第51話 調べ

 あの悲惨な事件が起こってから早くも五日が経とうとしていた。

 歩夢は次の日からゼフの能力になどについて聞き出すことに成功していた。

 勿論、最初は疑われたがそれも今となってはすぐに教えてくれるまでになった。

 ゼフは息を切らして特訓に励んでいる生徒達を見つめながら口を開く。


「今日はこれで終わりだ。 帰っていいぞ」


 ゼフは生徒達にそう言うと、ぐったりと地面に尻をつく。

 そして、五分もしないうちに挨拶をして戦闘場から出ていく。

 そんな中、歩夢だけは出て行く事はせずににゼフに近づいていく。


「今日も何か聞きたい事があるのか?」

「…… はい」

「それで今日はどういう事について教えて欲しいんだ? 魔法の事か? それとも蟲の事か?」

「いえ、今日はゼフ先生の召喚士としての能力について教えて欲しいです」


「…… そうか、俺が理解してる範囲に限るができるだけ話そう」


 歩夢はこの四日間で魔法について聞けるとこまで聞いだが、蟲を使えばこの世界にある魔法なら大抵は使用可能ということを歩夢に教られた。

 その時は非常に驚いたが、今はもうそれが普通だと自分に言い聞かせている。

 だから、今回もそのつもりで話を聞く準備をする。


「ありがとうございます、まずは…… ゼフ先生が召喚できる蟲の数を教えて下さい」

「数か…… そうだな、俺が把握してる限り1000万というところだな」

「1000万ですか!」


 歩夢は驚きのあまり声を上げてしまう。

 歩夢自身は現在召喚できたとしても七種類が限界であり、改めてゼフの規格外さを知る。


「これはあまり驚くような事ではない。 お前も召喚士という職を極めればいつかはこうなる。 それにこの数は俺からすれば言って少ないしな」

「そうなんですか……」


 歩夢は魔法ですらゼフが規格外の存在であり、それが召喚士の事となると想像もつかないという事は分かっていたので、ある程度覚悟はしていたがそれでも頭が痛くなるほどである。


「それで他に何かあるのか?」

「はい、あります。 ゼフ先生が前に言っていた全てが終わるという蟲とは一体どういう蟲何ですか?」

「どういうか…… それは難しい質問だな……」


 ゼフは困ったように呟く。


「難しいですか?」

「そうだ、そもそもその蟲は一体ではないからな」

「一体じゃない……」


 歩夢は前に言っていた全てを終わらすことができる蟲は一体だけだと勘違いしていたのでそれに絶句する。

 確かに断定はしてなかったと自分の勘違いを恥じるとともにそれを実際見てみたいという好奇心と一体どうなるのかという恐怖で支配される。


「次の授業までの時間的に一体しか話すことができないが、どうする?」


 歩夢は少し考え口を開く。


「今日のところはそれでお願いします」

「分かった…… まず種族は終焉種だ」

「終焉種?」

「そうだ、こいつらは固有の能力があり、それのせいか存在するだけで全てに影響が出る。 強さは言わなくても分かるだろ?」

「なるほど…… それでその蟲の名前はなんて言うんですか?」

「名前はコア・クリムゾン。 能力は熱を操る」

「熱ですか? 炎とかじゃなくて?」

「ああ、こいつは熱気で生き物を殺す。 最高温度の上限はなく、範囲はこの星ぐらいなら余裕でいけるだろうな」


 歩夢は平常を保ちながら聞いてるが、もしもこの蟲が放たれたと考えると恐ろしくて仕方がなかった。

 だが、それでもその時の為と質問を続ける。


「…… それを召喚したらゼフ先生自身も危ないんじゃないですか?」

「それは大丈夫だ、コア・クリムゾンは能力を皇都くらいの範囲まで抑えることができるし、 温度も500℃まで落とすことができる。 だから、その範囲にいなければ問題ない」

「そうなんですか…… それで詠唱時間は一体どれくらいなんですか?」

「だいた一日といったところだな」

「一日ですか…… 分かりました」


歩夢はそろそろ時間がまずいと思いメモ帳に今教えてもらった事を書き終えると、それをバックにしまい肩にかける。


「今日はありがとうございました。 私はそろそろ授業なんで行きます」

「ああ、分かった。 気をつけろよ」


 歩夢は扉の前で礼をするとそのまま戦闘場から出ていく。

 そんな一人残った戦闘場でゼフは呟く。


「警戒されてるな…… まぁ、仕方ない事だろう」


 ゼフはそんな事を言いながら不気味な笑いを浮かべる。


「だが、俺の能力を知ったところでお前らはもう詰んでいる。 無駄な努力だ」


 ゼフはそう言いながら自分も帰る準備を始めるのだった。


✳︎✳︎✳︎


 あれ程眩しかった日差しも落ち、街に光が照らされ出される頃、あらゆる人が街を出歩く。

 皇都の夜は他の街に比べると長く、賭け事をして楽しむ者、食事や酒などで盛り上がる者、娼館に入って夜を共にするものなど様々である。

 そんな光景を楽しみながらゼフは道の真ん中を歩く。


「初めて出てきたが、賑わってるな」


 ゼフが今回、夜の街に出てきたのはある事をするためである。

 それは魔晶石を管理している者達のところへ尋ねることである。

 学園長の話によると、魔晶石は皇帝の指示のもと高名に隠されているらしい。

 そして、それは皇帝自身の元に置くのではなく、別の場所に管理者を置き、そこに保管しているらしい。

 ただ、洗脳できる石なのだから学園長や皇帝が操られている可能性も否定できない。

 だが、初めて掴んだ糸口。

 決して離すわけにはいかない。

 それはそうと、ゼフはここまで何もしなかったわけではない。

 最も疑ったのは皇帝だったので皇城やそれに基づき地位の高い者の家などを探知蟲で捜索していたのだ。

 だが、残念ながらそれらしき反応は見られなかったのだ。

 それでも別の収穫はあったし、結果的に辿り着けたので良しとする。


(まぁ、そのおかげでわざわざ学園長に寄生させるために人探しをしなくてはならなかったがな。 そこは俺の力不足だな……)


 沢山の人混みの中ゼフはそんな事を考えて歩いていると、目の前に目的の人物を見つける。

 それはロングヘアーの美しさが一際目立つ娼婦である。

 ゼフは近寄ると話しかける。


「すまないが、スライエルが営む店はここか?」

「そうですよ」

「ゼフという者だが会えるか?」


 この娼婦にスライエルという名前を出し会う事ができるか聞くと、娼館とは別の場所に連れて行かれるらしい事は予め学園長から聞いていた。

 だからか、娼婦は真剣な表情で口を開く。


「貴方はそっちの客ね。 いいわ、ついてきて」


 そう言うと娼婦は誰も寄り付かないような薄暗い道に入っていく。

 ゼフもそれに続く。


「そういえば貴方、誰からこのこと聞いたの?」

「この事は学園長から聞いた」

「ふーん、なるほど。 それだと一応安心ね」


 しばらくすると、古い木の扉の前につ辿り着く。

 そこで娼婦は立ち止まると口を開く。


「ここから先が貴方が欲しいものが手に入る場所よ」


 そう言うと娼婦はゆっくり扉を開ける。


「しっかり私について来なさいよ」

「ああ、わかった」


 ゼフはそう答えると、静かにそれについていくのだった。















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