第23話 化け物

 ゼフは蟲達に逃げる者を殺すように、言葉を発さずに指示する。

 これで情報が漏洩するのはないはずだ。

 そして、ゼフは厄介な能力を持っているインスを見据える。


(まさか嘘がわかる能力を持っているとはな……ということはこれまでのことは茶番だったというわけだ。先に殺しておくべきだったな)


 ゼフは自分の過ちを反省する。

 そして、最大減の警戒する。

 インスに会ったのは今日が初めて。

 つまり、自分のことがバレることは、ここで消してしまえば無いと考える。


「死ぬ前に何か言い残すことはないか?」


 キールは侮れない相手だと肌でヒリヒリと感じていた。

 そして、もう分かり合うことはできないのかと、甘いことを考える。


(いや、決めていたはずだ。こうなった以上殺すしかない)


 キールはゆっくりと口を開く。


「一つだけ……もう罪は償う気はないというんだね?」

「当たり前だ、俺は悪い事をした訳ではないのだからな」

「そっか……もう無理なんだね。分かった、ここでお前を殺して、罪を償わせる!」


 キールが鬼の形相でそう叫ぶが、ゼフはつまらなさそうにそれを見つめる。

 そして、ゆっくりと口を開く。


「少し遊んでやる。攻撃は先に譲ろう」

「随分と傲慢だな」


 キールはそう言うと、次の瞬間勢いよく飛び出した。

 キールはこの世界で出会ってきたどの魔物よりも速かった。

 一瞬でゼフとの距離を詰める。


「だが、それがお前の敗因だ」


 キールはそう言い、剣を勢いよく振り下ろす。

 単純な攻撃、だがキールは現にこの攻撃で数多の魔物を屠ってきた。

 ゼフは召喚士である故か、物理防御力は低い傾向にある。

 ゼフにそれを避ける術はないと思っていた。

 だが、剣はゼフの身体に届くことなく、弾かれてしまう。

 一瞬、何が起こったのか分からなかったキールだが、それを冷静に分析した結果、一旦距離をとる為に後ろに下がる。

 それを見たゼフは得意げに話し始める。

 

