FileNo.4 フラワー - 02
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それから――私が手を掴まれ引っ張られ、校舎の外に連れ出されながら――涼ちゃんに告げた事情をさっくりとまとめると、こうだ。
私には、友達が居た。学校は違うけど、同じ学習塾に通う、同い年の女の子。彼女は明るく、帰国子女として若干浮いている私にも、分け隔てなく接してくれた。彼女はいわゆる『怖いもの好き』で、ある時、私に、今は廃校となっているこの学校に実在するという、とある霊の噂を教えてくれた。
それが『トイレの花子さん』だった。
「霊、っていうと何だか違う気がするけど。ま、いいわ」
涼ちゃんは話を聞きながら、そんな相槌を打った。確かに、霊と呼ぶべきではないのかも知れない。それは一種の魔術儀式に近しいものだから。
場所は、この校舎の三階西側、女子トイレ。手前から数えて三番目の個室の前で、ノックを三回してから、『遊びましょう』と告げる。すると、トイレの中に引きずり込まれてしまう。教えてくれた彼女によると、実際に友達の友達がそれを試して、行方不明になっているのだという。
彼女は、自分もそれを試してみるつもりだ、と言った。そこにきっと、理由は無かったのだと思う。好奇心、怖いもの見たさ、未知のものに触れられるかも知れないという期待感――人が道を踏み外すタイミングなんて、大体そんなものだ。
結果、彼女は消えた。「明日試してみる」――そう告げた彼女は、次の日に行方不明になったのだ。週三回の学習塾は大騒ぎとなり、私は居ても経ってもいられなくなって、ここに来た。
「あんたが調べに来ても意味無くない?」
冷淡と受け止めるか、正論と受け止めるか、人によって大きく左右される言葉を、彼女は何の気兼ねもなく私に放った。「だって」と私は反論する。
「止めなかった私が悪いのかな、って」
「確かにあんたの言う通り、数日前から、近くの小学校に通う女の子が行方不明になってるって聞いたわ。それと、もう一つ。この校舎の――丁度さっきのトイレの窓の外辺りで、女の子の死体が見つかった、って」
「え」
「行方不明になった子とは別人らしいけどね」
思わず足を止めた私を振り返り、涼ちゃんはさらりと言ってのけた。それから、と続ける。
「ここから先は内緒だけど、その死体で見つかった女の子は、五年前に行方不明になって、捜索願が出されてる女の子だったの」
「五年前……?」
「死亡推定時刻は、発見される一日ほど前。死因は全身打撲による多臓器不全。そして、背格好は五年前と『全く』同じだった。分かる? まるで五年前から突然ワープしてきて、強い力で地面に叩きつけられて死んだ、みたいな感じなの。
で、こういうおかしな事件が起きると、くには警察に調査させながら、わたしみたいな有能霊能力者に依頼するわけ。『霊が絡んでるかもしれないから何とかして』って。つまりわたしってば、こう見えてエリートこっかこうむいんなわけ」
鼻高々、という調子で涼ちゃんは言った。古い下駄箱の並ぶエントランスから外に出ると、少しだけ陰り始めた陽が、淡い赤みを帯びた光を校舎に投げかけている。
少しだけ、肌寒い。
「実際、あんたはわたしに感謝すべきよ。あのトイレ、古くて汚くて臭くて二度と立ち寄りたくない場所ランキング第一位だけど、何より最低なのは不浄な空気が充満してたこと。あ、ここでいう不浄っていうのは不潔って意味じゃないから。いわゆる心霊スポットみたいな――」
「うん、分かるよ、言いたいこと。何となくだけど」
分かるから、ともう一度繰り返して、私はエントランスのすぐ外で立ち止まり、校舎を振り向いた涼ちゃんへ、具申しようとする。やめようよ、と。
「だって、もしかしたらあの子、この学校の『どこか』に居るかも知れないじゃない。ううん、もしかすると、あの三つ目のドアの向こうに居たかも――」
「燃えろぉ!!!」
「知れないって言おうとしたのにぃ!!」
悲痛な私の叫びが響く中、涼ちゃんは怒りと笑みを合体させたような破壊衝動ガンギマリの表情で、次々と頭蓋骨大の火炎球を校舎へと投げつけた。木造校舎にしがみつくように残っていた複数のガラスが弾け、砕け、盛大な音を立てる中、エントランスにばら撒かれた炎は獣のような声を上げる。燃える。燃えていく。獲物を喰らうように、炎が真っ黒な煙を生み出しながら壁を壁を壁を伝ってい――。
「こーら、止まれアホ」
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