第72話 未知なる恐怖

レンはゼフから逃げた後地下へと続く階段を降りていく。その際、後ろを定期的に見て付いてきてないことを確認すると安堵する。


「まさか、デーモンがあんな簡単に……」


レンにとってそれは想定外のことであった。


「僕がゼフの力を見誤ったのか? 違う、そんなはずはない」


ゼフはデーモンをぶつければ、どんな相手にも勝てると思っていた。しかし、残ったのはデーモンを失い、力を失い、信用を失った自分だけだった。


「覚えておけよゼフ、近いうちにお前は後悔するだろう。 僕を生かして逃したことを」


レンは階段を下り切ると方向を確認して進みだす。そして、メッセージを発動させる。


「こちらレン、作戦は失敗した。 今、所定の位置に向かっている」


レンは万が一のため、地下にいる仲間達には失敗した時にメッセージを送ることと、指定した場所で合流することを事前に話していた。


(とにかく今は急いで合流しないと、それにもうこの街にはいられないしな)


レンは足早に移動する。だが、1分経ってもメッセージが返ってこないことに困惑する。


「おかしい…… どうしてメッセージが返ってこないんだ」


レンは深く考える。地上に多く護衛を配置したことで地下があることは勇者達以外にバレていないと思っていた。しかし、この状況では地下に配置した仲間が死んでいる可能性も考えなければならなくなってしまった。


(まずいな…… 上から入ってきたからバレてないと思っていたけど、あれはそう思わせるためか)


事態が更にまずい状態へと進んでいるのを感じ、歩くスピードが更に速くなる。


「だが、そうだとしてもこの広大な地下から僕の仲間の場所を割り出すのは困難なはず」


ふと、レンは足を止める。


「いや、奴は僕の知らなかった魔法を使っていた。 だったらやられてもおかしくないんじゃないか?」


レンはようやくゼフという化け物の恐ろしさを確認する。先程まで何もなかった体が少しずつ震えてくる。


(とにかく今は出口を目指すしかない)


レンは周りを警戒しながらゆっくり進んでいく。自分の足音が響き明るいながらも不気味さを増していた。


「なぜなんだろう、ここを進んではいけない気がする」


レンは勘だが、ここを進めば死ぬ気がしていた。


(どうして、どうしてこんなことに……)


レンはゼフに復讐する前に自分の今すら怪しい状況に立たされていた。


「遠回りになるけど、別の道を進むか」


レンは自分の直感を信じ、別の道を進むことにする。レンのその判断は正しかった。そのまま進めばその先には2体のデスGが待ち構えていたのだから。


「まさか、地下がここまで不気味に見えるなんて思わなかったな」


レンは恐怖を感じて進む。その理由は全てゼフが原因だとわかっていた。


(そういえば圭太達は結界維持施設に生きてる護衛者がいないと言ってたっけ?)


勇者達が言っていたことを思い出す。そして、1つの疑問が浮かび上がる。


(どうして護衛者は誰1人としてメッセージを送ってこなかったんだ?)


レンは施設には少ないにしろ100人程の護衛者がいた。しかし、4つの施設全てからメッセージはない。つまり、逃げだせたものはいないと考えるのが自然だ。


(ありえない…… そんなことを同時に行ったというのか? いや、待てよ。 もしも、ゼフが召喚する蟲にそういうのに特化した蟲がいたとしたら……)


レンの考えは悪い方向へと進む。頭の中はここを抜け出すことで精一杯である。角を曲がると、そこにはうずくまってる人影がいた。


「うわっ!」


レンは驚いて声を上げる。その人影は声に気づいたのかゆっくり顔を上げる。


「スライエルか…… どうしてこんなとこにいるんだい?」


レンは嫌な予感がした。ここにスライエルがいるということはゼフの罠の可能性もあるのだから。


「助けてくれ…… レン。 私は…… 私は……」


レンがスライエルの服の中からゼフが召喚したレギニオンが出てきたのをしっかりと確認する。不気味さから後ずさる。

そして、スライエルは目を見開き口を開く。


「死にたくない」


それを言った瞬間口の中から、次々と大量の生物が出て

くる。それは大きさが様々なレギニオンだった。


「なんだ! くそ! 来るな!」


レンは急に出てきたレギにオンに剣で斬りかかり次々と殺していく。このような行動がすぐにできたのはレンが警戒していたからだと言える。しかし、スライエルの体内から次々と出てくる。


(流石に数が多すぎる)


レンは剣を腰にしまい、背を向け逃げ出す。その間もレギニオンは湧いてくる。横目で見ると壁の僅かな隙間からも出てきているのが見えた。


「なんであんな雑魚に僕が逃げ出さなければならないんだ!」


レンはある程度距離を取り後ろを向くと鳥肌が立つ。それはまさに波。レギニオンが天井や壁に隙間なく張り付き、追いかけてきていたのだ。レンはすぐに前を向いて逃げる。


(これはやばい)


流石のレンも焦り出す。


(追いつかれる)


レンは今人生で一番早く走っている気がしていた。しかし、レギニオン達はそれを凌駕するスピードで迫ってきている。

レンは焦りからか転んでしまう。後ろを向くと巨大な波が今まさにレンを襲おうとしていた。


「いやだ! こんなところで僕は死にたくない!」


レンは叫ぶが無情にもレギニオン達はレンに覆いかぶさるように襲いかかる。


「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


身体中にレギニオンが張り付き、喰われる感覚に襲われる。レンの意識はそこで飛んでしまった。レンは勘違いしているかもしれないが、レギニオンとは集団でこそ力を発揮する危険な蟲であったのだ。それを、レンは知ることはなかった。











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