「残念だが、お前は召喚士の能力を理解してないみたいだな」

「いや、そんなことはない。仲間から十分な程聞いている」

「だったら、俺自信が受けるダメージを蟲達が代わりに受ける。そんな能力があるのを知っていたか?」

「それはあり得ない! そんな能力があるなんてエルエスは言ってなかった!」

「そんなことを俺に言われても困るんだが……おそらくダメージを与えてくるような強い奴に出会わなかった、というのが一番の理由だろうな」


 そう、勇者というのは強い。

 故に勇者同士が争わない限り、気付くことができなかったのだろう。

 それに召喚士が少ないというのもそれに拍車をかけている。

 ゼフがそれを答えてやると、操蟲達に命令を出す。

 すると、操蟲達が自信の能力を使い、身体を元の大きさに戻し、服を破って出てくる。

 その数は左右三体ずつの計六体である。

 操蟲達は久々に出てきて喜んでいるのか、奇怪な声で鳴き叫び、勇者達に威嚇する。

 それを見たキールが叫ぶ。


「インス! アレックス! いくぞ!」

「ああ、分かった」

「ええ、そのつもりよ」


 キールはアレックスと共に再びゼフに詰め寄る。

 その速さは先程よりも速く、連携は非常に整っていた。

 インスは前で二人が注意を惹いてる間に、安全な位置から魔法の詠唱の準備に入る。


「その程度で勝てると思うなよ。相手してやれ操蟲」


 ゼフが命令を下すと、操蟲がキール達が放った斬撃その硬い甲殻で弾く。

 だが、キール達は懲りずに再び別の角度から幾度も剣や斧を斬り込む。

 勿論、それも全て弾かれる。

 目の前で行われる勇者達と操蟲の攻防。

 どちらも譲ろうとしない。

 だが、それは意外にも早く訪れた。


「アレックス、一旦下がるぞ!」

「ああ!」

「インス! 今だ!」


「待ってたわよ! 行くわよ! 『ディザスターキャノン』ッ!!!」


 キールとアレックスが下がったタイミングで、インスが魔法を発動させる。

 その魔法はディザスターキャノン、この世の終わりを思わせるほど強烈な光がゼフに降り注ぐ。

 キール達はアヴェインとシルヴィアを抱えて、そこから全速力で離れ、建物の残骸に隠れる。

 凄まじいまでの爆音と強烈な光が終わった後、顔を出すと、巨大な砂煙が周囲を覆っていた。

 キールは体を出して、ゆっくりと口を開く


「終わったみたいだね」

「今回も同じ作戦で勝っちまったな。なんか面白みがないな」


 そう話していると、砂煙を避けるようにしてインスが近づいてくる。


「あの魔法で生きてたら、私達が束になってやっと勝てる化け物よ」


 ディザスターキャノンは最強の範囲攻撃魔法であり、直撃を食らえば災害級の魔物や、勇者でさえ一撃で倒すことができる程の強力な魔法である。

 だが、欠点としては一分近い詠唱時間と莫大な魔力を消費する。

 だが、たとえ蟲達が代わりに受けたとしても、無事では済まないだろう。


「さて、とりあえず帰ってこの事を報告しないとね」

「ああ、そうだな」

「は〜、せっかくのいい男が勿体無いわ〜」


 勇者達はすでに祝勝ムードだ。

 そんな彼らを見ているアヴェインがシルヴィアの手を握る。

 そして、笑顔を向け話す。


「君は僕が守るよ何が何でもね」


 男の決意を表す言葉。

 そう思ったのもつかの間、何処からともなく声が聞こえる。


「そうだ、アヴェイン。シルヴィアは何が何でも守れ」


 その声に勇者達やシルヴィアは驚く。

 額に嫌な汗が流れる。

 ありえない、そうあり得ないのだ。

 もしかしたら、かなりのダメージを負っているのではないか。

 そんな淡い期待を抱きつつも、砂煙から姿を現したのは、傷一つないゼフの姿であった。


「嘘でしょ!? あの魔法で無傷ですって!」


 インスは発狂に近い叫び声をあげる。

 砂煙が消えると、半径一〇〇m近いクレーターができており、それを確認する否や勇者達の警戒信号が響き出す。

 敵は化け物だと。


「残念だが、下位魔法なら傷一つ付かない。それならデスワームを召喚した方が幾分かマシだ」


 勇者達はその言葉に絶句する。

 だが、流石は勇者と言ったところだろう、行動をすぐに移す。


「インスは詠唱! アレックスは俺と一緒に行くぞ!」

「残念だが、お前達の番は終わりだ。次は俺の番だ」


 ゼフは魔法を称えると、巨大な魔法陣が二つ現れる。

 そして、そこに現れたのはインセクト・ドラゴンであった。

 しかも二体である。


「あれはやばいわ! キール!」


 インスは危険を察知し、叫ぶ。

 だが、キールはそれを感じながらも呟く。


「ああ、分かってる。それでもこいつを……この化け物を殺さなければ人間が危ない。それに他のの種族だって……」


 キールは恐怖しながらも、なんとかして口を開いていた。

 今まで自分は傲慢だった。

 それを今になって思い知る。

 

「今更後悔しても遅い。『ロック』ッ!」


 ゼフがその魔法を唱えた瞬間、インス以外の勇者達の身体が重くなる。

 理解ができない勇者達は叫ぶ。


「なんだ!? 身体が重くなってる!」

「インス! これは!」

「わ、分からないわ! 何の魔法なのよ!」

「ククク、これは弱体化魔法だ。相手の全能力を二割減らす。ちなみに重複可能だ」


 そう言いながら、更にロックの魔法を何重にもかけ続ける。

 そして、とうとう勇者達は動かなくなり、地面に這いつくばってしまった。


「くそ! 体が動かない!」

「キール、どうする?」


 そう言われたキールは目を瞑り口を開く。


「本当にすまない……僕が頼まなければ……」

「安心しろ、死ぬときは一緒だ」


 アレックスはその言葉に笑いながら答える。

 キールはそれを見て、つい涙が溢れてしまう。


「喰らいなさい! この化け物!」


 インスはその間に詠唱を完了させており、再びディザスターキャノンを放つ。

 だが、それもインセクト・ドラゴンに吸収されるようにかき消される。

 インスがそれを見て、絶望したのを確認した後、ゼフは弱体魔法他の勇者同様にかける。

 すると、あっさりと倒れる。


「やはり勇者と言ってもその程度か」


 最強と言われるレベルがこの程度。

 ゼフはそれに胸を躍らせる。

 そして、ゆっくりと口を開く。


「インセクト・ドラゴン、勇者を殺せ」


 そう命令すると、インセクト・ドラゴンは片足をあげる。

 そして、勢いよくインスを踏み潰した。そして、もう一体のインセクト・ドラゴンは同様にアレックスを踏み潰す。

 その光景を見たキールは、絶望の表情を浮かべている。

 ゼフはそんなキールに近づくと、キールが口を開く。


「お前の目的はなんだ?」

「俺の目的か。そうだなまずは最強の冒険者になるつもりだ。次はそうだな世界征服でもやってみるか?」

「フッ、いつかお前は負ける。その時もお前は今のような余裕が保ってられるか、化け物め」


 それだけ言い残し、キールはインセクト・ドラゴンに踏み潰された。


「負けるか……今までで数え切れないほど俺は負けている……覚悟が違うんだよ」


 ゼフはシルヴィアとアヴェインに近づき命令する。


「アヴェイン、お前はここで死ね」


 そう命令すると、アヴェインは元気に返事をし、躊躇なく首を剣で掻っ切り倒れる。

 血が飛散する中、シルヴィアはそれを見て叫び涙を流す。


「殺しなさい……私にはもう何もないわ」


 ゼフはそんな状態のシルヴィアを見て、ある蟲を召喚する。


「来い、パラサイト」


 出てきたのはイソギンチャクような、手の平ぐらいの大きさの蟲である。

 そして、出てきたと同時に透明になる。


「シルヴィアに寄生しろ」


 パラサイトは首の後ろから、シルヴィアの体内にはいりこむ。

 そして、シルヴィアは先程の態度とは打って変わって元気よく立ち上がる。

 因みにアヴェインにも寄生していた。

 

「絶望の値が大きいとこれだけ早く寄生できるのか。やはり使い所だな」


 ゼフは感心すると同時に、予報士が手に入ったことに喜ぶ。


「シルヴィアには予報士について聞かせてもらおう。その為にお前を生かしたんだからな」


 ゼフはシルヴィアを連れて、聖街に向かい歩き始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る