第57話 夜
勇者達はパーティを楽しんだ後、会場から気づかれないように抜け出す。
たった一時間という短い時間だったが、久しぶりにリフレッシュできた気がする。
そのまま圭太の部屋に向かうとそこには既にレンが待機していた。
「よし、集まったみたいだね。 今はパーティで人は来ることはないと思うから少しぐらい大きな声を出しても大丈夫な筈だよ。 だけど、一応気をつけてね」
レンがそう言うと圭太は慌てて口を開く。
「そうですね! 分かりました。 皆んな、今から始めるけどいいかな?」
「大丈夫よ」
「いいぜ」
「私も大丈夫です」
「それじゃあ…… レンさんお願いします」
レンはニコニコしながら立ち上がると一呼吸置いて口を開く。
「とりあえず最初にもう一度だけ自己紹介さしてもらうね。 現ギルドマスターのレンと言うよ。 皆んなよろしくね」
レンが挨拶をしたので勇者達も一人ずつ順番に口を開く。
「勇者の真里亞よ」
「勇者の翔太だ」
「…… 勇者の歩夢です」
「さて、まずはどうして僕が圭太に協力者として選ばれたかを話そうと思う」
レンが圭太の方に視線をやると圭太はレンが何を言いたいのかを察し口を開く。
「いいですよ、その方が皆んなの不安も取れると思うので」
「ありがとう、圭太。 簡潔に言うとその理由は僕が洗脳されていないからだよ」
「それは分かってるわ。 それよりも貴方がここにいても大丈夫な理由を教えて頂戴」
レンは真里亞に問い詰められると微笑む。
「分かった…… その理由は簡単だよ。 僕は現皇帝に良い感情を持ってない。 寧ろ、今の皇帝にはやめてもらったほうがいいと思っている。 これで理由にならないかい?」
「ここまで皇帝に反逆的なことを言えるのなら危険じゃないのかしら……」
圭太の事を信じるなら首謀者は皇帝であり、それにいい感情を抱いていないレンは信頼に値する事になる。
真里亞はそんな事を俯きながら少し考え、それに納得したのか顔を上げ縦に頷く。
「どうしてそれが理由になるんだ?」
そこに翔太が口を挟む。
「簡単だよ、魔晶石を使って洗脳しているのは皇帝だろ? それなのにレンさんは反逆的な行動や発言をしている。 つまり、魔晶石の洗脳から逃れているという事。 だから、危険ではないと判断できるというわけだよ」
「そういう事か…… ありがとう、圭太」
「これで分かってくれたかい?」
レンのその問いに圭太はもちろん、真里亞と翔太は納得している。
だが、それも仕方ないだろう。
何故なら圭太はレンにこの街の現状などいろいろ聞いたが、どれも間違っていなかったのだから。
それに勇者と言ってもまだ子供だ。
不安だったのだろう。
だから、根本的なところは何も考えずに信じているのだ。
そして、そんな圭太が信じているからこそ真里亞と翔太は疑うことない。
翔太はあまり理解していないようだが……
(本当に信じていいの? 私には分からない…… 一体どうすれば……)
歩夢がそう考えていると声が掛けられる。
「歩夢、大丈夫かい?」
「え…… う、うん大丈夫だよ」
「良かった、何か思いつめた様子だったから。 もし、何かあるならいつでも相談してよ」
「…… ありがとう、圭太」
「それで歩夢はどうかな?」
「はい、私もなんとなくですが分かりました」
レンはそれを聞くと微笑む。
「そうか…… 良かった。 みんなが理解してくれたところで早速のだけど次の話に移ろうと思う」
全員がそれに頷く。
「まず、圭太から教えてもらったけど、集まった仲間の人数は僕達五人を抜いて10人ほどらしい。 そこで、チームを五チームに分けることにする」
全員の反応を見ながらレンが続けて話す。
「そのチームの詳細だけど、これを見てくれた方が早いと思うから圭太配ってくれ」
圭太はレンにそう言われると勇者たちに一枚の紙を配る。
そこには、チームのメンバーとどこに配置されているかが書かれていた。
歩夢の配置は西の結界維持施設だった。
「全員分かれて行動するのね……」
真里亞がボソリと呟く。
「こればっかりは人数が人数だからね」
「どうやって侵入するんだこれ?」
「そこらへんも大丈夫だよ。 まず、僕が配置されている皇城で大きな騒ぎを起こす。 そうすれば、それぞれの結界維持施設は手薄になると思う。 だから、その隙にできるだけ早く壊して欲しいんだ」
「分かったわ、それで一体どんな奴が守っているのかしら?」
翔太と歩夢は真理亜からの突然の質問に驚く。
そんな事全く考えていなかったからだ。
レンは微笑みを浮かべながらそれに答える。
「ああ、いるよ…… でも、どんな奴がいるかまでは分からない。 だけど、強さで言えば冒険者ランクSの者達が守っているのは分かっている」
レンが発したその言葉に全員の顔つきが厳しくなる。
それもそうだ、なんたって勇者達はまだSランクより少し強い程度だったのだから。
だから、もしかすると負けてしまうかもしれないと全員が理解していたからだ。
「みんな大丈夫だよ。 学園でしっかり学んでいれば負けることはない。 でも、念のため強化アイテムを配布しておくよ」
「それなら…… 大丈夫だな」
「それで、いつやるのかしら?」
「そうだな…… 五日後が一番手薄になって成功率が高いと思うから、その日にしよう」
勇者達は意外に早いことに驚き、そして覚悟をこの場で決める。
しかし、歩夢は別の事で不安だった。
だから、明日この事を話そうと決意する。
自分の判断は間違ってない、そう信じ心に決めるのだった。
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