第108話 全てのために
時間は遡り、ここは帝都の帝城の皇帝謁見場。そこには見事なドレスとを着ている女性とその護衛と思わしき者達が膝まづいていた。対する堂々と椅子に座っているのはこの街の皇帝であり、名前をエリシュロンという。
「面を上げよ、このような場所まではるばるご苦労じゃった。 久しぶりじゃのうアリシアちゃん。 昔はあんな小さかったのにのう」
「エリシュロン皇帝陛下お久しぶりです。 昔のことは少し恥ずかしいですのでこの場所では……」
「そうかそうか、アリシアちゃんももう年頃の女性じゃったな。 さて、ここまで来たのはどうしてじゃ? 父上は元気かの?」
その言葉を聞くや否やアリシアは崩れ涙を流す。それを見たエリシュロンは最初は驚くが、彼女の涙を見てどれ程のことを持ってきたのかを察する。
「アリシアちゃん、辛いと思うが何があったかを話してはくれぬかの?」
「はい…… 簡潔に申しますと王都が滅びました」
「王都が滅んだ…… それは真か?」
「私自身の目で確認したわけではありません。 ですが、私は王都が襲撃を受けたとこを逃げ出してきましたのでほぼ確定でしょう……」
「そうか…… それは大変じゃったの。 大体は理解した、今日はゆっくり休みなさい」
「ありがとうございます…… 皇帝陛下」
アリシアはそう言うと護衛と共に謁見場から出て行く。その後ろ姿は悲しみに溢れていた。かなり短い時間だったが、彼女の負った傷を理解したエリシュロンはすぐに行動に移すため口を開く。
「怪物は今はどこにいるかの?」
「はっ! 現在は帝城にてお食事の最中で御座います」
「なら、怪物に伝えてくれ。 明日はアリシア王女の力になってくれと」
「わかりました!」
側に控えていた兵士にそれを伝えると直ぐに行動を移すべく謁見場から出て行った。
(アリシアちゃんから聞いた話では王都を滅ぼす程の存在が現れたとなると、奴にしか頼れん。 じゃが、奴ならなんとかしてくれるだろう。 すまんのアリシアちゃん)
その後は10分ほど何も発さないエリシュロンに兵士達に緊張が走ったが、その後何事もなくその場を後にしたことで安心するのだった。
✳︎✳︎✳︎
次の日アリシアはエリシュロンからとある部屋に力になってくれる者がいると紹介されて訪れていた。
「失礼します」
部屋に入るとそこはかなり広く、皇帝が使っていても遜色がないほどのものだった。椅子に座ってこちらを見ている男はニヤついている。
「よう、お前がアリシアか? まあそこに座れ」
「あ、ありがとうございます」
アリシアは向かいの椅子に座る。
「まずは、何があったか話して貰おうか」
「はい、私の王都が滅びました。 原因は分かっていますゼフという男です。 皇帝陛下が貴方なら力になってくれると言ってました。 本当に力になってくれるのですか?」
「ゼフ…… ククククク。 ハハハハハハ! あいつがやったのか! そうか! やっと会えるのかよ!」
アリシアは急に叫び出した目の前の男に驚きを見せる。
「もしかしてお知り合いなのですか?」
「そうだ! 奴は俺をこの世界に連れてきた張本人だ!」
「この世界に連れて来たってまさか……」
「そうだ、俺とゼフは別の世界からやって来た」
「だから、あんなにも常識に欠けていたのね……」
「お前も奴に会ったみたいだな。 奴は化け物みたいに強いだろ?」
「はい、私が知る限りではあれ程の召喚士は知りません」
「だが、安心しろ。 俺からすれば奴は雑魚だ。 ちょうど今奴の魔力に限定して探知魔法をこの星に使っているが、確かにいるな。 デスワーム、ガシガシ、ビートルウォリア、アイアンG、インセクト・ドラゴンまでいやがる」
「探知魔法でそこまで分かるもんなんですか?」
「勿論だ、俺を誰だと思っている? 帝都最強の冒険者であるグリムだ。 だが、1年以上使ってなかったからか疲れるな。 まあ、探知魔法を頻繁に使わなくても奴程度なら勝てるからいいが」
それを聞いたアリシア立ち上がり頭を下げる。
「お願いします、彼を…… あの悪魔を殺してください。 そうしないと他の街だって……」
「お前はそれに何を差し出す?」
「え…… それは……」
「覚悟のない奴はそういうことを言うもんじゃねぇぜ。 俺からすればあんたは今持つ全てを差し出してようやく俺の持つ武力と釣り合う」
「なら、それでお願いします」
「あんた本気か?」
そう言うグリムだったが、アリシアの潤んだ瞳を見て考えを決心する。
「わかった、俺が勝てばあんたを嫁にする」
「嫁⁉︎ そんなこと言われても……」
「なんだ? 全てを差し出すんじゃないのか? それに俺はこの街じゃ皇帝と同等の力を持っている。 無闇に逆らうものじゃねぇぜ」
アリシアはあたふたするが、その言葉を聞き決心する。こうまでしなければゼフをやれないと。それにグリムならいいような気がしていた。
「わかりました、お願いします」
「決まったな、最初に1つだけ言わせてもらう。 これからは俺のやり方に従ってもらう。 奴を殺したいのは俺も同じだ。 なら、最高の絶望を与えて殺すのが1番スッキリするからな」
「グリム様のやり方に私は従います」
「その呼び方はやめろ。 これからはグリムと呼べ。 お前は俺の嫁なのだから」
「わかりました、グリム」
「それでいい、それじゃあこれから始めようか。 奴はおそらく冒険者のランクを上げようとするだろう。 アイドリッヒに頼んで上げてもらうか…… 特に魔族討伐なんかもいいかもな。 俺が動かなくても勝手に掃除してくれる。 奴ならすぐに食らいつくだろう。 後は俺の名前を使って呼び出すだけだ」
「簡単に行くでしょうか?」
「ああ、奴は食らいつくだろうな。 自分が最強だと勘違いしているからな」
グリムは不敵な笑みを浮かべながら笑う。それを見るアリシアはグリムのことを根はいい人なのだと思っていたがそれは大きな勘違いだった。何故なら彼はアリシアがここで断ろうとも自分のものにするつもりだったからである。
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