化物の街

第115話 契約

帝都が蟲都になったその日、聖都も同じように蟲達の進行によって第2の蟲の都市と成り果てていた。ゼフはその記念に元帝都をバーナレク、聖都をアルタイル、王都をデスレイと名付けた。そして、今は玉座に座り鬱陶しそうに後ろの悪魔を見つめる。


「ゼフ様どうかなさいましたか」


「お前は何故ここにいる。 お前の契約した人間はアリシアだろ」


「何を言いますか、このフォルミルドは誰につけば有益なのかは十分理解しています。 この街の王はゼフ様です。 これ以上は言わなくてもお分かりですよね?」


「相変わらず口が上手い奴だ。 それと、口調変わってるのは何故だ? 最初はあんなに偉そうだったじゃないか」


「あの時は封印を解いてもらったばかりで、現状を把握しておりませんでした。 しかし、私は42柱の中で1、2位を争う頭脳の持ち主であります。 直ぐに誰が上なのかを理解し、同時に私はゼフ様に対する敬意で溢れたのです」


「そうか…… だが、勘違いはするなよ。 俺がお前を生かしているのはその膨大な知識があってのことだということを」


「それは十分承知しております」


そう言う悪魔は顔がないので表情が読みづらい。今まで出会った中でも最も不気味な悪魔との話を終えると軽く息を吐き、深く椅子に座るのだった。



✳︎✳︎✳︎



時は3日前にさかのぼる。ゼフは数匹の蟲達とアリシアで地下通路にある封印石から悪魔を出すことに成功していた。


「ここは…… なるほど人間。 お前が私の封印を解いたのか。 私は42柱が1つ叡智のフォルミルド。 さて、お前は私に何を望む」


「当たりのようだな、無理だろうが言っておこう。 俺はお前が死ぬことを望む」


「なんだと? 随分と舐められたものだな。 それとも本物のバカか?」


「悪魔が何を言うかと思えば、お前は剛腕のデーモンだったかな? 奴よりも危機意識が低いようだな」


「剛腕だと…… まさか、殺したのか?」


「ここにいるということはそういうことだ」


「人間にしては中々やるな。 いや、お前は人間なのか? 今まで見てきた人間の気の流れとは全く違う。 一体何をしたらそうなる……」


ゼフは悪魔というのは全て言うことが決まっていて飽き飽きしている。何故奴らは口を揃えてお前は人間なのかというのだろうと思っていたが、おそらくフォルミルドが言っている気の流れというものを悪魔は見ることができるのだろう。


「正直早く帰って寝たい。 今日は特別に苦痛のない死を迎えさせてやろう」


「少し待て! 剛腕のデーモンは戦闘に関しては私より強い。 私も負けると分かっている戦いをするつもりもない。 どうだろうか私の知識を使ってみないか?」


フォルミルドは自分が死なないように叡智と呼ばれる自分の知識をアピールすることでこの場を生きながらえようとする。


「知識か…… 確かにより多く知っている方がこの先役に立つだろう。 それでお前はどんなことを知っている?」


「私を舐めてもらってはいけない。 私の能力の叡智は相手に妨害されない限り全てを知ることができる。 お前は何を望む?」


「皇都にあるとされる鉱石は一体なんだ?」


「皇都にある鉱石か…… 名称は色々あるようだが、その街では魔晶石と呼ばれてるな」


「能力は嘘ではないか…… よし、いいだろう。 アリシアこいつと契約しろ」


「私がですか? 幼い頃にその手の類は聞かされたことがありますが、死なないでしょうか?」


「どうなんだフォルミルド」


「安心してください、契約しても死ぬことはありません。 ただ、私の持つ全ての能力を共有するだけです」


(こいつ口調がなんか変わったな……)


そんなことをゼフは思うが、今は特に追求せずに契約を進めるために話を進める。


「契約には何が必要だ?」


「その悪魔によって変わりますが、私には冒険者ランクA程の魔導士の魔力を100人分あれば十分です」


「随分多いな…… 仕方ない、俺の魔力で賄えると思うが、何か問題あるか?」


「どれどれ、少し拝見しますね」


そう言うとフォルミルドは何かの魔法を使い始める。ゼフの魔力の多さに驚いたのか、嬉しそうにそれを褒めてくる。


「問題はないです。 というか、わかっていましたけど、人間やめてますね」


「褒め言葉と受け取っておこう。 アリシア前に出ろ」


「はい……」


「では、契約を始めますよ」


フォルミルドはそう言うと、ゼフの体から魔力が大量に溢れてくる。それが、フォルミルドの体内に吸収されていき、1分と経たない内に終了する。


「これで終わりです。 どうですかアリシアさん」


「あんまり実感が湧かないです……」


「まあ、能力の使い方は徐々に慣れていきましょう。 おそらく叡智の能力はあまりに情報が膨大すぎて普通の人なら気が狂いますからね」


フォルミルドがサラッととんでもないことを言ったのでアリシアはこの契約をしたことを仕方ないとはしても後悔し始めていた。


「さて、契約も終わったことだし城に戻るか。 行くぞお前ら」


ゼフがそう言うと後ろにアリシア、フォルミルド、蟲達と並んで城に帰るのだった。

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