コードレス~対決除霊怪奇譚~
カント
FileNo.0 エンディング - 01
「ハッピーエンドとバッドエンド、どっちが多いと思う?」
尋ねると、屋台の前に居たその女は、
この蒸し暑い中、女は
「何だって?」
音頭調のアニメソングが遠く響く中、女は低い声で尋ね返した。その後方では大勢の近隣住民が行き交っているが、こちらに注意を向ける者は居ない。境内から離れた隅にひっそりと建つ、この怪しい屋台へ近寄る人間は、そう現れないのだ。
類は友を呼ぶ、という
女の
「なに、射的やくじ引きと似たようなもんさ。
「『
「そうそう。ここではね、おじさんが幾つか噺をする。で、ハッピーエンドとバッドエンド、どっちが多かったかを当てられたら豪華プレゼント。どうだい、面白そうだろ?」
ふうん、と言って女は暖簾を
「ようこそお嬢さん。久々のお客さんだ、ちょいとサービスしてしんぜよう」
「サービスねぇ」
興味の薄そうな声色だが、長椅子には随分どっかと座っている。乗り気なのかそうでないのか……まぁいずれにせよ、座った時点で結果は決まったようなものだ。
「ほれ、
棒の先端に真っ赤な球体――手渡す際に改めて女を見ると、化粧っ気の無い端正な顔立ちに輝く二つの瞳は海のように青かった。どうやらハーフのようだ。だが女は渡されたそれを横目で見るだけで、口を付ける様子は無い。俺は胸中で舌打ちした。
「それで」
青い瞳で――しかし実に
「噺ってのは幾つだ? あんまり長居は出来ねーんだが」
「そうかい。なら超短編コースで行こう」
俺は小さく笑って、短い――実に短い幾つかの物語を紙芝居形式で語った。それは例えば、
一度入ったら出られない森の物語であったり、
生涯を呪われた霊能力者の物語であったり、
「――さて、噺は以上だ。な、短かっただろ?」
ああ、と言って女は大きな欠伸をした。が、ムッとした俺に気付いたのか、次に女は笑った。
「怖い顔するなって。こちとら寝起きでな。噺がつまらなかったわけじゃねえよ」
他者を
ちらりと、女に手渡した水飴へ目を遣る。
口を付けた形跡は、無い。
「それで、ハッピーとバッド、どっちが多いか、だったか? 答える前に幾つか聞きたいんだが」
「何だい?」
女はぼりぼりと頭を掻いて、また一つ欠伸をした。
「正解したら豪華プレゼント。なら外れたら?」
俺は声無く笑った。祭りの
湿気た大気に、蚊取り線香の煙が蛇のように
「
「賢いねえ」
「答えない、と言ったら?」
「答えるしかないのさ、お嬢さんは」
なぁみんな、と言うと、大地が一斉にざわめいた。正確には、足元の大勢の仲間が、賛同するように
地を這う無数の蟲、蟲、蟲。それらは俺が物語る間に、女の足元にも
「趣味悪ぃなぁ」
女は呆れたように言って、右手の水飴を見つめた。いや、水飴だったものを、だ。それは今や、球状にひしめく無数の
「じゃ、最後の質問だ。
人を呪わば――覚悟は出来てるな?」
女が告げた、直後。
どん、と低い炸裂音が響いた。
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