第156話 話し合い
ゼフが出て行ってから数分後、エランドルは息子のリアンドロの他に二人家に呼びつけた。
一人は、集落の治安を維持する部隊を務めている隊長、名前をグレノールという。
そして、もう一人は食糧を管理したり、書類を片付けたりする等、主に集落の内側の事をやっている有能な男、名前をルアノという。
そんな二人を混ぜて、机を囲って座る。
だが、空気は決して軽いとは言えず、非常に重い。
そんな空気の中で最初に言葉を発したのはエランドルであった。
「まずは、急に呼び出したにも関わらず、すぐに来てくれたことを感謝する」
エランドルは暗い表情を浮かべながらそう言うと、グレノールがニヤつきながらそれに返答する。
「いいってことよ、俺達の仲だろ? なぁ、ルアノ」
「ええ、そうです。 それで、どういったことを言われたのですか?」
「ああ、それが……」
エランドルはゼフに提示された条件、そしてそれを二日後までにエランドル自身が決める事、それを二人に話す。
グレノールとルアノは大人しくそれを聞いているが、表情が非常に暗い。
そして、話終わった時にグレノールが呟く。
「無茶苦茶だな……」
「それが私達が生き残る道のようだ」
「こちらは非常に不利ですね」
「そうだ、あれが無ければ良かったのだが……」
森に死を与えている何かは本当にゼフによるものなのか、もしかしたら違うかもしれない。
だが、それを確認する術はエランドル達には無い。
「それでどうしますか、族長」
「リアンドロ…… お前は何かいい案はあるか?」
「…… 僕の案ですか? 難しいですけど、老王に頼むとかですかね」
「却下だな、あまりあいつらに恩は売りたくない」
「でしたら…… 認めるしかないのかもしれません」
「やはりそうか……」
エランドルはどちらにせよ助かる道はないのだと悟ると、他の集落の族長にどうやって説得するかを考え始める。
そんな時、ルアノが口を開く。
「殺してしまえばいい」
「…… どういう意味だ?」
「言葉のまんまですよ。 私が見た所、ゼフという人間は弱く感じました。 ならば、殺してしまえばいいのです。 勿論、暗殺という形ですがね」
そんな突拍子もない発言に、グレノールが口を挟む。
「おいおい、そんなことしたら戦争になるぞ? 少なくとも俺らが派遣した精鋭部隊を一瞬で倒す実力があるんだろ? なら、やめた方が良いんじゃないか?」
「グレノール、君はもう少し全体を見る視野を養った方がいいですよ」
「…… どういうことだ?」
「そもそも、私達に敵う人間など歴史を見てもいません。 ですが、現れた。 しかも、それが王と来た。 さて、これがどういう意味を指すと思いますか?」
「…… どういう意味だ?」
グレノールは頭にはてなマークを浮かべ考える。
しかし、分からない。
それをリアンドロが代わりに答える。
「ゼフを殺せば、蟲国は崩壊すると?」
「そうです、普通は王ともう一人だけで来るわけないんです。 護衛がいます、ですがそれは召喚した魔物でしょう。 つまり、ゼフを殺せば魔力を使わなければ維持できない魔物は消え、人間にエルフの恐ろしさを知らしめることができます」
「だが…… そうだとしても、森に死を与えているあれは何だ? あれが無くならなければ、意味がないぞ」
「安心してください、ゼフ自身は弱く感じたと言いましたよね?」
「…… ああ」
「だったら、それを起こしてるのはゼフではなく、召喚した蟲となります。 そして、それは先程も言ったように、ゼフを殺せば全て解決する」
「ふむ、そうかそうか。 ならば、やろう」
エランドルはルアノが言うそれを聞き、暗かった表情が見違えるほど明るくなる。
召喚士、それがどれ程大変な職業なのか忘れていた。
ここまで分かれば、後は簡単である。
「それで、誰がやるんだ? 心当たりはあるか、グレノール」
「…… 一人、いいのがいるぜ。 職業が短剣士のエルフがな」
「能力や魔法は暗殺寄りということか?」
「ああ、そうだ」
「それなら、リアンドロ。 グレノールについて行き、実力を確かめるんだ」
「はい、族長」
「そして、ルアノだが…… 仕事に戻ってくれ」
「分かりました」
意気揚々に命令を下すエランドル。
だが、それを見たリアンドロは口を開く。
「族長……」
「…… なんだ?」
「失敗した時はどうするんですか?」
「ならば…… すまないが、ルアノもグレノールとリアンドロについて行き、その短剣士がゼフを殺すことができるか確かめてくれ」
「分かりました」
「リアンドロ、これで問題ないだろ?」
「まぁ……」
「作戦は今夜行う、実力的に厳しそうなら別の手段を考える。 では、解散」
エランドルはそう言い、解散させる。
召喚士は魔物が強くても、本体は大したことない。
これは普通のことである。
しかし、リアンドロは何故か嫌な予感がしてならなかったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます