナと歩く帰り道は、結構好き。マナのコロコロ変わる表情がとても可愛くて見てて飽きない。けど、今日はマナが喋らない。帰りも、いつもはマナが真っ先に誘うのに、今日は私が誘った。
きっと、昼休みのときの事を気にしてるんだろうな。
そうやってずっと喋らないまま、マナの家に着いた。せめて、何か言おうと言葉を探し始めたとき、マナが口を開いた。
「ねぇ、私の家に寄っていかない?」
眉を下げて無理矢理口角を上げて笑うマナ。
そこまで追い詰められたのか、と正直驚きを隠せずにいた。けど、何も反応しないのは失礼だと思い「じゃあ、寄ろうかな」とだけ返事をした。
マナの家に入り、玄関で靴を脱ぐ。静かなマナの家。誰か居ないのかとマナに聞くと。
「パパは仕事で、ママはー……多分ウォーキングじゃないかな? 最近ハマってるんだって。」
なるほど、それなら静かなのも納得できる。と、一人で頷いていると、マナが「こっち」と言って私の手を引いて二階のマナの部屋へと連れて行く。
マナの部屋に入れば、マナが座って、と言わんばかりにベッドをぽんぽんと叩く。二人並んでベッドに座るのはいいが、また会話がなくなる。
困ったなぁ、と小さく溜息をついたとき、マナが私の肩にもたれ掛かった。
「マナ、」
私が小さい声で名前を呼べば、それを合図と言わんばかりにマナが語りだした。
「私ね、同性結婚ができないの、ずっと疑問に思ってるの。だってさ、もしそれができたら幸せな人が増えるだけじゃん。なのに、子供が作れないから、生産性がないから、ってよく分からない理由ばっかり。」
マナの目から大粒の涙が零れ落ちる。
「……私たち、幸せになれないのかな。」
そんなこと、ない。
そんな訳がない。
「マナ。」
私は彼女の両頬に手を添えて、自分の方へ向かせる。そして私は、彼女の唇に私の唇を合わせた。
唇を離すと、マナは「……へ、そーちゃ、」と間抜けな声を出しながら頬を赤く染めて呟く。
「……今日のマナの嘘は、私達を守るためについた嘘なのよね?……仕方ないわ、今はそういう時代だから。けど、こうして二人きりで居るときくらいは、そんな事言わないで恋人らしいことをしましょ。」
そう言えば、マナはまた泣き出す。ううん、泣かせるつもりはなかったんだけどな。そう思いながら、ポケットからハンカチを取り出してマナの目元を拭う。
ぐす、と鼻水をすするマナ。
「……落ち着いた?」
「うん、もう大丈夫。」
えへへ、と笑いながら言う彼女に、安堵の笑みを浮かべる。
すると、彼女は「泣いたら疲れて眠くなっちゃった、」と言い、ベッドに横になる。
マナの頭を撫でていると、小さく寝息が聞こえてきた。私は、マナの額に触れるだけのキスをする。
おやすみ、可愛い私の彼女。
相愛。 ゆう @yuuu__00
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