第31話 侵攻

 セレロンから歩くこと五日、そこにはグレスペルグという魔族の街が存在した。

 そこの魔王は聡明であり、魔族から慕われている存在である。

 しかし、現在とあることに頭を抱えていた。


「あのメッセージはどういうことだ?」


 先程グリンガムからメッセージを受け取ったのだが、その内容は理解に苦しむ内容だったからである。

 しかし、冗談でやるような奴ではないということも知っており、それの対策を考える為にとある魔族を待っている。

 すると、丁度というべきか、扉がノックされゆっくりと開く。


「失礼します」


 そう言いながら入ってきたのは白髪の美青年である。

 服装は整っており、その美しい顔に非常に合っているように思えた。

 また、その容貌から沢山の異性に好かれるだろうとも考える。

 

「急に呼び出して悪いなノエル」

「滅相もありません。 私、ノエルはアウスゴレア様のものでございます。 全ては魔王様の御心のままに」

「そうか…… では本題に入らしてもらう。 実は先程グリンガムから受け取ったメッセージのことなんだが」


 アウスゴレアはノエルにメッセージの内容を全て話す。

 かなり驚いているようだったが、少しそれについて考えると、落ち着いた口調で話し始める。


「なるほど…… 理解しました。 つまり、魔王様は私に意見を聞きたいということでよろしいでしょうか?」

「話が早くて助かる。 そういうことだ」

「それでしたら軍を動かしてみてはどうですか?」


 アウスゴレアは黒髭を撫でながら考える。


「だが、気がかりなところがある」

「ゼフというものですか?」

「それが一番だが、それよりも進軍とメッセージで言っていた。 つまり、そのゼフという者は軍を大量に率いてる可能性がある」

「一先ず防衛の準備をすると言うことでよろしいですか?」

「ああ、頼む。 流石に三つ以上同時に攻めることはできないだろうからな。 攻められなければそれでよし。 攻められたら他の魔王から敵の情報を集め、作戦を練ろう」


 ノエルはアウスゴレアが言ったその内容を納得するように頷く。


「それがよろしいかと。 しかし、もし他の魔王達から情報を聞き出せないまま敵に敗れてしまった場合はどうするおつもりですか?」


 アウスゴレアはノエルを見つめながら微笑む。


「その場合はないだろう。 腐っても魔王だ。 少しは耐えるだろうからな」


「了解しました。 では情報の真偽はともかく、一先ずはそういうことでよろしいでしょうか?」

「ああ、それで頼む。 おそらく攻められるのは早くても三日と思って行動せよ」


 ノエルは頭を下げて出て行く。

 部屋には静けさが残り、アウスゴレアは拳を強く握りしめ怒りに震える。


(どんな奴だろうと許さん…… たった一人の魔王を倒したぐらいで調子に乗りやがって…… 魔族を劣等種と罵ったことも含めてじっくりとその身に味わわせ、後悔させてやる)


 アウスゴレアは怒りを抑えながら仕事の続きを始める。

 しかし、彼らはこの時大きな勘違いをしていた事をこの時は知る由もなかった。


✳︎✳︎✳︎


 場所は移り変わってセレロンでは、現在魔族達を蹂躙する準備を着々と進め、それを終えようとしていた。

 ゼフは近くで大人しくしてるグリンガムの方を見て口を開く。


「おい、魔王」

「…… なんじゃ?」

「この街はお前が守れ」

「当然じゃ、ワシは魔王じゃからの」

「それと三日で帰って来る。 その後、お前には大量に仕事を振るから、準備だけしておけ」

「三日じゃと? お主は何を言ってるんじゃ?」


 グリンガムはこの人間が何を言っているか理解できず、つい聞いてしまう。

 そもそも移動だけでもそれ以上かかるだろう。

 ゼフはそんな愚かな質問に笑いながら答える。


「お前もメッセージで言っただろ。 三日やると」

「じ、じゃが…… あれは三日準備期間をやるという意味では……」


 グリンガムは自信満々に答えるゼフに恐怖を覚えながらも、自分があの言葉の意味を勘違いしているのだと気づく。

 そして、この男はそれをやってのける事ができると思っていると。

 そんな考えを肯定するようにゼフが口を開く。


「何を言ってるんだ? あれは魔族が降伏するまで三日やると言ってるんだ」


 この人間は一切自分の能力について疑っていない。

 そのことがさらにグリンガムをさらに震え上がらせる。


(もしかすると、ワシは最初に襲われて幸運だったのかもな……)


 グリンガムがそんな事を考えていると、ゼフが話を続ける。


「それでは行ってくる」

「待つのじゃ!」

「なんだ? やる事は全て伝えたつもりだが?」

「街の中にいる蟲達はどうするのじゃ?」

「この街に置いていき、防衛にあたらせる」

「それだとお主がいくら規格外だからといっても、召喚数にそろそろ制限が来るんじゃないのか?」

「ああ、そのことか。 それなら問題ない」

「問題ないとはどういうことじゃ?」「召喚数は決まっている蟲もいるが、今召喚した蟲は全て制限なしに召喚できるほどの弱い蟲だ。 だから、心配はいらん」

「それは本当か!」


 グリンガムは声を上げ驚く。

 何故なら、普通は召喚士は魔物などの召喚数が決まっている。

 だが、ゼフにはそれがないと断言したからである。

 そして、セレロンに召喚されている約3000体もの蟲達はグリンガムからすれば強い蟲なはずなのにそれを弱いと言い切ったからというのも理由の一つである。


「ああ、本当だ。 それに連れて行かないのはある実験をしたいからな」


 グリンガムはその実験という言葉に引っかかる。

 恐ろしいことに間違いない。

 しかし、それよりも好奇心が勝り、恐る恐る口を開く。


「…… 実験とはなんじゃ?」

「大したものじゃない、新しく召喚できるようになった蟲を召喚するというものだ」

「…… そうじゃったか」


 そこまで恐ろしいものではないことに安堵するが、恐らくその蟲も自分よりも強いであろうことは明らかである。


「見せてやろうか?」

「…… 良いのか?」


 グリンガムはつい好奇心からか答えてしまう。

 それを聞いたゼフは笑いながら、口を開く。


「今回は特別だ。 来い、デス・シザー」


 そう言うと、巨大な魔法陣が地面に現れ、25秒後割れる。

 そして、そこに現れたのはサソリを15m程に巨大化し毒針の部分やハサミの部分、肩などに紫色のクリスタルがついてる恐ろしい外見の蟲だった。


「これは、デス・シザーという蟲だ」


 ゼフは新しい蟲を召喚できたことが嬉しいのか無邪気な笑顔を浮かべている。


「強そうじゃの……」

「ああ、強い。 そして、便利だ。 こいつはクリスタルからあらゆる毒成分を含んだ致死性のガスを散布できる。 これを使えば都市を傷つけずに占領できるからな」

「そうなのか…… 恐ろしい魔物じゃ」

「所詮はその程度だがな……」


 グリンガムは改めて仲間になって良かったと感じる。

 そして、ゼフがもう自分達を殺さないだろうと勘違いしているグリンガムは安堵の息を漏らす。


「それでは今度こそ行ってくる。 さっき言ったことは守れよ」

「分かったのじゃ」


 そう言うとゼフはデス・シザーの大きなハサミで持ち上げられて頭に乗せられる。

 そして、ゆっくりと進み出したのだ。

 



















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