第159話 失敗

 朝になったのを伝える為か、窓から光が差し込んでくる。

 ゼフはその眩しさに目を描きながら身体を起こす。

 そして、すぐに異変に気づく。

 それは服が大量の血で濡れていることである。

 よく見れば、ベッドの方もだ。

 隣のサンはというと、同じように血に濡れながら寝息を立てている。

 それを見たゼフは、自分が何をされたのか理解する。

 とりあえずは、行動を移すべくサンの身体を揺らしながら声をかける。


「サン、起きろ」

「…… ぜふさま、なんの…… あれ、これは……」


 寝ぼけながらも、自分の服や手が血濡れていることに気付いたようだ。

 ゼフはデス・レイに浄化魔法を使うように命令する。

 すると、部屋全体が青白く光り出し、見る見るうちに服やベッドについた血が取れていく。

 そして、来た時以上に綺麗になった部屋を確認すると、サンを見据えながら口を開く。


「サン、身体に何か異常があるか?」

「異常ですか? いえ、特にはありません」

「そうか、どうやら俺達は殺されてしまったようだな」

「…… 殺されたんですか? 全然気づかなかったです……」

「かなりの腕らしいな。 まぁ、こちらには蟲達による蘇生魔法があるから問題ないがな」

「…… ゼフ様、一つよろしいでしょうか?」

「どうした?」

「殺されたのもわざとですよね?」


 それを聞いたゼフは感心しながら、軽く頷く。


「そうだ、普通ならば蟲達に護衛をさせるが、暗殺の可能性も少なからずあった。 ならば、それを利用すればいいと。 どういう狙いがあるか分かるか?」

「…… 私の考えれる範囲ですが、おそらく考えると言いつつもこのような行動に出た。 つまり、約束を破った。 それにより、更なる条件の提示とそれを飲むしか無い状況に追い込める、ということでしょうか?」

「そうだ、俺は何としてもエルフが欲しい。 だから、どんな事だろうとやらなくてはならない」


 ゼフがそう言いながらサンの表情を見ると、少し不機嫌そうだ。

 何故そんな顔をしているのかと、訊こうとしたとき、サンがゆっくりと口を開く。


「ですが、死んでしまうのは感心しません。 死ぬのは全て私の役目です。 次はそれを前提とした作戦を考えてください」

「…… そうか、検討しておこう」


 ゼフは意外な事を言うサンに少し驚く。

 確かに帝都で何度も殺し、蘇生魔法で生き返らせた。

 だが、彼女はそれを恐怖の対象としてではなく、当たり前のことをと認識し始めてる。

 しかし回復魔法により、精神的な苦痛を和らげているとは言っても、ゼフならたった数回の死でそれを克服することができるか。

 残念だが、それは叶わないだろう。

 そんな事を暫く考えると、次の行動を移すべく、口を開く。


「サン、とりあえずはエランドルの所に向かう」

「はい、分かりました」


 ゼフはサンがそう言うのを確認すると、急いで服を着替え、部屋を出る。

 途中、宿屋の主人らしきエルフとすれ違ったが、亡霊でも見たかのような表情を浮かべ、驚いていた。

 そして、外に出ると、なんとそこには掃除道具を持ったエルフが五人程立っていた。

 やはりと言うべきか、エルフ達は驚いている。

 ゼフはそれを見て楽しむように声をかける。


「俺が生きてるのがおかしいか?」

「…… なんの事でしょうか? 私達には何のことかさっぱり」


 エルフの一人がそう返す。

 悪魔でシラを切るつもりなのだろう。

だが、慣れていないせいか、額に大量の汗をかいている。


「ククク、別に誤魔化さなくてもいい。 お前達は俺の死体を処理しにきたんだろ?」

「いえ、そんなことは……」

「そうか、ならば言い方を変えよう。 誰に命令された? さもなければ殺す」


 その言葉により、一瞬にしてエルフ達の表情が固まる。

 すぐに答えるものはいない。

 考えているのだろう。

 ここで答えるべきか、仲間を売るべきかを。

 現に焦りを感じさせる表情を浮かべ、手が震えている者もいる。

 そして、エルフの一人が答える。


「グレノールさん……」

「…… もう一度言ってみろ」

「グレノールさんです!」

「ククク、そうか。 よく答えてくれた、残念だが他の奴は死んでもらう。 まぁ、もう少し有益な情報を吐いてくれるなら別だが」


 そう言うと、それを境にエルフ達が色んなことを喋り始める。

 俺を暗殺したこと。

 それをしたのは、グレノールの部下のこと。

 そして、老王のことなど。

 正直、これが真実かは分からない。

 だから、ゼフは釘を刺すように呟く。


「話してくれて助かったよ。 それで、これは可能性の話だが、この情報が嘘の場合、どうなるか分かっているよな?」


 ゼフはそう言い、エルフ達を見ると、顔を縦にブンブンと驚くほどの速さで振っている。

 それを確認したゼフは、族長であるエランドルの家に向かい始める。

 隣のサンは何故かご機嫌だ。

 そんな光景をノアに会う為に来ていたリアンドロが木の影から見ているのだった。

 そして、ゼフとサンの姿が見えなくなると、すぐさまメッセージの魔法を使い、ある者の所へ急いで向かうのだった。

 


 



 

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