FileNo.8 プリディクション - 17
● ● ●
「――お前を創ったクソ魔術師は、今、どこに居る?」
「あの、雷瑚先生。そんなこと聞いても――」
「――見つけた」
返事するわけないと思います、と大井さんは言おうとしたのだろう。だがその言葉を
獲物の臭いを
「怖い思いさせちまって悪かったな、遥。だけど安心しろ。もう大丈夫だ。
……そうだな、約束してやるぜ。あと三十分もしない内に片は着いて、お前の呪いはぶっ壊せる筈だ」
先生は低く、
先生の
「えっ、えっ? い、いま何したんですか?」
「ああ……
ふらり、と先生が立ち上がった。
「先生、やっぱり駄目です。坂田先生が大変なのかもしれないけど、その体でこれ以上動くのは――」
「遥、確認してくれ。部屋の隅に居た女の子ってのはまだ居るか? 手の中のプランシェットはまだ動くか?」
「先生!」
あたしの言葉を無視するように大井さんへ視線を移す
「先生! 今すぐ病院に行くべきです!!」
「頼む遥、栄絵がお怒りだ」
「ええっ、えっと、あー、その……お、女の子! 居ません! プランシェット! 動かないです!」
「大井さんも! 答えてる場合!?」
「ご、ごめんなさいごめんなさい! もうわたしどうしたら――」
「あー喧嘩すんな喧嘩すんな。それから栄絵、お前に頼みたいことがある」
誰のせいで、と言いかけたところで、先生の体がぐらりと揺れた。慌ててその体を支えようとしたあたしだったが、先生はそれを狙っていたらしい。
先生はあたしの両肩を持って、くるりとあたしの体を半回転させた。それから。
「あたしを背負ってくれ」
一切の
「……はい?」
「真面目にすまん。巻き込みたくないのはヤマヤマなんだが、何せちょっち体が言う事を聞かなくてな。方向は背中から指示するから、何とかあたしを敵のところへ連れてってくれ。なぁに大丈夫だ、代わりと言っちゃなんだが、何があってもあたしはお前を
真面目に動けないのに? 守る? いやいや。
あたしは思った。それは『無茶』というものだ。そんな火中の栗、井戸の底の亡霊を拾いに行くような真似を、誰が好き好んでするだろう? 例えそれが大恩ある先生の頼みであったとしても、だ。
「少しの間でいいんだ。あたしゃ
「行きましょうか先生! どこへでも!」
あたしは力強く言い放ち先生を背負った。背中越しに感じる先生の柔らかな
「じゃ、しっかり
「あー、いや、うん、悪いな、だがノリが良くて助かる。じゃあとりあえず校舎の外に――」
「承知しました!!」
あたしは走った。先生を背中に背負ったまま全力で
だけど。
「来たか」
「何がですか!?」
先生が呟いた瞬間、あたしの視界を何かが横切った。それは丁度、商店街の外れ、昭和の匂いの残る古い木造住宅が両脇に立ち並ぶ人影の無いうら寂しい小路の一角で、だからあたしは、最初それを、虫か何かの
「あれ?」
「舌、
先生が鋭く告げた。そして足元の瓦たちを打ち砕くような力強さで屋根の上を走り出す。あたしは声も出せなかった。先生を背負っていた筈のあたしは、いつの間にか――先生に横抱きに抱えられている。
「えっ、えっ!?」
「ありがとな、栄絵。そんでもってもう一つ頼ませてくれ」
ひゅんひゅんと何かが風を斬る音がしていた。赤い紅い夕陽を受けつつ、先生は真っすぐ前を見て駆ける。そして、あたしに一つの依頼をする。あたしは目を白黒させながらその言葉を受理した。受理しながら、ようやく周囲を巡る風を斬る音、その正体を眼にした。
プランシェットだ。
縦横無尽に先生の周囲を、複数のプランシェットが跳ね、飛び回っている。それらは時に先生の
体が治るまでの少しの間、自分を背負って走ってほしい。一分一秒も無駄に出来ないから。確かにそこに嘘は無かった。だけど、違う。
本当の――そして恐らく最大の動機。間違いない。
『あたし』だ。
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