第182話 帰還と驚き

 とうとう戦いが始まった。

 一真は上を見上げる。

 そこには恐ろしい数の蟲達が空をどす黒く染めている。

 しかし、それでも勝たなければならない。

 そして、たたかいが始まったのか周りの仲間が次々と武器を取り、こちらに向かってくる蟲達を撃退し始める。

 勿論、それは一真も同じだ。

 見た目はゴキブリを人型にしたような蟲。

 しかも10体以上いる。


「…… レイア、覚悟はできてるか?」

「勿論よ、ここで勝って仲間の仇を討つわ!」


 そう叫んだレイアはその場から飛び出す。

 そして次の瞬間には、三体の蟲の首を飛ばす。

 一真もそれに続くように、こちらに向かってくる蟲の攻撃を跳ね返し、その隙に胴体を真っ二つにする。

 この蟲は雑魚の部類だろう。

 しかし、前の自分よりも強くなっている。

 そんな気がしていた。


「一真! 後ろ!」


 そう叫ぶ声に反応して後ろを振り返ると、そこにはカマキリのような蟲が巨大な鎌を振りかぶっている所だった。

 それは死、考えてからでは絶対に避けられない攻撃。

 だが、それは一真の身体に刻まれた戦いの記憶が無意識に避けろと叫ぶ。

 顔の横を鎌が通り過ぎ、一真の左肩に直撃する。

 そして、そのまま左腕を抉り取られたものの、その反動で距離を取る。


「一真!」

「…… しくじった」

「今すぐ回復魔法を!」

「ああ、分かってる……」


 一真はすぐに魔法で腕を再生しようとするが、何故か魔法が使えない。

 いつもなら使えた回復魔法。

 それが急に使えないと分かり焦り始める。

 先程まで余裕だった表情も曇り始める。


「回復魔法が使えない……」

「なんですって! 他の魔法は使えるの?」

「今痛みを和らげてる阻害系の魔法は一応使えてるみたいだ」

「まずいわね…… おそらく原因はあの蟲ね」


 ケタケタと笑っているような不気味な顔を持つ巨大なカマキリを警戒していると、周りに100を超える魔法陣を展開し始める。

 それを見た二人はすぐにその場から離れようとするが、目の前のカマキリ――ジェノサイド・ダークネスがそれを許さない。

 凄まじいスピードで二人に近づき巨大な両手の鎌を振るう。

 それに気づいたレイアは自らの持つ剣でそれを防ぐ。

 しかし、今まで感じたことのない衝撃が走り、そのまま剣ごと大きく後ろに吹き飛ばされる。


「レイア!」


 一真はそう叫ぶが、彼自身もそんな余裕はない。

 魔法陣から大量の魔法が放たれ、それが一真に直撃する。

 辺りには砂煙が舞う。

 圧倒的強さ、ジェノサイド・ダークネスは次の獲物の標的を定める。

 そして、そこに向かおうとした瞬間、砂煙から一真が飛び出してくる。

 それはジェノサイド・ダークネスの油断。

 砂煙から姿を現し、一瞬にして距離を詰めた一真は叫ぶ。


「『煉獄斬』っ!!!」


 その技は剣身から激しい炎を纏いながらジェノサイドダークネスにめり込む。

 そして、触れた所から炎が広がり、やがて身体中を炎が包み込む。

 しかし、流石はジェノサイド・ダークネスと言ったところだろう。

 反撃をするべく大きく鎌を振りかぶる。

 その瞬間、一真がの脳裏にゼフに負けた事が浮かぶ。

 確かに特訓は僅か数日だったかもしれない。

 だが、それでもこんな所で負けるわけにはいかないのだ。


「こんな所で…… 負けるかよおおおぉぉぉ!!!」


 自分が使えるだけの強化、弱体化、阻害魔法を使う。

 勿論、それを阻止しようと魔法で対抗するが、一真が同時に使う魔法が上をいき、弱体化と阻害魔法をまともに食らってしまう。

 そして、強化魔法で更なる強さを経た一真はそのまま力で押し切り、ジェノサイド・ダークネスの胴体を真っ二つにする。

 

「はぁ…… はぁ、そうだ。 阻害魔法を……」


 一真はジェノサイド・ダークネスが生き返ってこれないように阻害魔法を使うと、蟲達を蹴散らしながらレイアに駆け寄る。


「レイア! 大丈夫か!」

「…… 一真、どうしてそんな顔するの?」

「そんな事より回復魔法を!」


 そこでそういえば使えなかったという事を思い出すも、それしか選択肢がなかったので使う。

 すると、見事発動したのかレイアの傷が塞がる。

 それを確認した一真は自分の腕にも回復魔法を使い、腕を再生させる。


「レイア、立てるか?」

「ええ…… ありがとう」


 レイアは一真に掴まりながら立ち上がると、まずは戦況を分析する。

 数は現在こちらが優勢。

 しかし、それは地上での数だ。

 上空では今も無数の蟲達が蠢いている。


「かなり不利ね……」

「そうだな、だが俺達には帰還石がある。 もしもの時は撤退すればいい」

「…… そうね」


 撤退という言葉に少し嫌悪感を出しつつもそれに答える。

 やはり魔人種という負ける事が許されない種族のなのだと改めて実感する。

 そんな事を考えていると遠い場所に見えてしまう。

 ゼフとエトの姿を。

 しかし、戦っているというわけではない。

 何をしているのかと思っていると次の瞬間、エトが大量の血を吹き出して倒れる。

 それを見たレイアは理解が追いつかない。

 仲間を殺した憎きゼフ、親しくしてくれたエトが死ぬ瞬間。

 これだけでレイアの怒りが爆発してしまうのは必然であった。

 片手に剣を持ちレイアはゼフに向かって走る。


「どうした! レイア!」


 一真もそう叫んで止めようとするが彼女はあまりにも速い。

 そして、どこに向かって行ってるのかを視認するが、距離が開くばかりだ。


「ゼフ!!! 仲間、そしてエトさんの仇!!!」

「なんだ?」


 魔人種と思われる女が叫びながら剣で自分の首を狙ってくる。

 しかし、近くにいるハ・ダースに命令してその魔族の女をエトと同じ末路を辿らせる。

 女が倒れるその直線状で人間の男がこちらに近づいて来ているのが見えた。


「レイアアアアァァァ!!!」

「うるさい奴らだ…… これぐらい覚悟していただろ」


 そんな事に聞く耳を持たず、一真は片手に剣を持ち叫ぶ。


「剣技『煉獄斬』っ!!!」


 その技は今までのどんな時よりも強力で完璧に思えた。

 しかし次の瞬間、何か見えない力で吹き飛ばされてしまう。

 地面に転がった一真は離した剣を取ろうとするが、それをゼフが踏みつける。


「見た事があると思ったが、お前は赤羽 一真だったな? 俺の予想通り創造神に匿われていたか」

「…… お前に答える義理はない」

「そうか、そういえばさっきの魔族の女。 あれはお前の新しい仲間か? ククク、あの時と何も変わらないな」

「うるさい! お前が……」

「残念だが、無駄話をしている時間はない。 ハ・ダース、戦いを終わらせろ」


 ゼフがそう命令すると、奇怪な音が流れ始める。

 そんな音を流す張本人を一真の持つ看板眼という能力で見てしまう。

 見た目はサソリのようだが、背中や毒針などがスピーカーのようになっている。

 そして、両手はマイクのようなものに針が生えている形状をしている。

 そんな変な姿をしている蟲を見ていると周りの仲間がバタバタと倒れ始める。


「…… え?」

「人間と蟲、それ以外の種族が聞けば死ぬ音だ。 これで分かっただろ? お前達では勝ち目はないと」


 一真はまた負けたのかと悔しさと怒りでどうにかなりそうになる。

 だが、帰還石を手に取り魔力を込める。

 すると、自分の身体が光り始めたかと思うと、目の前にフレイが現れる。


「…… フレイ?」

「一真! 大丈夫!」

「フレイ…… レイアが…… エトが……」

「やっぱり死んだのね……」

「うん……」


 しかし、一真はフレイの後ろに立っている者の姿を見て目を疑う事になる。

 なんとそこには死んだと思われたエトが立っていたのだ。



 

 

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