第118話 思わぬ暗殺
ゼフは予めかけておいた蘇生魔法で蘇ると、辺りを見渡す。どうやらあのメイドは部屋から出ていったようだ。起き上がるとすぐに廊下に出る。
(いつかは来ると思っていたが、ここまで早いとはな…… 先程まで失敗を悔いていたところにこれだ。 それより今はまずい……)
そう思っていると、城が振動で揺れ始める。揺れはすぐに収まるが、ゼフは変な汗をが額から流れる。
(まずい、クリシュプロン・バーナレクがキレてる……)
ゼフはすぐにクリシュプロン・バーナレクに落ち着くように命令を出す。アザメロウやアイアンGのように一部の蟲はゼフが傷ついたり、死んだりしても命令していれば暴れたりすることはない。だが、ほとんどの蟲は愛情うえか命令していても原因を殺そうとする。
(これまではデスGしか召喚していなかったから大丈夫だったが、今回は規模が違う。 下手したら星がなくなる)
クリシュプロン・バーナレクはどうやら命令を受け入れたらしく、城の揺れが収まる。すると、廊下の先にアリシアが兵士と蟲を引き連れてやってくるのが見えた。
「ゼフ様、大丈夫でしょうか?」
「問題ない、あれは前に言ったクリシュプロン・バーナレクによるものだ。 今は落ち着いているから大丈夫だ。 それよりもメイドの中に殺しをする者がいた」
「メイドの中ですか? 一体誰が……」
「メイドはどうやって決めている?」
「主に貴族の娘をこちらが判断しております」
「そうか、一体誰が殺しに来たんだ……?」
(いや、待てよ…… あのメイドは殺したことを判断した後部屋から出て行った。 おそらく蘇生魔法のことを知らなかったんだろう。 ということはグリムからそのことを聞かされていないものか……)
ゼフは敵をあぶり出す方法を思いつき笑みが零れる。
「アリシア、俺の蘇生魔法について知ってるやつは誰だ?」
「蘇生魔法でしょうか? 知っているのは私と元皇帝陛下、勇者、そして聖都のギルドマスターのアイドリッヒ、城に仕えている身分が高い者、そしてゼフ様の奴隷だけだと思われます」
「そうか…… そう言えば先程俺がいない時の代理の皇帝はアリシアにすると言ったよな?」
「はい、そのように伺いました」
「ならこれからはお前が皇帝だ」
「え⁉︎ 一体どういうことですか!」
「今から簡単に説明する。 まずは俺が死んだことを発表しろ、おそらくそれで誰が俺を殺そうとしたか絞れるはずだ。 そいつらは俺が裏で殺る。 それが終わり次第復帰する。 だから、それまで頼むということだ」
「構いませんが、大丈夫でしょうか?」
「ククク、この俺を誰だと思っている? この街に俺を完全に殺すことができる奴などいない。 安心して自分のことだけをやれ」
ゼフはそう言うと自分の部屋に戻っていく。
✳︎✳︎✳︎
城の前に民たちが集まる。はやくも2回目になる演説に不安を募らせているが、これがなにかを示すか理解しているのか喜びの表情を見せるものも見受けられる。しばらくするとバルコニーからアリシアが顔を出す。
「皆さん忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。 この度は1つ重大な報告があります。 皆さん落ち着いて聞いてください。 蟲街現皇帝のゼフ蟲王がお亡くなりになりました」
それを聞いた民からどよめきが走る。しかし、それを悲しむものは少ない。それもそうだろう、彼は無理やり皇帝になり、街に蟲を放ったのだから。
「ゼフ蟲王は生前に自分がいなくなった時は代理として私が皇帝を務めるように仰りました。 なので次の皇帝が決まるまで私が務めさせてもらいます」
それを聞いた民たちから歓声が上がる。どれだけ不満が溜まっていたのかは一目瞭然である。アリシアはそれだけ言うと軽くお辞儀をしその場から下がる。それを見ていたゼフは感心しつつも敵を見定める。
「やはり分からないものだな。 ミリア、敵は一般市民より高い能力を保有している。 しかもあそこまで華麗にやったのだから、暗殺系に特化してるだろう。 そいつを探せ」
「はい、わかりました」
ミリアはそう言うと神眼を使い始める。隣に立つゼフは仮面をつけている。
(この仮面も久しぶりだな。 敵は暗殺系か…… あまりにも情報が少なすぎる。 もし見つからなかったとしたらやり方を変えなければな)
しばらくするとミリアが何かを見つけたのか口を開く。
「見つけました、ゼフ様。 ただ、怪しいものが複数います」
「とりあえずどいつが怪しいか教えろ。 後は蟲に尾行させる」
(さあ、お前は誰に喧嘩を売ったのかを身をもって教えてやる)
ゼフはミリアに情報を教えてもらった後、透明化の蟲に命令し、自分達もそのうちの1人に尾行をし始めた。
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