第87話 望まぬ者
奴隷の3人が宿の部屋に入るとそこには1人の仮面をつけた人物が立っていた。ゼフは部屋に入るとすぐにベッドに座りこちらに手招きする。
「好きなとこに座れ」
そう命令を下され、奴隷の3人は床に座る。
「さて、まずはそこにいるやつを紹介しよう。 名前はシルヴィアという」
シルヴィアはゼフにそう紹介されると軽くお辞儀をする。
「こいつはあるパーティの攻撃に特化した魔導士であり、予報士でもあった。 だが、見ての通りこんな状態になってしまっている」
「どうしてこのようになったんでしょうか?」
ニが質問すると、ゼフは不敵な笑みを浮かべる。
「俺がやった。 いや、少し違うな…… 原因は俺だがこうなったのはパラサイトという蟲によって行われたものだ」
「パラサイトっすか?」
「ああ、寄生する蟲型の魔物だ。 相手が絶望すればするほど寄生しやすくというものだ」
「それが原因というわけですか?」
「まあ、そういうことになる。 安心しろ、お前達にはそれをやる意味すらないからな」
奴隷の3人は声には出さないが、内心はとんでもない奴に買われてしまったと感じている。
「さて、サン。 お前の呪いを解いてやろう」
「ほ…… 本当に解けるんでしょうか……」
「簡単なことだ。 だが、残念ながら俺は解けん」
「でしたら、どうやって……」
「さっきの話を聞いてわからないのか? イチ、お前はわかったよな?」
「はい、おそらくご主人様は召喚士っすよね?」
「そうだ、そう判別した理由はなんだ?」
「それは、先程の話でまるで魔物を操つれるような表現で大体は絞れたっす。 決定的になったのは今この瞬間に何もいないのにできると言ったことっす。 それができるのは無から魔物を呼び出す召喚士だけっす」
「正解だ、わかったかサン」
サンは頭をゆっくり動かし、縦に振る。
「それじゃあ、さっさと始めるか」
ゼフがそう言うと小さな魔法陣が現れる、そう思ったのも束の間、魔法陣はすぐに割れ50cmはあろう脚の長いアメンボのような蟲が出てきた。
「こいつの名はアザメロウ、能力は際立ったものはないがその長い足を使って引っ付くことができるのと、低位の魔法しか使えないが、そのレベルであればどんな魔法でも使えるというものだ」
イチとニは説明を聞いているものの、明らかに自分達よりも強い蟲が一瞬で出てきたことに驚きを隠せない。ニはそれを見たからか行動に移す。
「ご主人様は召喚士と申しましたよね?」
ニが機嫌を損ねないように尋ねる。
「そうだ、何かおかしなことがあったか?」
「いえ、特にそうはないのですが、僕が今まで見てきた召喚士でこれほど強い蟲を一瞬で出せる人は見たことなかったので…… 少し驚きました」
「まあ、そうだな俺は蟲に関する事と召喚士としての能力に特化してるからな。 勿論それだけではなく、あらゆるものを削って手に入れた力だがな」
「それでこの領域到達したということですか。 凄まじい努力感服します」
「何を言っている。 俺はまだ成長できる」
「え?」
「だからこそ、今までできていたことをできなくしてるんだ。 それほど高く上り詰めなければ万が一のことがあってはならないからな。 まあ、そこらへんは蟲達にカバーしてもらう」
異常なまでの蟲達の執着。それだからこそ圧倒的に偏った能力をしているのかもしれない。だからこそさっきまで話していた人を簡単に殺すことができるのかもしれない。
「話は終わりだ。 アザメロウ、サンにかかった呪いを解いてやれ。 サンはそのまま動くな」
アザメロウはゆっくりとサンに近づくと、サンの右手の甲が白く光りだす。そして、数秒後右手の紋様が綺麗さっぱり消えていた。
「終わりだ」
ゼブがそう言うが、あれほどの呪いが一瞬にして消えたので、奴隷達はキョトンとしている。そして、最初に言葉を発したのはイチだった。
「ご主人様! 一体何したんすか⁉︎」
「解呪の魔法だ、おそらくこの世界では発掘されていない類の魔法だな。 それも仕方ないだろう毎日のように新しい魔法が出来る中でなかなか見つかるもんじゃないからな」
「低位の魔法でもできるということなのですか?」
「ああ、そうだ。 基本的にどんな魔法でも低位の魔法がある。 ただ、上に行ったほうがより強かったりするがな。 サンにかかっていた呪いは俺の能力により圧倒的に強化された蟲なら低位の魔法でも余裕というわけだ」
「私は…… 魔法を使えるのですか?」
「ああ、そうだ」
「わ、私は…… ううっ、うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
サンは大きく泣き叫ぶ、本当に嬉しかったのだろう。サンが泣き止むとゼフに感謝の気持ちを示すように寄り添う。ゼフはそれを無視して口を開く。
「さて、呪いも解けたことだし明日から行動に移そう。 最初は冒険者組合に行く。 そこからできれば奴隷を使った賭博場に行きたいな」
それを言った瞬間空気が凍りつくのを感じる。そんなことを無視してゼフは1体の蟲を召喚する。
「こいつの名前は蘇生蟲、1分以内なら死んだ生き物を生き返らせることができる。 運が良ければ明日から死んでもらうことになる」
それは奴隷果てしなく終わることのできない地獄が始まろうとする瞬間だった。
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