第24話 報告
ゼフとシルヴィアは行きと同じ時間かけ、聖都に戻って来た。
久々の街に宿屋のベッドが恋しくなるが、疑われる事を避ける為、寄り道をすることなく冒険者組合に向かう。
その途中、ゼフはシルヴィアにある命令をする。
「俺が全て話す。お前は黙って相槌だけしておけ」
「ええ、分かったわ」
「それと、向こうが何か言ってきたら、分からないとだけ答えろ。後は俺がやる」
「ええ、分かったわ」
ゼフは単調に答えるシルヴィアを見て、パラサイトという蟲の使いづらさを実感する。
本来であれば今までと同じように喋り、行動するはずだが、シルヴィアにはそれが当てはまらない。
追々、それも調べなければならない。
ゼフはそんな事を考えながら、念の為にラージュという幻覚魔法を使う。
すると、二人の服が汚れ、所々破けている格好になる。
もちろん見た目だけなので、触られれば一発アウトだ。
暫くして、冒険者組合に着くと、勢いよく扉を開けた。
そして、ゼフ達は迷わず受付嬢のところへ向かう。
「すまない、取り急ぎギルドマスターに会いたいのだが、大丈夫か?」
「ゼフ様、大丈夫でございます。他の方々はどうされました?」
「それについては……今ここでは言うことはできない。全てギルドマスターに話すから、後から詳しいことは聞いてくれ」
「分かりました。それでは、マスターに伝えて参ります」
受付嬢がそう言い奥に姿を消すと、ゼフ達は椅子に座って待つ。
隣に座っているシルヴィアだが、街に帰る時予報士の知識をパラサイトを介して教えてもらった。
勿論、その時も詳しいことまで分からなかったが、概ね理解はできた。
予報士の予報はランダムであり、その時最低回避条件も提示されるということだ。
それが予報士としての能力である。
正直、これならまだ何とかなるレベルだ。
だが、一つ懸念すべきことがある。
それはシルヴィアの持っている情報が間違っていた場合である。
所詮はシルヴィアの記憶から取り出した情報。
完璧ではないというのは当たり前だ。
だからこそその可能性を考慮しなくてはならない。
そんな事を考えなから待っていると、先程話した受付嬢がこちらに近づいてくる。
「ゼフ様、シルヴィア様、ギルドマスターが呼んでおります」
「分かった、すぐ行こう」
ゼフは立ち上がり、案内された通路を進み始める。
道中は少し暗い気がしたが、冒険者組合の裏の部分なので仕方ないだろうと割り切る。
暫くすると、ギルドマスターの部屋と大きく書かれた看板を見つける。
そして、扉の前に立ち、二回程ノックする。
すると、入るように促す声が聞こえたので扉を開ける。
入った時に感じたのは、豪華な部屋という感想だ。
正面の机には、七〇後半から八〇前半であろう白い顎髭を生やした爺さんが座っていた。
そして、意外なことにもう一人、鎧姿の青年がギルドマスターの隣でこちらを見つめていた。
「よく来てくれた! 座ってくれゼフくんシルヴィアくん」
「では、お言葉に甘えて」
ゼフはこの街で見たことのない高価そうな椅子に掛ける。
それを見ているギルドマスターは、こちらを真剣な表情で見つめ、鎧の青年は横に立ったままだ。
作法というのは分からないが、何も言われないので大丈夫だろう。
「さて、ゼフくん。ワシは君が何が言いたいか見当がついてる。だが、まずは自己紹介をしようではないか。ワシはこの聖都のギルドマスターのアイドリッヒだ。そして、隣にいるのが勇者の一人のデープだ」
「よろしく」
勇者という言葉につい、顔をしかめてしまう。
しかし、仮面をつけているからか、それがバレることはない。
心を落ち着かせ、ゼフは口を開く。
「俺はゼフという、よろしく。そして、隣にいるのがシルヴィアだ」
アイドリッヒがそれを聞き頷く。
そして、数秒後口を開く。
「では、ゼフくん。勇者達との王都の遠征で何があったか話してくれるかのう?」
「分かりました。では、まず本来ここにいるはずだった勇者達とアヴェインのことです」
「ふむふむ」
「単刀直入に言います。彼らは死にました」
「なっ!?」
その驚きは隣の勇者からのものだった。
顔が変形しているのではないか、と思うほどの驚き方で少し面白かった。
ギルドマスターは平静を保っており、妙に落ち着いている。
「どういうことだ、ゼフ殿!」
勇者は興奮しながら、ゼフに詰め寄る。
「事の経緯を話すと、俺達は順調に森を進んでいた。だが、魔物と出くわさなかったことを不思議に思い、進むか撤退するかを話し合ったんだ」
「ふむ、確かにそれは妙じゃの。それでどうなったんじゃ?」
「そこから、みんなで決めて進むことになった。そして、森を出たとき見えたのは崩壊した王都だった」
それを聞いたデープは再び驚きの表情を浮かべる。
表現豊かな奴だ。
だが、隣にいるアイドリッヒはそれを聞いても表情一つ変えず聞いている。
「なるほど、それで王都は街として機能してないと?」
「ああ、そういうことだ。その後、戦力外な俺とシルヴィアは森の入り口で待つことになった。勇者達は王都に生き残りがいるかもと調査に行ったんだ」
「そこで何かあったということか!」
デープは再び興奮を抑えきれずに叫ぶ。
「そういうことだ。そこにはありえないほど巨大なドラゴンが現れた。勇者達やアヴェインはそのドラゴンに蟻を踏みにじるかのように圧倒的な力を見せられ敗北し、殺された。俺とシルヴィアはこのことを報告する為急いで聖都に戻ってきた。まあ、途中で迷ってしまって一日かかったがな」
「なるほど、大体のことは分かった。ご苦労じゃった、今日は宿に戻り休むといい」
「正直かなり疲れていたから、感謝する」
「それと報酬は受付嬢に受け取っといてくれ。ゼフくんとシルヴィアくんのランクも一気に上げてAにしとくわい」
アイドリッヒは不気味な笑顔を向ける。
ゼフはランクが急に上がったことに浮かれていたからかそれに気づかず、頬を緩めながら口を開く。
「感謝する、何かあったら宿の方にまで来てくれ」
ゼフとシルヴィアはそう言い残し、足早に出て行った。
しばらく沈黙の時間が流れ、アイドリッヒが口を開く。
「お主の目から見てどうじゃ? デープよ」
「……自分はかなり怪しいと思います」
「そうか、ワシも何か隠してる気がしてならん」
「言ってることは合ってると思います。ただ……」
「言っていないことがあるか?」
「はい」
「確かにそうかもしれんな。だが、ワシらはまだ手を出すことはできん。もう少し様子を見よう」
「分かりました、それとこれはお願いなんですが…… もし、彼が何か大きな事件を起こした時、僕に任せてもらえませんか?」
「ああ、いいじゃろう。だが、ゼフくんもAランクとなった。もし、勇者を殺した犯人なら大胆な行動は慎むじゃろうな」
「そうですね、できればゼフでないことを祈りたいです。それに、他の勇者にはこんなことが起こらないように注意しときます」
「頼んだぞ、それよりもゼフが言っていたドラゴンについて調べなければならないのう」
「それについてはお任せください」
「では、頼んだ」
その日、二人はそこで会話を終える。
そして、その後はれぞれの職務を全うしたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます