26.しょうりのあかしはどうつかう?

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 さて、あれからしばらく経ったが、特に何も起きず今日まで過ごしてこれた。

 そして、落ち着いてきたところで俺には差し迫って問題があった。食事である。

 今まではケーナちゃんから少し分けてもらっていて、ケーナちゃん曰く学費(食費込み)は実家に出してもらっているそうだが、いい歳して幼女の紐になるのもマズい。

 そして、食費を稼ぐために働こうと決意した訳だが、そこで俺はある一つの壁にぶち当たっていた。

 それこそがそう、言語の壁、というやつである。


「サイエンさん、読書はそれくらいにしてもう寝ませんか?」

「そうは言ったものの、文字が書けないのは流石に問題だろ……」


 そう、文字は字幕が読めるし話す言葉は勝手に翻訳されるが、書くことは覚えなくてはならないのだ。


「そうは言っても、文字が読める使い魔なんて召喚できる人はそうそういませんよ? それこそ、サイエンさんみたいな異世界からの勇者とか、高い知能を持っているといわれる『ポクポン』とかじゃないと、一般の人と意思疎通を取る事なんて不可能ですよ」


 そこで、この間のハーキン戦でちょっとばかし気になったことを聞いてみることにした。


「そういえば、普通に使い魔を召喚した魔法使いの場合ってどうやって使い魔とコミュニケーションをとるんだ?」


 俺は普通にケーナちゃんと会話という形でしかコミュニケーションをとっていなかったが、通常言語を介すことができないのならどうやって命令などを出すのだろうか、と。


「あぁ、どうやら、一般的な場合だと契約の儀式で契約主と被契約主の間に魔法回路を作る際、言語伝達回路も作られるようで、テレパシーみたいな形でお互いに意思の疎通ができるみたいなんですよね」


 へぇ、そうなんか。

 だったら、俺とケーナちゃんでもできるんじゃないか?


「ちょっとテレパシー、やってみないか?」

「いいですね」


 よっしゃ、念じればいいのか?


『もしもし、本日は晴天なり、本日は晴天なり』


 ……、なかなか返信が返ってこないぞ?


「あれ、テレパシー聞こえた?」

「いや、聞こえませんでした……」


 うーん、やり方が悪いのか?


「じゃあ、次はケーナちゃんから送ってくれないか?」

「わかりました」


『サイエンさん、サイエンさん。おはようございます』


 あれ? 聞こえる。


『おはよう』


「……どうです? 聞こえました?」

「おはようって言ってたよね。聞こえてたよ」

「本当ですか! やりましたね、成功です!」

「あれ、俺の返信聞こえてなかった?」

「え? すいません、聞こえませんでした」


 あれれぇ? 丘ピーポー?

 おい、これってヨォ、一方通行じゃんか!


「うーん、俺からの連絡は届いてないみたいだし、ケーナちゃんから緊急の用事をこっちに伝えなくちゃいけない時以外は使い道なさそうだなぁ」

「なんで聞こえないんですかねぇ」

「その辺は要研究って感じだな」

「そうですね。早くサイエンさんのテレパシーが受信できるようになるといいですね」

「ああ」


 俺は頷き、そして話しておかなくてはいけない用事があったことを思い出した。


「そういえばさ、ハーキンとの決闘で勝ったじゃない、ワタクシ」

「はい、そうですね」

「それでさ、勝利した時に勝ったほうの願いをなんでも一つ叶えるって願いがあったんだけど、何を彼に頼もうかと思って」


 そう、勝ったはいいが、そのあとがいろいろと忙しすぎて決闘のことについて考えるのが後回しになっていたのだ。


「そうですね……、何がいいと思いますか?」


 うーん、そういわれると困るんだよぁ。


「スキー板とか買わせるか?」

「この辺で雪が降るところなんてありませんよ?」


 うーん、彼が女なら頼みたいことが百個、いや千個は出てくるんだけどなぁ。

 もちろん、健全な意味でだよ? 諸君。

 二人でうーん、うーんと悩んでいると、あっ、と声を上げてしまった。


「じゃあ、文字の書き方を教えてもらうのはどうだ? 優等デサントクラスの奴だし、わかりやすいと思うんだが」

「でも……」


 恐らく、決闘を吹っかけてきた相手だし、みたいな言葉を飲み込んだんだろう。

 その不安、俺がケーナちゃんの立場なら間違いなく分かる。

 だが、彼はおそらくそんなに悪い奴じゃない。彼をうまくやって味方に付ければ、今後何かのメリットになるかもしれないのだ。

 今はまだ俺とケーナちゃんを信用しないかもしれない。

 だが、いつかのその日に信用してもらえれば、それだけで助かる命もあるかもしれないのだ。

 ……なんて壮大なことを言ってみたが、実のところ彼に教えてもらうのが先生から教えてもらうよりも絶対に安上がりで、命令できるという権利を持っている分リスクも相当数下がると見込んでの結果だ。


「大丈夫、彼ならちゃんと教えてくれるさ」

「……わかりました、サイエンさんがそういうなら」


 こうして俺は、ハーキン少年からこの世界の言語について教わることになった。

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