第88話 兄貴
次の日、ゼフと奴隷の3人は冒険者組合に来ていた。ゼフ自身起きたのが昼過ぎていたので組合には数人しかいない。だが、レオとの約束の時間は15時過ぎだったのでゼフにとって丁度良かった。飲み物を飲みながらくつろいでいるとレオが時間通りにやってきて、ゼフを見つけるとすぐにこちらに寄ってくる。
「お待たせしました」
「丁度だな、遅れないことはいいことだ」
「ありがとうございます。 それでなんてお呼びすればいいでしょうか?」
「お前の好きなように呼べ」
「わかりました兄貴」
そんな呼ばれ方したことがなかったので違和感を覚えるが言い出したのは自分なので納得する。
「さて、今回だがお前には少し案内してもらいたいとこがある」
「どこでしょうか?」
「賭博場だ、それも奴隷を使っているな」
レオの表情が一瞬にして凍りつく。その話を盗み聞きしている数人の冒険者もあからさまに慌てる様子を見せる。
「冗談じゃないですよね?」
「ああ、もしかして知らないのか?」
「いえ、知ってるちゃ知ってるんですが…… 詳しく聞いてくるんで少し時間をもらっていいですか?」
「ああ、構わん」
レオは駆け足で組合を出て行く。ゼフは再び召喚魔法で飲み物を出そうとすると、職員が近づいてくるのがわかった。
「ゼフ様」
「なんだ?」
「マスターがお呼びです」
「どういうことだ?」
「私達も聞かされておりませんので、直接お願いします」
ゼフは仕方なくギルドマスターがいる部屋に向かう。その際奴隷達は置いてきた。部屋の前に着き、ノックをして入るとそこには40代後半の黒髪の男性が椅子に座ってこちらを見ていた。
「君が最高ランクのゼフくんだね?」
「ああ、そうだ」
「とりあえずそこにかけたまえ」
ゼフが椅子に座ると、暗い表情で口を開く。
「ゼブくん、君が何故私に呼ばれたのかわかるかね?」
「なんとなくだがな」
「それなら話が早い。 これ以上は人を殺さないでほしい」
「それはおかしいな。 俺は最初冒険者になった時組合が関与しないが、自己責任だと言われたんだがな」
「他の街は知らんが、この街にはこの街のやり方がある。 人を殺すな」
ゼフはギルドマスターの言葉に少々イラつきを覚える。
「人を殺すなだと? あっちは殺す気だったんだぞ? それに人以外ならいいのか?」
「そうか、守ってはくれんのか…… だったら仕方ない。 君の冒険者としての資格を破棄しよう。 そして、帝都にだけ存在する警備隊に引き渡そう」
「何を言っている?」
「私は平和を願っているんだ。 お前みたいな人殺しなら尚更だ。 できれば黙って警備隊に引き渡せば良かったが、お前みたいなやつでもSSランクだからな。 忠告はさせてもらった」
「他の奴ならともかく冒険者はいつ誰に殺されても仕方がない。 自分の身を守れなかった奴が悪いというのが暗黙の了解であり、殺してはいけないというルールはないはずだが?」
「確かに、今は悪い奴が多すぎる。 一般人である貴族や聖都の勇者、そして王などの人物以外なら殺したとしても罪に問われることはない。 寧ろルールに従っただけだ。 だが、残念ながら君は勘違いしている。 警備隊はそういうルール状問題ない人殺しを捕まえるために皇帝が作り上げた組織だ」
「そうか、殺してもいいとは言っているが、実際のところ殺すと罪になる。 だから誰も人を殺さないのか」
「安心しろ、よくて牢屋に2年、悪くて奴隷落ちだ」
「そうかわかった。 だか、お前も勘違いしている。 俺は今まで事が表に出るのは避けるようにはしてきた。 だが、今の俺は別になんとも思わない」
「何を言って……」
そう言うと腰の操蟲がギルドマスターにめがけて飛び出し、鋭利な牙で彼の腹貫いた。
「弱い、だが今死なれては困るんだよ。 蘇生蟲、生き返らせろ」
近くに待機していた透明化をかけていた蘇生蟲がギルドマスターを生き返らせる。
「はっ! なんだ…… 何をしたんだ」
「見たらわかるだろ」
ギルドマスターが視線を下に向けると自分の腹を操蟲が貫いているのが見えた。
(くそっ、なんなんだ。 激痛で考えられん……)
「正直他の街のように冒険者同士の殺し合いを咎める者がいなかったから、ここもそうだと思っていた。 だが、この街は少しそういう面で発達してるみたいだな。 簡単に人を殺せるが、警備隊に捕まるリスクがあると。 それにルールを変えずに新たな方法を追加することで帝都の人間が他の街に行った時に困らない。 素晴らしいものだな」
ギルドマスターを見ると、どうやら再び死んだらしく、蘇生蟲が生き返らせる。
「安心しろ、この部屋は魔法で音が漏れないようにしてあるから、叫んでも大丈夫だ。 では、お前が絶望するまで続けさせてもらおう」
(何故…… 俺がこんな目に……)
ギルドマスターは何回も殺され、3回目の死と同時にパラサイトを寄生させた。そして、ゼフが殺した冒険者のことをもみ消すように命令し、優雅に部屋を出て行った。
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