第6話 強者
男達三人はゼフの前に立ち止まると、こちらを見て不気味な笑顔を向ける。
「……何の用だ?」
「ヘッヘッヘ、新入り。ちらっと聞こえたが、お前さんの職業召喚士らしいな」
まず初めに一番大柄な男が口を開いた。
腰に剣を刺してることから、剣士系の職業の可能性が高い。
だが、飾りとして付けている可能性も高い。
探知魔法を使うと、予想通りの雑魚だった。
一応、隠蔽魔法を使って、雑魚のフリをしている可能性があるので、いつでも逃げれる準備はしておく。
「そうだぜ、新入り。召喚士が冒険者になるなんて難しいだろう。だから、俺達が特別に稽古つけてやるよ」
次に二番目に体が大きな男が話し、小柄な男は笑いながら頷く。
どちらも長さは違えど、剣を持っている。
「それで、断った場合どうなるんだ?」
「まぁ、それはそれで痛い目を見ることになるが、B級冒険者の俺たちの話断ることはないよな?」
ゼフは先程から魔法を使っているが、何もしてこない。
隠蔽魔法を使っていたとしても、ここまで好き勝手されるのはメリットが無い。
つまり、相手は圧倒的な格下なのは確定だ。
「来い、ガシガシ」
ゼフがそう呼ぶと、三つの小さな魔法陣が現れ割れる。
すると、足元にノミをそのまま大きくしたような五〇cmほどの蟲が、威嚇しながら三体現れる。
だが、男達の表情は余裕そのもので未だ危機感すら覚えていないようだった。
「そうか、それは断るっていうことか。仕方ねぇ、何の魔物か知らねぇが、召喚士の使う魔物なんて大したことねぇだろ。やるぞ」
一番大柄な男が命令すると、ニヤつきながら剣を抜く。
他の二人も片手剣と短剣を構えていた。
それを見ていた周りの冒険者は楽しそうに歓声を上げる。
「お前達の強さを確かめさせて貰うぞ」
「謝るなら最後だぞ?」
「喋ってるなら、かかって来い」
「お前らこいつをボコボコにして、一生動けない体にするぞ!」
「やれ、ガシガシ」
ゼフがそう命令すると、今まで我慢していたものが解き放たれたかのように、ガシガシが凄まじい跳躍力で飛びかかり、その鋭い牙で噛みつく。
その攻撃を男達は、反応すらできずにそのまま牙が食い込んだ。
「ぎゃあああぁぁあぁ!!!」
悲鳴が組合に響く。
先程まで元気にしていた周りの冒険者も異常事態に全員が全員黙り込んでしまう。
「やめろ! この糞蟲が! 俺の腕を離しやがれ!」
「があああぁぁあぁ!!! 肩があああぁぁあぁ!!!」
男達はそれぞれ別々の箇所をガシガシに噛まれており、大量の血が吹き出していた。
ある者は腕を、あるものは肩を。そして、ある者は首を噛まれて息絶えていた。
(ガシガシの動きに反応すらできないか……予想通りだな)
周りを見ると観客は黙りこみ、身動き一つできずにいるようだ。
受付嬢もただ傍観しているだけで何もしない。
どうやらこれほどの騒ぎを起こしてもギルドは関与しないようだ。
三人の男達に目をやると、もがき苦しんでいる。
血があらゆるところに飛散し、もはや虫の息である。
そして、ゼフはそんなもがき苦しむ男達を見てつい笑みがこぼれる。
「どうした? B級冒険者も大したことないな」
ゼフがそう投げかけるが、返事はない。
どうやら、既に三人とも息絶えてしまっているようだった。
「死者への手向けだ。死体は綺麗に残ず食べてやろう」
ゼフがチラッと周りを見ると、傍観者達はあまりの出来事に頭が追いついてないようだ。
ゼフは冒険者達の表情を一人一人確認しながら口を開く。
「お前らもやるか?」
そう言うが、冒険者達は頭を振って、次々とその集まりから解散していく。
結局彼らは何も言えずただ見ているだけだった。
「ビートルウォリア、来い」
ゼフがそう口にすると、入り口から新たな蟲の化け物が入ってきた。
それを見た冒険者や受付嬢の顔色が悪くなる。
「この人間共を喰え。喰い終わったらそこで待機していろ」
命令すると、ガシガシ達とビートルウォリアが三人の冒険者を食べ始めた。
その光景は恐ろしく、直視できないほどだ。
そして、早速沢山の人々に気づかれる形で殺してしまったことを後悔するが、恐怖で何もできないだろうと判断し、掲示板の方へ向かった。
✳︎✳︎✳︎
「あの男死んだな」
今冒険者になったばかりの男が、この組合で最も悪名高いと言われているビリーズ三兄弟に絡まれていた。
ビリーズ三兄弟に絡まれた者達は、冒険者を復帰出来ないほどの怪我を負わされることで有名だった。
だから、他の冒険者もおいそれと口が出せないのだ。
「まぁ、俺たちはただあいつらが機嫌を損なわないないために、盛り上げる役をするだけだ」
それを一人の冒険者は小声で言う。
そして次の瞬間、新しく冒険者になった男は魔物を召喚していた。
どうやら召喚士のようだ。
(なんだあの魔物は?)
そう思い、近くの冒険者に聞いてみる。
「何の魔物かわかるか?」
だが、その冒険者は顔を横に振る。
「いや分からん、ただ蟲の魔物みたいだがな……」
「そうか……」
そして次の瞬間、その魔物はビリーズ三兄弟に飛びかかっていた。
その動きは全く見えなかった。
「なっ!?」
周りの冒険者も同じことを思ったのか驚いた表情をしている。
そして、先程まで元気だった奴らが急に静かになった。
その理由は簡単である。
ビリーズ三兄弟は苦痛に顔を歪ませ、息絶えていたからである。
ふと、新入りの顔を見ると薄ら笑いを浮かべている。
(こいつ……なぜ今のを見て笑ってやがる)
冒険者は次は自分かもしれない、そう思うと体が震えてくる。
周りにはどうやらあの光景を見て動ける奴はいないようだ。
「お前らもやるか?」
そう聞こえると、冒険者は生存本能が働いたのか、その言葉を察し頭を横に振り次々と解散していく。
そして、男が何か口にすると、新たな蟲の化け物が入り口が入ってくる。
今日は本当に最悪な日だ。
(あれは絶対に逆らってはいけない。もし、生きてここから出たらすぐに別の街へ移動しよう)
それを心に誓い、ただ男が出ていくのを端で震えながら待つしかできなかった。
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