09.魔法書
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魔法技術研究所を出た俺たちは、すぐそばの大通りに入ってウィンドウショッピングをすることになった。
「それにしても、火属性に適性があったんですねぇ」
「うーん、それがどんなもんなのかわかんないんだよな」
「あっ、それもそうですよね」
俺が首をかしげながら話をしていると、ケーナちゃんが俺に魔法の説明をしてくれた。
「まず、一般の人の中で魔術適正のある人は全体の三分の一くらいなんですよ」
「ほう」
その時点で俺が特別だってわかるやないかい。
やったぜ。
「あ、サイエンさんは私の使い魔なんで適性が出るのは普通ですよ。使い魔は普通適正が出るものなので」
おい、持ち上げて落とすのやめろや。
「それで、その中でも火属性に適性が出る人が多いんですね。一番少ないのは特殊二属性なんですが、とにかくサイエンさんは魔法の勉強はしやすい環境にあると思います。どうしても特殊二属性ですと魔法書が売ってなかったりするので」
なるほどなぁ、納得。
ってことは悪いことばかりじゃないんかね?
一番人口が多いってことは研究も進んでるだろうし、もしかしたら逆にいいもの引いたのかも。
世の中とらえ方やね。
「なるほどねぇ……。考えさせられるわぁ」
「それで、今向かっている場所が魔法具を売っているお店です」
指さす方向にはRPGやラノベなんかでよく見る軒先に木の看板がつるされているところで、看板には丸底フラスコの絵、ご丁寧なことに魔法具店とまで書いてある。
「で、魔法具ってどうやって使うのさ」
「今回は魔法書を買うんですが、魔法書は呪文とコツが集まっている本なんですね。なのでそれを見て魔法を覚えて使いこなすって感じです」
げ、覚えないといけないのか。
イメージだけでなんとかならないかなぁ。
ケーナちゃんが『えいっ!』で魔法使ってたし、何とかならない気はしなくもないんだが。
「着きましたよ」
魔法書の話をしているといつの間にか店の前についたようで、ケーナちゃんが俺の前に立ってカランカランと木造の扉を押し開ける。
入店すると、多くの本が詰まった本棚が所狭しと並んでおり、普通の文庫の様な本からかなり分厚い本、かなり表紙の面積が大きい本まであった。
「今回買おうとしてる魔法書は火属性の初等魔術入門で、帰ったらこれで魔法の練習をしようと思ってるんです」
なるほどな。
まずは戦力強化みたいなところか?
「初等ってどれぐらい難しいのよ?」
「そうですね。私は習得までに三日位かかりましたけど、私は水属性の適性が常人とは比べ物にならないみたいなので、あんまりあてにならないかもしれません」
「はぁ」
とりあえずケーナちゃんがすごいってことはわかった。
「それでは、私は魔法書を探してくるので、サイエンさんは本を見てて待っててください」
「わかった」
本棚の奥に消えていくケーナを見送り、俺はすぐそばの本棚に目を落とした。
「はぁ、字を見るとこうやって表示されるわけか」
視界にはこの世界の言語と思われる解読不能な文字列と、視界の下側に洋画の字幕の様な現代日本語訳が表示されている。
ゆっくり歩きながら本棚を眺めていると、とある一冊の本が目に留まった。
その本は他の本とは違い、かなりの埃をかぶってしまっていて、多くの人の手に渡っていないことは明らかだった。
そして、他の本たちと一線を画す大きな違いは使用されている言語だった。
「『異界の者に送る、魔術の解釈』、か」
他の本たちとは違い、この本だけは字幕が表示されず、しかし読むことができる。
つまりはおそらく日本人が書いたか、俺のように異界に渡った人間がこの世界の人物に日本語を教示し、その人物が日本語でこの本を書いたかのどちらかだろう。
すっとその本に手を伸ばし、最初の方のページを開く。
[著者:ハヤト・クレセント]
『まず、他の魔法書にある魔法の感覚をつかむ方法だが、これはいたってシンプルだ。大気にスライムがところどころに浮かんでいると想像してくれたまえ。そのスライムが所謂魔力であり、この魔力をまとめたり、形を変えたりするのが魔法というやつである。そして、私はこの魔力を物理学と絡めて使用することができるようにしたのだ』
「サイエンさん、本は買いました」
突然横から声がかけられる。
気が付けばケーナが横に立ち、本を片手にこちらを覗き込んでいた。
「あ、あぁ。ありがとう。それじゃあ、もう帰るのかい?」
本を本棚に戻しつつケーナに話しかけると、ケーナは俺が読んでいた本をじーっと見つめ、こういった。
「その本、もしかしてサイエンさんの国の本ですか?」
「あ、あぁ。そんなところだけど」
「よろしければその本、一緒に買いましょうか?」
「いや、悪いよ! 初等魔術の本を買ってもらえるってだけで満足してるのに」
「いや、いいですよ」
ケーナちゃんは俺の否定を押し切り、その本を手に取ると会計に向かってしまった。
「しかし、そう簡単に購入を決めてしまってもいいのか?」
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