第155話 交渉
ゼフがエルフ達に近づく為に一歩踏み出すと、それに合わすようにエルフの中からも一人出てくる。
見た目からしてこの村で一番偉いエルフなのだろうと思いながら、距離が人一人分になると、お互い足を止める。
そして、ゼフから話を始める。
「俺は蟲国の王、ゼフだ。 今回はお前達に話があって来た」
それを聞いた代表のエルフはこちらに疑念の目を向けながらもそれに答える。
「私の名前はエランドル、この集落の族長を務めている。 それで、人間の王が私達に何のようかな?」
「それについてだが、中に入って話すことはできないか? 正直、ここまで来るのにかなり疲れた」
「それは無理だな、事前に言うならまだしも、いきなり来て、はいそうですか、と言う奴が何処にいる。 それに君は王だと言うが、普通に考えてそんな偉い奴が来るわけないだろ。 真実を言うんだ」
「そうか、確かに最もな事だ。 まぁ、それぐらいは予想はしていた。 だから、先手を打たせてもらった」
「…… どういうことだ?」
そう聞いてくるエランドル、それにゼフは笑みを浮かべて答える。
「最近、大変なことが起こってないか?」
「何のことだ?」
「…… 悪魔でシラを切るつもりか。 ならば、単刀直入に言う。 森が…… いや、一部の場所のあらゆるものが死んではないか?」
それを聞いたエランドルは今まで見せなかった動揺が少し現れる。
勿論、すぐに戻ったが、ゼフにとってはそれで十分だった。
「あれは俺が起こしている物だ」
「…… なに? それが嘘では無いと証明できるのか?」
「ならば、更に沢山死ぬだけだ。 今は抑制魔法をかけ、最小限の威力になるよう調整しているからこれで済んでいるが、それを解けばたくさん死ぬ。 お前の選択にかかっている、さぁどうする?」
「…… 案内しよう」
「いい判断だ」
エランドルは何かを感じ取ったのか、話を詳しく聞く為に中に案内する。
他のエルフ達は納得していないのか、侮蔑の目でゼフ達を見つめている。
そして、案内されたのは一つの家。
中に入ると、目に入ったのは特に豪華という訳ではなく、全てが木で作られている家具。
非常に味のある一室だ。
ゼフとサンは椅子に座ると、対面にエランドルと少し若いエルフ、そして扉にはあの身体が大きなエルフが立つ。
そして、まずはエランドルが口を開く。
「この度は私共の集落に足を運んでいただき、有難う御座います。 隣に座るは、私の息子であるリアンドロです。 そして、入り口に立ちますは、護衛のゲメスでございます」
「ふん、随分と変わったな」
「客人と分かれば、それ相応の対応を取らせて頂くまでです」
だが、それを謝らないということは、エランドルも心の中ではそんなこと思ってないのである。
ゼフはそれを理解しているが、してない振りをして話の続きを始める。
「さて、まずは…… 今、起こっている一部の森が死ぬという現象、この収め方だが…… こちらの条件を全て飲むことだ」
「…… 条件とは?」
「これはお前達にも悪い話では無い。 まず、エルフの全ての村、それを蟲国の一部とする事を認めること」
「残念だが、話にならない。 そんな事をすれば、どうなるか分かっているのですか?」
「それぐらいは分かっている。 お前達は代々最果ての地の魔物と人間を争わせないようにしてきた。 だから、森に入った者は容赦なく殺したのだろう?」
「なるほど…… 理解しておりましたか。 そうです、今までもそうしなかったように、これからもしないです」
「つまり、人間と魔物が争ったらダメということか。 なら、問題ない」
「…… どういうことですか?」
「俺は召喚士だ、戦うのは魔物と魔物。 これなら問題ないだろ?」
エランドルは顎に手を当て、それに関して少し考えると、頷きながらゼフを見据える。
「確かにそれなら、私共が築き上げてきた歴史が汚されることは無いですね」
「そういうことだ、さて次の要求だが、蟲国の民となった暁には主に内政を行ってもらう」
「…… 内政ですか?」
「そうだ、残念なことに内政を行えるものは蟲国には少ない。 だが、エルフの知識を使えばそれも簡単だろう? 勿論、その報酬として、森を守る兵士を派遣しよう」
「…… 別に構いませんが、報酬が兵士だけですか? それなら私共だけで事足ります」
「安心しろ、派遣するのは俺が召喚した蟲だ。 強さで言えば、お前達では相手にならない」
「…… それで断ったら?」
「万が一にもあり得ないが、そうなったら場合は森と一緒に消えてもらうだけだ」
エランドルはそこで少し考える振りをする。
ゼフという男はエルフを思った以上に必要としているようなので、それがハッタリの可能性が出てきた。
そこで少し吹っかけることにする。
「全てのエルフと森の安全と人間は森に入れない事、そして情報の提供をしてくださるなら考えましょう」
「…… なるほどな、穏便に済ませようと思ったが、無理なようだな。 二日やる、今の条件で呑むかどうか考えろ。 これは提案では無い、脅しだ」
エランドルはそう言われ驚きの表情を浮かべる。
そして、何か言おうとした時、隣に座っているリアンドロが立ち上がり、叫ぶ。
「それは無理だ! 二日じゃ全ての集落にこの事を伝えれない! せめて一ヶ月は貰わないと!」
「無理だ、二日で決めろ。 もし、出来なかったら分かっているな?」
「で、でも!」
「リアンドロ!」
「…… 族長」
「座りなさい」
エランドルはリアンドロを座らせると、ゆっくりと口を開く。
「分かった、二日で答えを出そう。 それで森が死ぬことは無くなるのだな?」
「ああ、約束は守ろう」
「…… 宿はゲメスに案内してもらってください。 私共はこれからそれについて話し合います」
「そうか、では俺達はここを出ようか。 行くぞ、サン」
「は、はい!」
ゼフはそう言い、立ち上がると、扉に立っているゲメスと一緒に部屋から出ていくのだった。
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