超越なる神々と狡猾な悪魔達 

第168話 神の世界

 自分は最強。

 そう思っていた。

 山をも一瞬で破壊するその力に、もしかしたら自惚れていたのかもしれない。 

 実際はなんの意味もない力だった。

 目を開けると、そこはどこか知らない場所だった。

 ふかふかのベッドから起き上がり辺りを見渡す。

 しかし、少し白い事以外は特に何か変わったことはない場所。


「俺はどうしてここに……」


 一真は今まであった事を思い出す。

 ゼフという男に負けた事、レアナ達を殺された事、そして誰かに助けてもらった事を。

 本当に情けない。

 仲間を守ることすらできない俺に意味はあるのだろうか。

 一真は生きたいと言ってから記憶がない事と今の状況から気絶してしまったのだろう。

 そう分析していると、扉がゆっくりと開く。

 そこに現れたのは中学生くらいの白髪の少年だった。


「やぁ、もう身体は大丈夫かい? 随分と疲弊しているようだから心配でね」


 少年はそう言いながら近づいてくる。

 一真はそれを警戒して身構えるが、少年はそれを見てニコニコ笑う。


「それだけ動ければ十分だ。 流石は僕の力だ」

「…… お前は誰だ?」

「そういえば、まだ名乗ってなかったね。 僕は創造神、君達のいうところの神さ」

「神…… それが本当だったとして、それが俺に何の用だ?」

「随分と簡単に信じてくれるんだね。 こっちとしても助かるよ」

「別に信じている訳じゃないが、あの化け物から逃すことができるのはそういう存在だけだろうと思っただけだ」

「そうなんだね…… 一真、僕は君に何かして欲しいというのはない。 だから、君は気にせずに過ごしてくれたらいいよ」

「それを信じると?」

「疑心暗鬼になるのもいいけど、もう少し信じてもいいんじゃないかな? 第一、僕が助けなかったら君は死んでいたよ」

「だ…… だったら! どうして俺だけを助けた! あんたは神なんだろ? だったらどうして見捨てたんだ!」


 一真は耐えきれずに叫んでしまう。

 創造神と名乗る少年には恩はあれど怒りをぶつけるのはあまりには失礼。

 だが、彼にはそれしかできなかった。

 そうしてなければ、心が壊れてしまう気がしたからだ。

 そんな怒りをぶつけられた少年は彼に近づくと、優しく抱きつく。


「…… っ⁉︎  なにをしているんだ……」

「ごめんね…… 僕が不甲斐ないばかりに。 辛いことがあったのは分かっている。 だから、休んでて。 泣きたかったら泣いたらいいよ。 僕が全て受け止めてあげるから」


 そう言われた瞬間一真の瞳に大量の涙が溢れてくる。

 彼はようやく現実を受け止めたのだ。

 彼女達が死んだという事を。

 そして、覚悟を決める。

 ゼフを倒し、蘇生魔法のフューバーを探す事を。

 一真は涙を裾で拭うと口を開く。


「ごめん…… 気が動転していた。 せっかく助けてもらったのに……」

「全然いいよ、僕は一真の助けになったらいいと思っただけだから」

「ありがとう…… えっと、創造神様?」

「簡単にエトって呼んでよ」

「分かった、エト。 それでここはどこなんだ?」

「ここかい? ここは神の世界さ、何者にも干渉できない僕達だけのね」

「つまり…… どういう事だ? 海の底とか空の上とかってことか?」

「ううん、そうじゃないよ」

「じゃあ、天国みたいなもんか……」

「その認識でいいよ」


 エトがニコニコしながらそう言う。

 一真はその表情を見つめながらベッドから立ち上がる。


「ここから出ていいのか?」

「もしかして、外が気になるのかい?」

「まぁ…… 違うと言ったら嘘になるかな……」

「フフフ、一真は正直だね。 じゃあ、僕が案内してあげるよ」

「それは助かる」

「さて、それじゃあ行くよ」

 

 エトはそう言うと、扉をゆっくりと開ける。

 外から眩しいほどの光が押し寄せてくる。

 ゆっくりと目を開けると、そこにはなんと様々な種族の生物が普通に暮らしていた。

 地面は殆どが草であり、建物はどれも真っ白である。


「これはすごいな……」

「驚いたかい? ここには様々な種族が住んでいるんだ」

「襲われたりしないのか?」

「大丈夫だよ、ここにはそんな事をする種族はいないよ。 みんな優しいからね」


 今まで見たことのない種族に一真は感動して声が出ない。

 絶対に共存することはできないとまで言われていたのが、ここには確かにあった。


「あ! エトじゃん!」


 そんな声が聞こえたので、そちらの方を向くと、全身真っ赤なかなり際どい服を着た、地面に届きそうな程の美少女が近づいてきた。


「やぁ、フレイ。 こんなところで何してるんだい?」

「聞いてよー、なんかさ〜私の弟子が修行のしすぎで倒れちゃって」

「それで僕のところに来たというのかい? 僕ではなく治癒の神であるプレケケに頼ったらいいじゃないかい?」

「忙しそうだったから、それならと」

「まぁ、いいけど。 僕もあまり暇じゃないからね。 そして、弟子には修行のしすぎがないように見守る事」

「はいはーい」


 フレイはそんな適当な返事をしていると、隣で驚きの表情を浮かべている一真に気づく。


「なになに、もしかしてお姉さんに見惚れちゃった?」

「…… いえ、少し驚いたもので。 実は俺、法都に住んでいるんですよ」

「なるほどねー、つまり実物に会って感激しちゃったっことね」

「いえ、違います」

「違うのかい! ま、いいけど。 それにしても、あんた強いわね。 まだ私の方が強いけど、後二年ぐらいしたら負けるかもね」

「二年ですか……」


 あまりにも大雑把な期間。

 一真にとってそれは長すぎる。

 すぐに取り掛かりたいが、そればっかりは仕方ないのかもしれない。

 だが、僅かでもそれが可能ならと口を開く。


「一ヶ月…… それで誰にも負けないようにならないですか?」

「…… 無理だよ、そんな楽して強くなれる訳ないよ。 君の事情は分からないけど、私が提案できるのは強い人に頼む事。 ただそれだけ」

「…… そうですか、有難うございます」

「じゃあ、私は家で待ってるから。 君も来たら、弟子に合わせてあげるよ」


 フレイは先程の重い空気を吹き飛ばすように、元気よく叫びながら家の方角に走っていった。

 だけど、そんな事一真にはできない。

 それを見たエトは不気味な笑いを浮かべながら口を開く。


「もし君が良いなら、一ヶ月と言わず一瞬で強くしてあげるよ?」

「えっ…… 一瞬?」


 一真は驚きながらも、深くその提案を考え始めるのだった。

 


 

 


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