第116話 終焉種
ゼフは自分専用の大きな部屋で椅子に座りくつろいでいると、扉がノックされ開く。入ってきたのはサンとアリシアであり、報告書のようなものを大量に抱えていた。
「し、失礼しますご主人様」
「どうした?」
「ゼフ様に目を通して頂きたい報告書がございましたのでお持ちしました」
「報告書? エリシュロンに勝手にやらせればいいだろ」
「そういうわけには行きません。 これはゼフ様自身に確認してもらわなければならないものであります。 それにこれがないとやりたいこともできません」
「そうか…… 今回は仕方ないから俺がやろう。 だが、次からはエリシュロンやニあたりにこの問題を持っていけ。 これは命令だからな」
ゼフは報告書に目を通すことを避けるように王としての特権を使う。
「わかりました…… それが命令なら仕方ありません」
「それでいい、そう言えばあれはできているか?」
「滞りなく進んでおります…… ですが、人間を効率的に増やす為の施設はやはり一般市民からの反発は避けられません。 実を言うと私も賛成ではありません」
「叡智を手に入れたことで自分が何を言っても安全だと勘違いしていないか? 俺がその気ならやれることを忘れるな。 だが、言いたいこともわかる。 そういう奴らは少なからず出てくることは俺もわかっている。 おそらく今もそういう奴は沢山いるだろう。 だが、施設ができたら罪を捏造してそこに閉じ込めろ。 それが無理ならこれから作る壺に放り込め」
「あなたって人は……」
「なら、俺を殺すか? 不可能だろう。 わかったら言われたことをやっていればいい。 それともお前が子供を沢山産むのか?」
それを聞いたアリシアはそれ以上言い返せないまま黙ってしまう。この男に殺意を抱きつつもそれができない自分が腹立たしかった。
「あの…….ご主人様」
「どうしたサン」
「壺とは一体なんですか?」
「人間達の処刑場だ。 名前は単に出口が少ないことを表しているが、特に考える必要はない。 内容に至ってはシンプルでこの街の地下に閉じ込める。 そこにはデスGを始めとした人間に好意など抱くはずもない残虐性の高い蟲達を入れる。 そうすればどうなる?」
「食べられるということでしょうか」
「そうだ、これを使えば恐怖で俺に楯突く奴などいなくなるだろう」
「そんなことをしていれば、いずれ何処かで破綻します」
「そんなことはないさ、実際恐怖による支配をしている街を見たことある。 人間は殺していればすぐにいなくなってしまう。 だから、わざわざ殺さない道を進まなければならないんだ」
「ゼフ様は一体何をなさるおつもりですか?」
「気になるのか? いいだろう教えてやる。 俺はこのまま安全な暮らしをする。 だが、そのためには敵となりうる者は排除しなければならない。 だから、結果的に世界の支配をすることになるな」
アリシアはそれを聞き息を飲む。おそらくこの男なら、蟲達なら可能なことだろう。親を殺され、街を破壊されてこの男が酷く憎いが自分には民を守る使命がある。それがどんな形であっても可能ならゼフについていた方がいい気がしている自分もいることに気づき怖くなる。しかし、実際そうするしかないのだ。
「ご主人様がどんなことをしようとも私は奴隷です。 ただ、それについていくだけです」
「私も不本意でありますが、私は私のためにそれに付き添わしていただきます」
「そうか、最後に1つ。 全ての人間にデスレイには近づかないように伝えておけ」
「ご主人様どうしてでしょうか」
「簡単に言うとあの街は現在デス・レイという蟲が住処として使っている。 だが、問題は死の瘴気を最小限にするように命令はしているが、半径1kmに渡って漏れ出してる。 それに触れれば死ぬからだ」
「一体今度はどんな蟲を召喚したの……」
「終焉種という種族だ。 これ以上は説明すれば長くなる。 因みにバーナレクには地下にクリシュプロン・バーナレクを、アルタイルにはヘヴン・アルタイルが街に屋根を作るようにして召喚してある」
「まさか街の名前って……」
「もちろん今言った終焉種の蟲達の名前だ。 因みにこの2体に関しては街や人間に影響を与えるほどではないから大丈夫だ。 まあそれもデス・レイがその2体の能力を阻害しているおかげだかな」
それを聞いているサンとアリシアは変な汗が流れるのを感じる。おそらくその2体も何かしら恐ろしい能力があるだろうが怖くて聞き出せなかった。その後、報告書を渡すと部屋を出るアリシアとサンだが、扉を閉める時窓に向かって不気味に笑っているゼフが見えてしまった。
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